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自分らしく
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彼方から 第三部 第九話 改め 最終話

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「娘よっ!! 娘の方を捕まえるのよっ!!!」
「お……」
 チモなど、どうでも良いわけではないが、今は違う。
 逃すわけにはいかないのだ、彼女を――【目覚め】を。
 つい先刻来たばかりのドロスが、詳しい事情など知るはずもないのだから、『大事』な方を選ぶのは致し方ないのだが、自分が『捕まえて』と言ったのは娘なのだ。
 その意図を解さないドロスに、どうしてもイラ立ちが先行してしまう。
 遠くなってゆくノリコの背を見るだけで、直ぐに動くことの出来ないドロスが、腹立たしくてならない。
「ええい、このグズッ! 役立たずっ! さっさと追って!!」
 タザシーナは、自分のことを心配して来てくれたドロスに感謝することも無く、ただ、思い通りに動いてくれないことに怒り、口汚く罵っていた。

     ************

 細い木々の林……
 その隙間を縫って、ノリコは走り、逃げ続けた。
 タザシーナから……ドロスと言う男の人から……
 逃げられるのなら、タザシーナに突き付けられた『真実』からも――

   『ノリコ』

 イザークの言葉が蘇ってくる。

   『樹海でのことは忘れろ』

 真剣な口調も、その、眼差しも……

   『誰にも言うな』

 あの時は、何故そんなことを言うのか分からなかった。
 分からないまま、彼がそう言うのなら忘れよう、誰にも言うまい……そう思い、そう約束し、今日まで来た――

 ――イザークのあの言葉……

 もう、『分からない』ままでは、いられなくなった。
 『何も』知らないままでいることは、出来なくなってしまった。

 ――彼は知ってたんだ
 ――このことを……!

 ――ああ、それじゃあ

 樹海で初めて会った時のことが、脳裏に浮かぶ。

 ――自分を【天上鬼】という化物に変えてしまうと知っていて
 ――彼はどんな思いで
 ――あたしと接していたんだろう……

 胸が詰まる。
 鼓動が、速まる。

 ――平気だった、わけがない……

 唇を噛み締める。
 瞳が、熱い……

「ちっ……こんなところにコナの林がっ!!」

 後ろから、人の声が聞こえて来る。
 二人が、追い付いて来たのだと分かる。

「だめだわ、密集し過ぎて飛び業が使えない――考えたわね、あの娘!」

 木々を揺らしながら、林に入り込んでくる。
 直ぐに追い付かれ、捕まってしまうかもしれない――そんな不安と恐怖が、足を動かしてくれる。

「ドロス!! わたしの後ろについて何をやってるの! 挟み撃ちにするのよっ、あっちから追って!!」
「あ……ああ」

 タザシーナの怒鳴り声が、林の木々の合間に吸い込まれてゆく……
 彼女の声音に急かされるように、ノリコは林の奥へと――より、木々の密集している方へと足を向ける。

 ――最初の頃の、戸惑った顔
 ――どこか冷たく、突き放した態度 

 ――ガーヤおばさんの家に
 ――あたしを置いて行こうとしたあの日

 ――それに発作の時
 ――あたしが近づくと特に不機嫌になったのも……

 ――それだったんだ
 ――それが原因だったんだ!

 今まで分からなかったことの全てが、それで説明がつく。
 思い当たる、納得が出来る……
 ……出来てしまう。

 呼吸が乱れて、うまく走れない。
 二人の足音が……草を掻き分け近付いてくる足音が、聞こえて来る。
 想いが、急かされる。
 否応も無く、募ってくる――

 ――なのに……
 ――あたしがくっついてくるから……

 涙が――滲む……

 ――いっつも泣きそうな顔して
 ――必死に彼に縋りついていったから

 鼻の奥が、ツン――と、痛む。

 ――ほっとけなくて……
 ――優しい、人だから

 苦しくて、辛くて……足が止まってしまいそうになる。
「ええい! チョロチョロと!!」
 直ぐ、背後で、タザシーナの声がする。
 その声が、止まりかけた足を動かしてくれる。

 ――だから
 ――全部一人で、背負い込んで……
 
 ガーヤの言葉が、頭に浮かぶ。

   『イザークはあんまり人と深く関わるのを好まないんだよ』

 今なら、その理由(わけ)が分かる。

 ――あたし……

 ――いきなりこの世界に飛ばされたのはきっと……
 ――きっと何か役目があるんだって
 ――そう思って、ずっと自分を支えてきた
 ――これが…………

 ――これがその『役目』だったの!?

 イザークを【天上鬼】へと【目覚め】させる、役目……
 誰が、そんな役目を担いたいだろうか。
 一体誰が……

 彼も、イザークも同じだ。
 誰もが忌み嫌い恐れる――そんな存在に、なりたいわけなどない。
 嫌だっただろうに、怖かっただろうに……
 それなのに、樹海では花虫から助けてくれた。
 長い間一緒に旅をして、言葉を教えてくれた。
 この世界で暮らして行けるよう、生活習慣も教えてくれた。
 一人で途方に暮れなくても良いように……預け先まで、選んでくれた……
 
 いくらでも『違う』方法を、選択できただろうに……
 イザークは、一体どれだけの強さと優しさを、持っているのだろうか……

 そんな彼の『優しさ』に、自分はただ、縋りついていただけなのだと、ノリコはそう思えてならなかった。

     *************

   ククク……
     サスガダ

      ギリギリノトコロデ
    侵入ヲ止メテイル

 黙面の思念が、余裕に満ちている。
 タザシーナの協力があったとはいえ、最大の破壊力を持つと予言された【天上鬼】を我が身の内に捕らえ、動きを封じ、剰え、反撃に転じる余裕すら与えぬ攻撃を仕掛けているのだ……
 やはり、己が力の方が上なのだと、黙面はそう、自尊していた。 

   シカシ ドウシタ
      少シズツ『力』ガ 弱マッテイルゾ?

    モハヤ 時間ノ問題ダナ

 自尊はやがて、相手への侮りとなる。

    サキホドノヨウニ
        『力』ズクデ 吹キ飛バスカ?

   ヤッテミセルガイイ
     今度ハ マトモニハ 喰ラワン

       ソノ力 吸収シテ
     外部ヘ放出シテヤル
     
 見下し、過小に評価し始める。
 自身の『力』を、過大に評価し始める。
 そして自尊は慢心となり……警戒は薄れてゆく。

    ソシテ
      ソノ隙ヲツイテ
  キサマノ体内ニ 入リコム……

 相手がどのような『能力(ちから)』を持っているのか……
 我が身を半分にまで減らしたほどの『力』を持つこの男が、何故、大人しく捕らわれたままでいるのか……
 慢心に捉われた心では、そのような疑念を持つことすら、なかった。

    ……フハハ 勝ッタナ!
       
         我ノ 勝チダア!!
 
 愉悦と確信に満ちた思念が、伝わってくる。
 その思念を、定まった形のない黙面の体内で感じ取りながら、イザークは、意識を集中させていた。
 静かに……『力』を、集約させていた。

          ***

 ノリコの気配が遠去ってゆく……
 直ぐにでもここから抜け出し、助けに行きたい衝動を、何とか抑え込む。