原作アレンジ、クロノトリガー
実験ではありえない事だった。あらゆる金属を試して万が一にもそういった異常なトラブルが起こらない様に配慮していた。
ルッカの動揺は計り知れないもので、クロノも、このままでは祭典の継続すら危ういと思った。
人が死んだかもしれない。
その悲劇もさることながら、クロノはルッカの日々の苦労を観ていた。何年も苦労して完成させた装置、それが原因で人々が待ち望んだ千年際を台無しにし、人の命さえも奪ったかもしれない。
クロノがもしルッカの立場なら生きていけないだろう。自殺だってありうる。
クロノはその先を考えたくなかった。
死んだ気になれば人は何でもできるという。
「ちょっと! 何をするのクロノ!」
ルッカが気付いたときにはクロノは既に装置の電源を入れ起動スイッチを押していた。クロノの首には先ほどマールが落としたペンダントがかけられている。
「やめて! クロノ!」
装置は先程と同じく、電源を落としても動き続けている。
ルッカは電源コードを斧で切断し、完全に電流を遮断したが、それにも関わらず装置は起動し続けた。
クロノはマールと同じように空間の裂け目にすいこまれた…
○
クロノの視界にトンネルが広がっていた。
テレポートの実験は通常一瞬で終わる筈のもので、トンネルの中を前進していく様なものでない。
クロノは10秒以上、トンネルを前進している。
実験では5mのテレポートは一瞬の出来事だった。仮に0.1秒で5m進むとするなら、クロノはもう10秒以上その穴の中を進んでいるから、500mは進んだ事になる。500m先に出口があるのか、もしあったとして岩の中だったら重なって爆発して死ぬだろう。あるいは500m上空に転送されたり500m地面の中だったら…
ルッカとの実験で危険があることは証明されていた。それを考えてゾッとするクロノ
余計な事を考えると不安になるだけ。もう引き返せない。
クロノは祈り続けた。
身体は動かせるもののどうにもならない。ただ流されるままだった。
トンネルの先に光が見え、抜けた時、
森が広がっていた。
山の中、木々が生い茂る中に放り出された。
ここはどこだろうかと考えるよりも先にクロノは安堵していた。
その場にへたり込んで笑った。
自分が助かったのだからマールも助かったろうし、ルッカの将来も助かった。
いっとき、生きる屍の様になっていたクロノにとっては生きかえる気分だった。
笑いが止まらないクロノ、浮足立つ。しかし、早くマールを探してルッカの元に帰られなければならない。流石に心配させすぎだろうから。
山を降りる途中、ガルティア城が眼下に見えた。クロノは直線距離にして1キロ程度ワープしたことになる。
マールとは5分と間を開けてないから、急いで降りれば合流できるかもしれない。クロノはいそいそと山を下った。
山を降りると千年際会場敷地の裏側に出る位置だろうから、この位置ならマールも道に迷う事もないだろう
しかし、見えない。千年際会場がない。
見渡すとリーネの鐘はある。ここにルッカや見物人が多くは居たはずなのに誰もいない。
夢でも見ているのか。自宅に帰ってみるも、家がない。家がないどころか、街自体おかしい。
大昔にある様な水車小屋や牧場、井戸。
まるで過去にタイムトラベルしたかの様な光景。
クロノは落ちてる新聞を拾った。
日付、ガルティア歴600年。クロノは400年前にタイムスリップしていた。
新聞の広告にはガルティア国、戦争兵募集中と書いてある。
何かの間違いだ、夢に違いない、夢ならやってはいけないことをやってもいい。と半ばヤケクソ気味にガルティア城の門を叩いた。
「お、貴様志願兵か? にしてもヒョロい身体だな。そんなんじゃ面接の段階で落ちるぞ」
現代の王宮には、一般市民がやすやすと入れるものではないが、クロノは志願兵と思われ、すんなり入れた。
「まあ、頑張れや若いのー」
門番は朗らかに微笑んだ。
クロノは王宮に入るのは初めてだった。テレビで王や護衛を見かける事はあっても生で見るなんて初めてだった。
クロノはやはり夢でも見ていると思った。
人としてやってはいけないことができる。
そう思ったクロノは王室の寝室を荒らす事にした。
クロノは堂々と王宮の上階に上がった。
王族部屋の入り口、衛兵は偶然にもクロノと入れ違いにトイレに篭っていた。今日はたまたま下痢であった。
そうとは知らないクロノは寝室に突入した。
「だ、だれ?」
「た、助けに来てくれたの?」
ドレスや髪飾りで分からなかったが、
寝室にいたのはマールだった。
抱きつくマール。
クロノはまだマールだと気付いていない。
「実はわたし、ここに無理矢理連れてこられたの。リーネ王妃と勘違いされて…。でも私見ちゃったの、山で人がさらわれていくのを見たの。しかも犯人は…」
マールがその先をいいかけた瞬間、光に包まれた。
マールは光を振り払おうとするが、光は消えない。
マールは不安だった。千年際で闇の穴に引きずりこまれたのと反対の感情。
闇は怖かったけど、温かかった。クロノに声が届いてるような気がした。でもこの光は真逆で、クロノにもう、声が届かなくなるような冷たく寒い、存在が消される恐怖に支配された。
「こわい、こわいよ…」
マールは消滅した。
クロノは何が起きたのか理解できないでいた。
マールが世界から消滅したこと、夢の続きだと思い、ふらふらとベットに横たわっていた。
眠たくはないクロノだが夢の続きをどうするか考えた。
一階のシャンデリアのある大広間には王様が偉そうに座っていたから何か面白いイタズラをしてやろうと、駆け足になった。
一階の広間にはルッカがいた。
「良かった、無事だったのねクロノ」
「いい、よく聞いて、私達は400年前にタイムスリップしてきたの」
「クロノが消えたあと、あのペンダントが残されてて、鉱石の波長を調べてみたの。特殊な波長だったから、その波長を再現することができれば同じことが起こるかもって。」
「クロノとあの娘がゲートに飲み込まれるとき、ペンダントだけは飲み込まれなかった。もしペンダントはゲートをくぐれない仕組みになってて、もしゲートの向こう側からペンダントがないと帰れない仕組みになっているなら、誰かがペンダントと同じ性質のものを持っていかないとって、思ったの」
「一か八か、このまま人生生き恥晒すくらいなら飛び込んでやったわ。」
「でも、まさか過去にタイムトラベルしているなんてね(笑)
世紀の大発見よ!おホホホ!
休止に一生、転んではタダじゃ起きない私!
流石のわたし、天才ルッカ様だわ!」
「で? あの娘はどうしたの?
まさか行方不明になりました。なんて言わないわよね?」
クロノはしどろもどろにならながら縦に頷いた。
「はぁ? 命がけで女の子を助けに来といて、、ひとりでベットでゴロゴロして、王様にイタズラしてやろうとしてただって?」
ルッカの怒声が場内に響き渡る。
会場にいる誰もがクロノ達を凝視した。
我を忘れて説教をしているルッカと
放心状態のクロノを門番は抱えて外に放りした。
作品名:原作アレンジ、クロノトリガー 作家名:西中