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GLIM NOSTALGIA

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「さて、腹が減ったな。マスター、よろしく」
「はい、腕によりをかけて」

 その後は小鍋でそのまま煮込んだチキンのクリーム煮やキノコとニンニクのソテーなどを摘みながら、ほんの少しの酒を傾けた。そうこうしているうちに二組目、三組目の客が来て、やはり彼らも同じように静かに、ささやかに食事をして帰っていく。彼らの一人がオーダーしていたリゾットが旨そうだったので、ロイも締めに同じものを頼んだ。卵の他は特に具もないようなものだったが、じんわりと胃に染み込むようで旨かった。
 まだこの町のことは何もわからなかったが、少なくとも食事に難儀することはなさそうだとロイは安堵した。
 ブライスはこの町に来た理由を、次の演奏旅行までの休息と新曲の構想を練ることだと明かした。時分とはえらい違いだ、とロイは思ったが、そうなんですか、とだけ返した。
 特に互いの宿は告げずに店の前で別れたが、翌日も同じ店で会うような気がしていた。昼に関しても、ブライスが別の店も教えてくれたので、同じ場所でかち合う可能性は高かった。だがそれも悪くはない。少なくとも今夜案内してくれた店は満足の行く店だったので、他の店もきっと安心できる水準だろうから。
 別れる間際、既に人気のない街路で、ブライスは独り言のように呟いた。
「もう、ここ何年か、書きたい曲があるんだが…」
「…? それは、楽しみなことですね」
 無難に返したロイに、なぜか彼は困ったような顔をし、そうしてこう続けた。
「それが、モデルがいてね」
「はぁ…」
「だが、私の片思いなんだ。モデルに会えたら、旋律が一気にまとまる気もするんだが…」
 肩をすくめた男にロイは首を傾げ、少し考えた後、短く返した。
「よくわかりませんが…会えるといいですね。そのモデルと」
 この答えになぜかブライスはぱちぱちと瞬きして――、そして、意味深に笑った。
「そうだね。そう願っている。だが、予感もしていて、それはそんなに遠くない気もするんだ」
「…?」
「君のような人と会えるくらいだから、世の中は狭いんだろうなと思ったんだよ」
「…私、ですか」
 ロイよりほんの少し背の低いブライスは、軽く見上げながら、小さく笑って答えなかった。
「それでは、また」
「…はい。今日はありがとうございました」
 丁重に礼を述べたロイに、ブライスはこちらこそご馳走様と返して、そこで二人は別の道に分かれた。別の宿に泊まるべく。



 夜行列車では多くの乗客が泥のような眠りの中にあった。硬い座席の上、エドワードは目を閉じて、しかし思索を続けていた。
 今さら列車では眠れないなどと繊細ぶるつもりはない。それに、どちらかといえば、今眠れないのはどの道繊細さとは関係のないものだった。
「かっこつけんじゃねぇっての…」
 声もなく毒づいて、エドワードは目を開いた。
「…あんた、人にかまってる間なんかねえじゃんかよ」
 ぎゅっと目を眇めて、今目の前にいたら頬のひとつもぶってやるのに、と思い定める。
 ロイにはロイの目的があって、そんなことはエドワードも知っていた。だから、客観的に見て、こんな生意気な子供にかまけていていいことなど本当はひとつもないのに。そんなことは、誰でもわかることなのに。
 …どうしてか、あの男は、時々不意にこんな不器用な優しさを見せてエドワードを困惑させるのだ。そう、困惑という他ない。
 ――会ったら一発ぶん殴ってやる。
 確かにエドワードには目的がある。何を措いても果たすべき目標だ。だが、だからといって、あの男が危険に飛び込んでいくのに無感動だなんて思わないで欲しかった。自分の名が挙がっていたのにロイがねじ伏せたのだと知って、エドワードは悔しかったのだ。彼にとって、時分はその程度なのかと。
 だから、思い知らせてやるのだ。追いついて、一発ぶん殴って、認めさせてやる。そう思った。

 翌日の比較的早い時間に、エドワードはひとつの駅についた。
 それはある物の産地として知られていて、駅には貨物列車の姿も見られた。昔はアルと一緒に貨物列車追いかけたっけ、と懐かしく思いながら、エドワードは下車する。
 鳥籠とトランクを持って。
「マドレーヌ、朝だぞー」
 ポッポー、と微妙に寝ぼけた声を出すちょっと呆れた鳩に、苦笑しながらエドワードは呼びかけた。そう、籠の中にいたのは、白い鳩だった。
「…ったく、大丈夫なのかね、こんなんで…」
 ふぅ、とエドワードは肩をすくめた。一応預かり物だし、太鼓判を押されてもいるのだが、…いまひとつ、不安な鳩だった。

 さて、アルフォンスの代わりに鳩を連れたエドワードが最初に向かったのは、今はもうその石の採掘が中止されている鉱山だった。
 しかし鉱山というほどには、正確には大きくなく、ごつごつした岩場、とでも表現した方がよさそうな場所だった。だからこそ、全くの部外者であるエドワードがひょいっと迷い込んでも誰にも咎められない。
 エドワードはおもむろに右腕を出し、地面に剥き出しになった岩に触れた。慎重に、そろりそろりと。
「……」
 結果は、――何も、起こらなかった。
 そう、ただ、エドワードが岩に触れた、それだけで。
 軽く息をついてから、エドワードはコートのポケットから小さな黒い石を取り出した。それを手に持って、岩の上を移動させる。黒い石に対する、岩からの引力めいたものに、エドワードはにやりと笑う。

 次に彼が向かったのは、町にある小さな資料館だった。
 普段エドワードが求めるような高度な物はさすがになかったが、今この時に求めているのはそういったものではなかったので、特に困りはしない。
 ――その町のその石は、古くからこの地の産として知られたものだったという。といって、今現時点ではそこまで多くの需要があるとも言い切れないので、誰でも知っているほどに有名とは言えないだろうが…。
 だが、その石の特性は古代から多くの学者達に論じられてきてものだ。そしてこれから、きっともっと注目されていくはずだ。それは近年の数々の発見からも確かにいえることだった。
 その石の名を、――磁石という。
 天然の磁鉄鉱。それが、この地域の岩石中には多く含まれている。鉄に混じって、天然の磁石が埋まっているのだ。
 磁石は古くから人の生活に役立てられてきた。方位磁針や羅針盤はその最たるものかもしれない。しかし近年、磁力の解明が進み、摩擦運動と磁石の持つ吸引・反発の運動が異なるものだという発見が為されて以来、磁石の持つエネルギーの一端が人の前に詳らかになった。
 まあそうした科学的な進歩のことはひとまず措くとする。
 勿論エドワードがこの町に寄ったのは、そんな未来への思惟によってのことではなかった。
 彼がわざわざここに寄ったのは、ここで調べることがあったからだ。
「…あった…」
 それでもこの資料館でいきなり見つけられるとは思わなかったから、これは幸運というべきだっただろう。
 エドワードが目を瞠って見入ったのは、年表に何気なく書かれた一つの項目だった。そこには、次のように書いてある。いわく、
「…錬金術師ソフィア…」
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ