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その両手をポケットにしまいたい。

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「あやてぃー!何頼んだの~!」蓮加は綾乃まで聞こえる声で言った。
「スポーツドリンクだよ~!」綾乃は精一杯の声で蓮加に返した。
「スポーツドリンクか……」蓮加は美波に言う。「蓮加もスポーツドリンクでいいや。みなみんは?」
「私はアサイー・ボウル頼む」美波は蓮加に答える。「まだあんまり食べてないから、お腹減っちゃって」
 梅澤美波が三人を代表して、電脳執事のイーサンに注文をした。
 稲見瓶は音楽に合わせてダンスの練習をする和田まあやを眼で追っていた。ちょうど、音楽とダンスが終わったので、拍手する。
「やあ、さすがだね」稲見はほんのりと笑みを浮かべてまあやに言った。「三期生より先にやめなかった。体力も先輩だね」
「はーあちい。そう?」まあやは肩のタオルで汗を拭いながら稲見を一瞥する。「そんな事ないよー。あっちの方が先にいたもん」
「ああ、そうか」
「イナッチどのダンスが一番好き?」まあやはアクリル・パネルで仕切られている稲見の隣のソファ・スペースに座った。「ダンスだよ? ダンス」
「白米様と意外ブレークと、アナゴ」稲見は無表情で答えた。「気が利かなくてごめんね」
「夕君はなあに好きなんだろう」まあやは呼吸を整えながら囁いた。
「夕は、アゲインストの踊りが好きみたいだよ」稲見は淡々とまあやに言う。「夕はカッコイイのがいいらしい。俺はどっちかというと、可愛いのがいい。波平は確かセクシーなのがいいって言ってたね、ブリーフィング・ルームで。ダーリンと駅前さんの好みは知らない。あの二人はブリーフィング・ルームに来ないからね」
「曲は何好きなの?」まあやは稲見の方を振り返って言った。
「帰り道は遠回りしたくなる。がいい」稲見は抑揚ない声で答えた。「ダンスの好みとは異なるけどね。それを言うと、夕が好きなのはありがちな恋愛とか、ひと夏の長さよりとか、泣いたっていいじゃないかだ。波平は逃げ水とか、裸足でサマーがいいらしい。楽曲の好きと、ダンスの好きとが統一的じゃないのがそれぞれ面白い」
「へー」まあやは小さく何度か頷いてみせた。
「まあやがオーディションで歌ったのは、確かAKBだったよね」
「えーと、何だっけなあ」まあやはそう言って、思いついた顔で稲見に言う。「ポニーテールとシュシュだ。あそうだ」
「俺がオーディションを受けるなら、ひとりよがりを歌う」稲見は眼鏡の位置を指先で修正しながら言った。「気持がわかるからね」
「えと、どういう歌だっけ……」
「なーりーたーいーとーねーがーあーたーあー、ひとりー、よーがりー」
「それでオーディション受けちゃうんだ?」まあやは不思議そうに苦笑した。「え本番もそうやって歌うの? てか何でそんな途中から……」
「本番は最初から歌うよ」稲見は無表情で説明する。「ちょうど思い出したのが、今のところからだっただけ」
「今本気で歌ったの?」まあやは不思議そうに、笑った。
「歌ったけど。本気とか、あるの? 歌う事に」
「あーるよー」
「じゃあ本気」
「イナッチって面白いね」
「まあやちゃんには負ける」
「あのさあ、夕君の背中にあるタトゥーって、好きな人の名前入ってんでしょ?」まあやは稲見を一瞥して言った。「誰? 誰の名前入ってるの?」
「一応、内緒という協定を結んでるので、言わない」
「乃木坂なんでしょう?」まあやは眉を上げて言った。
「乃木坂だね」
「単推しなんだ、じゃあ」まあやはそう言ってから、納得したようにもう一度言う。「あ単推しだったのがあ、箱推しになったんだ?」
「どうだろうね」
「ふーんまあいっか」まあやは溜息をついて、呟く。「はーなんっか、たーのしい事ないかなー……。せっかく自粛期間終わったってのに」
「あるよ」稲見は、その言葉に急いでこちら側に振り返ったまあやに、にこりと笑みを浮かべた。「八月の初めに、ここ<リリィ・アース>でお祭りをする。三日間連続でやるよ。浴衣を着て、友達を誘ってくるといい」
「祭り?」まあやは眼を丸くする。「お祭りって、あの、出店とか?のやつ?」
 稲見瓶は頷く。
「金魚すくいとか?」まあやは驚いたまま質問を続けた。「チョコバナナとか?焼きそばとか?」
「そうだね。きっとある」
「おっちゃんはどっから来るの?」
「ん、おっちゃん、とは?」
「お店のおっちゃんよー。綿あめの店のおっちゃんとかぁ、金魚すくいのおっちゃんとか」
「ああ、おっちゃんね。なるほど。お祭りの運営は夕と俺がやる。店の従業員は全員、ファースト・コンタクト、つまりうちの会社の社員達がやる事になってるよ。若い人達だから、おっちゃんはいないと思うけどね」
「資材とか、どうやって搬入するの?」まあやはきょとん、と言う。
「大物搬入搬出用の大型エレベーターがあるよ。今回はたぶん、そのエレベーターを使わないで、俺達がいつも使ってるエレベーターで搬入すると思うけど。屋台の資材なら組み立て式ので、充分入るからね」
「え、普通外でやってるお祭りを、この地下でやるって事ぉ?」まあやは顔を驚かせたままで言った。
「ライティングも暗くしてね。普段気軽にお祭りに行けない乃木坂の為に夕が企画したんだ。みなみちゃんと与田ちゃんのリクエストに応えたとも言ってたけど」
「え、今七月の月末だから……すぐじゃん!」
「そうだね」稲見は頷く。「そろそろ用意が始まる頃だよ、世界のファースト・コンタクト正社員達だからね。ちゃんと害無く店のおっちゃんをやってくれるよ」
「みんな知ってんの?」
「今夜ぐらいから、みんなに情報解禁するみたいだよ。夕と波平と俺が基本的に乃木坂に連絡する形だね」
「えどうやって?うちらのライン?とかメールとか知ってるっけ?」
「規定違反だから、もちろん誰も個人情報はセンサーとなる開閉のパスワードしか知らない。イーサンが訪れたメンバー達にそれぞれ報告してくれるようになってる。後は、こんなふうに、面と向かって報告、かな」
「へー。あねえねえ!」
 和田まあやは三期生達の方に、大声で向かって行った。稲見瓶は組んでいた足を組み替えて、そちらを優雅に眺める。
「楽しくなるといいな」
 そう呟いて、稲見瓶は眼鏡の位置を修正した。

       8

 二千二十年八月四日、この日<リリィ・アース>地下二階はその広大なフロア一面に祭りの屋台を幾つも配置していた。フロア中心にある星形に五台並んだエレベーターの前にやぐらが組まれており、ふんどし腹巻の男が太鼓を叩いている。現在フロアに流れている音頭は『アラレちゃん音頭』だった。
 夕暮れがかったような薄い朱色のライティングを背景に、自然と行列の出来ている屋台もあった。
 無論、全ての客は乃木坂46の現役メンバー達と、元乃木坂46のメンバー、それに乃木坂46ファン同盟の五人のみである。
「あ、夕君、お久しぶりです」美月は笑窪を作って微笑みながら、綿あめに夢中だった夕に言った。夕が大袈裟にそちらに向く。「綿あめおっきくないですか?」
「美月ちゃん、ハッピーバースデイ」夕は右手の指先でキュンを作って言った。「直接言える日が来るなんて、あー、もう今日は特別すぎる」
 山下美月はほくそ笑む。黄色が印象的な幾何学模様の浴衣姿だった。