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GLIM NOSTALGIA

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 機密だからとか、勘ぐられたくないとか、そういった部分は確かにある。だが、アルフォンスに話すことでロイの側の人間に知られることを恐れたのが一番大きかった。エドワードは、ロイには秘密にしてソフィアへ向かいたかったのだ。それは彼なりの複雑怪奇な思考の末に導き出された結論だ。
「…わかった」
 溜息をついて、エドワードは降参した。どの道、エドワードはこの弟にはよほどのことを除いて勝てないのだ。それは兄貴の弱みとでも言ったものだったかもしれない。どんなに自分よりしっかりしていても、体が大きくても、弟は弟なのである。引いてやるのも度量だった。
 そうしてセントラルの何度か泊まったことのある宿に先に数日分の宿代を先払いし、弟を残して単身エドワードは発ったのだった。
「…ごめんな、アル」
 エドワードは小さく窓に向かって謝った。面と向かっては言えないけれど。



 気が遠のいていたのは一瞬だったのだが、気づいたら町の中で医者らしき者に手当てを受けていた。それはいいのだが…。
「ありがとうございました、ドクター」
 自分の斜め後ろでにこやかに、張りのある声で礼を述べているのは誰なんだろう…、とロイは何かひやりとするものを感じた。まったく知らない声だった。しかし、状況から察するに、この男がロイに付き添って医師の所まで連れてきてくれたのだろう。
 何やら居心地の悪いものを感じながら、ロイもまた無難に医師に頭を下げた。

 化膿どめと鎮痛剤を処方され、ロイは小さな町医者を後にした。
 当然、そこまで付き添ってくれたらしい見知らぬ男も一緒に。
「…その」
 何と切り出したものか、と迷いつつ、しかしこのままうやむやにも出来ない。ロイは気まずさを殺しながら、その男を振り向いた。そして、少しだけ驚いた。
 男は飾り気こそないものの整った衣装に身を包んでおり、それは、あの幌馬車で一緒にやってきた旅人達にはなかったものだったからだ。容姿にもおよそ陰のようなものがなく、明らかにある程度以上高い水準の社会的地位を持つ人間に違いない。
「…色々面倒をかけたこと、感謝しています。…申し訳ないのだが、…どうも記憶が曖昧で。…貴方は?」
 およそ四十代の半ばといった所のその男は、ロイの申し出に、面白がるような顔で目を細めた。そして、楽しげに笑って答えた。
「私はアーネスト・ブライス。しがない音楽の僕ですよ」
「……はあ…」
 しばしぽかんとしてロイはアーネストを見返していたが、我に返ると自分も名前を口にした。
「その。…エドワード・マスタングです」
 …その偽名は、急遽身分証を偽造した際、咄嗟に判断に困って答えてしまった名前である。恐らくその時エドワード絡みで何か事件があったのだろう。それで咄嗟に、そういう偽名にしてしまった。
 今では少し後悔している。自分で口にしていても、何かいけないことをしているような気持ちになった。なぜかはわかりかねるが…。
 男、アーネストは妙に絵になる顔で笑った後、よろしく、エドワード、と愛想よく手を差し出してきた。受け取るべきか否か迷ったが、極力怪しまれたくなかった(もう既に怪しまれている気もするが)のでこちらも握手で返す。
「エドワード。うん、エドワード…実にいい名前だ」
「…はぁ…」
 自分でそういう偽名にしたのも忘れて、ロイは少しだけむっとした。まるで、自分の目の前で、自分は色々なしがらみがあって口に出来ないでいる彼の名前を連呼されているようなものだったからだ。それにエドワードが普通に答えたらと想像すると、かなり面白くなかった。大分勝手な話だ。それに、自分だって、この偽名がエドワードに知られたらどういう反応を取られるかわかったものではないというのに。
「では、テッド。これから食事などいかがですか」
「……」
 ロイは正直この見知らぬ男の腹が読めなくて、困惑した。
 勿論、いきなり、しかもごく自然に愛称呼びに切り替えた部分にも困惑していた。
「もし宿もお決まりでなかったら、私が泊まっている宿はいかがですか?」
「…いや、そこまでは。折角のお申し出だが、宿は既に予約してあるのです」
 アダムスが、と内心付け加えながら、ロイは居心地の悪さが増すのを感じていた。一体全体この男は何なのだろう。もしや軍の工作員で、アダムスの手配で先にソフィア入りしていたのでは、までロイは勘ぐったが、どうも軍のにおいのない男だったので、違うだろうと思い直した。
「そうですか。ではお食事だけでも」
 やけに熱心な男に、結局ロイは根負けして苦笑した。
「はい。――そうだ、医師を紹介して頂いたお礼に、ご馳走させてください。どこかお勧めの店があれば、それも教えていただけますか」

 錬金術師ソフィアはこの町に三つの塔を建てたといわれている。
 しかし、ロイが街中で確かめた所、なるほど二つは確認できたのだが、三本目がなかった。壊れたか、初めから建てられていなかったのか、それはわからない。
 横目で塔を眺めていたロイに、ブライスは切り出した。
「見事な塔ですよね」
「え?あ、ああ…、あれがソフィアの塔ですか」
 ロイは感慨深くそう答えた。
 ソフィアが自分の錬金術の学問に関わりがあって、というのは、別に作り話ではなかった。ソフィアの専門分野はエドワードに近く、どうやら土を中心とした鉱物関連だったらしいのだが、傍ら、熱の分野に関しても短い論文を残していた。それはソフィアの著作ではなく、その時代に纏められた文献のわずか数ページに過ぎない論文だったが、百年の時を経てなお褪せない「何か」を持っていた。ロイがソフィアを知ったのは、そもそもその論文があったからなのだ。
 尤も、今より若い頃のロイにはそんな趣味に割けるような時間はなく、大して調べることは出来なかったものの、それでもソフィアに関する興味はどこかに残っていた。なればこそ、この町の調査の話が上がった時、…失われた体の一部を取り戻せるなどという噂を聞いた時、捨て置くことは出来なかった。勿論、エドワードがこれに巻き込まれることを阻止したかったのが、最後にして最大のきっかけではあるのだけれど。
「…あれが…」
 ロイはもう一度しみじみと繰り返し、目を眇め、真っ直ぐに天に向かい立っている塔を見つめた。ソフィアが何を思いあの塔をこの町に建てたのかはわからない。だが、あれこそが、確かにかつてこの町の名の由来になった女性がいたことの証なのだろう。
 聖女――錬金術師ソフィアが。

 町の規模から宿屋兼食堂のような物を想像していたロイだったが、ブライスが案内してくれたのは、確かにレストランと言って差し支えないような店構えだった。なかなかに雰囲気のいい、煉瓦作りの建物である。
「正直最初は期待しないで入ったんだが、なかなかいい店で」
 町医者を出て歩いていた時、ちょうど日没を受ける塔を見ていた。冬の、北の落日は早く、あたりはもう夜だ。街路には人影はあまりない。こんな店がやっていけるのだろうか、とロイは余計なことを考えた。
「いらっしゃいませ」
 店内に入れば、やはりこぢんまりした店だ。カウンター席がいくつかと、
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ