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GLIM NOSTALGIA

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 その他金属に対して主に用いられる試験法というなら、衝撃試験や硬さ試験といったものになるだろう。衝撃試験は、一般に、振子式のハンマーを対象物に振り下ろして試験片を切断、その切断時に要したエネルギー=衝撃値を求める試験である。つまり、この場合で言えば、この金属片を破壊してみて、どのくらいの衝撃(力)を与えた際にそれが起こるのかを調べ、それによりこの金属片のじん性を知る、という形になるだろう。また、硬さ試験とは、押し込み、反発、引っかきの大きく分けると三つの方式に分類される実験だが、これで調べるのは、硬い物体をその対象となる材料に押し付けた時に生じる変形に対する抵抗、つまり硬さである。
 硬さ試験の場合、押し込みにしても反発にしても、また引っかきにしても、少なくともこの金属片より硬いものが必要になる。反発方式ならそれでも、上から硬い物体を落下させ、跳ね返った高さで高度を計測するというものだから、他の二つよりはいくらか実現させやすそうではあるが。
 それらの試験法に関する大まかな知識と、ここが司令部内の一資料室であるという現状を踏まえ、エドワードが選んだのは、少々無茶のある衝撃試験と反発式試験、それからもうひとつ、耐熱試験だった。溶解させることで融点や形状変化を調べ、これが一体どんな金属元素を主として生成された物なのか、その純度はどの程度なのか…限度はあるが調べられないかと思ったのだった。
 この金属片が件の町の産であり、かつ、これだけがあの町の奇跡の壁をすり抜けるとして、その秘密はどこにあるのか。見たところ、触感といい光沢といい、ただの鉄版といった雰囲気なのだが…。
「…でも何かあるはずなんだ」
 ひとりごちて、エドワードは指を噛んだ。
「……」
 そしてちらりと己の右腕を一瞥する。
「…壊したらオレが壊されるな…確実に…」
 スパナを振り上げる幼馴染の姿を連想して、彼は背中を奮わせた。地獄の獄卒だって、たぶん機械鎧がらみの幼馴染よりは怖くないに違いないとエドワードは信じていた。
 しかし機械鎧を身長に置き換えれば自分だって似たようなものだとは、エドワードは気づいていない。

 鉄が人間の生活に姿を現したのは古く、千年単位で昔のことであるという。鉄器を初めて用いた民族は圧倒的な武力で他を圧し、一大帝国を築いたと。
 エドワードはその歴史には実は興味を持っていた。なぜなら、古代の鉄器や青銅器の中には、高度な技術力を以って作られたものが数多くあるからだ。それらはありえないほどの純度を実現しているという。だが、専門家でなくとも疑問に思う所であるが、誰が如何にしてその技術を持ち、為しえたのだろうか?
 ファンタジーで処理しても問題はなく、それはロマンとして捉えるべきなのかもしれないが、錬金術は関係なかったのだろうかとエドワードは思ったことがある。古代、錬金術が既に存在し、ある程度の発達を見ていたのだとしたら――?
 それらは賢者の石の研究とはまったく違う、趣味の考察である。何の脅迫的切迫のないそれらの考察は、エドワードのお気に入りの現実逃避の一つでもあった。
 いかにして古代の人間は土の中からそれら望む金属、時には目に見えない細かな成分を探り出し、純度高く形成したのか?古代の鍛冶師達はあるいは今で言う錬金術師の側面を持っていたのでは――?
 もしも賢者の石を手に入れ、自分達の目的をかなえたら、そんな罪のない夢想をして穏やかに過ごしていくのも、案外いいものかもしれない。そんな風に思うこともあった。
 だからその実験をするにあたってはそれなりに真面目な覚悟があったものだが、始めてみてからは一瞬そういった目的や意志を忘れていたのも事実だった。
 だが、金属片が変化を見せれば、そんな楽しい想像もしていられるものではなかった。
「…?」
 …その変化は、しかし、思っていたよりもすぐに現れた。実験を始めて、およそ二時間といったところだ。もっとかかるかと思っていたのだが。
 エドワードは首を捻った後、今度は驚きに目を見開いた。
「…そんな、…でも、…」
 おかしい、と呟きながら彼は金属片を単純に叩いてみた。反応は確かに金属なのだが…?
 少年は黙り込み、そして腕を組んで難しい顔をしていたが、やがてかぶりを振ると大きくため息をついた。それから自棄になったように髪をぐしゃぐしゃとかきあげて、…ちくしょう、と悔しげに呟く。
 視線は、ステージ上の金属片達に吸い寄せられる。実験により変形したり変色したりしている金属片の中、変形させなかった金属片と、思い出したようにくっつくかどうか試してみた磁石の存在があった。資料室のホワイトボードについていたので、ついでとばかり試してみたのだ。だが、この金属片は、磁石に反応しなかった。単純に言えば、要するにこれは鉄ではないのだろう。もう少し付け加えるなら、磁性がない、あるいは極端に弱い物、…だろうか。
「…恨むぜ、おっさん」
 昨夜「鍵」をよこしてきた男の顔を思い浮かべながら少年は毒づき、それから資料室の壁掛け時計をちらりと確かめる。
 今頃はあの男は車中の人だろうか。私服を着ていれば、なんでもない一般人のようにも見えなくはないあの男のことだ、うまくやっているのだろうとは思う。今頃気楽な汽車の旅の気分で、乗り合わせたご婦人と話が弾んでいるところかもしれない。
 そんな風に気を紛らわせてもみるが、結局それがエドワードの心に定着することはなかった。
 当たり前だ。
 今のエドワードは、ロイが、自分がソフィアに行くことが決まっていたのに、あえてエドワードを遠ざけようとしたことを知っているからだ。ロイに決まる前にエドワードが候補に上がっていたのに、それをあの男が遠ざけたことも。そして、エドワードはけしてロイのことが嫌いではなかった。会えばどうしても憎まれ口の応酬になってしまうものの、ほかの大人に比べ、彼は格段に…なんというか、エドワードにとってはやりやすい、好ましい人物だった。恐らく信頼もしていた。他のどんな他人よりも。
「……あんたにゃ、…借りもあるしな」
 誰にともなく言い訳して、肩をすくめてから、少年は立ちあがり部屋を片付け始めた。金属片のすべてを懐に収め、そうして彼は、資料室を後にする。電話を借りるために。
 連絡先は既に聞いて覚えていた。

 取次ぎの副官に告げられた名に、初老の男は軽く目を瞠った後、嬉しそうに細めた。
「まわしてくれ」
 受け取ると、挨拶もそこそこ、会話を切り出す。
「気持ちは固まったかな」
 相手からは実に可愛げのない返事があったが、まあ、彼からしたら可愛いものだ。若々しくて、幼くて。
「――よろしい。では、切符を手配しよう。今から言う場所に向かってくれ。セントラルステーション六番ホーム…」
 相手は聞き返したりしなかったが、覚えているかどうかを疑う考えは男にはなかった。


作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ