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GLIM NOSTALGIA

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「ずっと会っていなかった従兄弟なの。明日はお母さんの命日でしょ?だから遠くから会いに来てくれたの」
「ああ、そうか…リリィの命日だったか、明日は…」
 どうやらそれなりの知り合いらしい番兵は、懐かしそうな、それでいてほんの少し痛ましげな顔で少女を見返す。少女もまた儚げな笑みを浮かべて軽くうつむく。どこまで演技かわからないが、と思いつつ、エドワードも合わせてみることにした。
「…本当はもっと早く来たかったんだけど、…何しろうちも色々あってさ。でも、おばさんやフィリアとはもっとガキの頃会ってたし。…一度は来なくちゃ、って思っててさ」
 困ったような顔で苦笑してみせてから、フィリアを覗き込むようにして「ごめんな」と言えば、彼女は「いいの」と首を振った。
 番兵は、もはやすっかり信じていた。
「えらいなぁ、坊主。フィリアも良かったな」
 行きな、と人の良さそうな中年男が言ってくれたので、二人と一頭(エドワードがここまで乗ってきた馬)はそのまま町の中へと歩いていった。

 そこから十分程も歩いただろうか。
 路地を少し入った小さな店、恐らく食堂か飲み屋であろう小さなその店に、フィリアは少年を招きいれた。煉瓦作りの、少し可愛らしい雰囲気の店だ。
 開店前なのだろう。狭い店の中はがらんとしていた。
「……」
 エドワードは店の中を軽く見回してから、少女を見た。少女はといえば、カウンターの奥に入って、カップを取り出していた。どうやらお茶でも出してくれるらしい。
「…あの。…ええと、エド…の家族は三日後にここに来るの?」
 手早くお茶を淹れて手渡してくれながら、少女は遠慮がちに問うてきた。それに、エドワードは肩を竦める。
「まあ、ね。…でも驚いたな、あんな検問みたいなのしてるんだ」 
 家族云々はともかく、驚いたのは本当だった。苦笑した少年に、言おうか言わまいか迷ってでもいたのか、一瞬だけフィリアは困った顔をした。だがすぐに顔を上げると、決意した顔で切り出す。
「…二年位前からなの」
「…あの検問が?それとも…」
 フィリアは首を振った。
「二年位前に…初めて、噂を聞いた、って人がここに来た」
「………」
 エドワードは確かめなかった。それは、あの噂に違いあるまい。
「でも、私達誰も知らなかった。…ソフィア様はずっと昔の人だし、確かに、ソフィア様が残してくれたから、今でも私達が助かってることって、たくさんあるけど、…腕や足が返って来る方法なんて、誰も知らなかった」
「………」
「でも、最初に来た人も、次に来た人も、納得しなかった。絶対何か隠してるはずだ、って…それで、暴れて。…うちの、お母さん。病院で働いてて、それで、…暴れてた人に、刺されて…」
 きゅ、と少女は眉と口元を引き絞った。エドワードもその先を尋ねることはしない。
 エドワードは、町へ案内して欲しいと言った自分に対して見せた、フィリアの逡巡を思い出した。あの、決意したような顔と一緒に。なるほど、その後の検問もそうだが、そうした事情があったならあれも当然の事だったのだ。フィリアは噂を求めて町にやってきた人間に、母を殺されているのだろう。外界から来た人間に対しては警戒心が強くなって当然だ。むしろ、いくら危ない所を助けたからといって、よくエドワードを案内してくれたものだと思う。
「…ごめんな」
「え?」
 ぽつりと言ったエドワードに、フィリアが首を傾げる。しかしエドワードはそんな少女の目を真っ直ぐ見つめながら、続けた。
「…辛いこと、思い出させただろ」
 静かな声に、町の少女は目を瞠った。それに、弟を見るようなまなざしを向けながら、エドワードは声の調子を切り替えた。
「うちも、母さん、亡くなってるからさ」
「…エド、も」
 フィリアは、エド、と呼ぶ前に一瞬だけ躊躇いを見せる。自分が名を呼ばれることは平気なようだが、人の名を、しかも会ったばかりの少年の名を呼ぶのが気恥ずかしいようだ。そんな引っ込み思案な少女に、エドワードは笑った。
「そんな遠慮しなくていいよ。オレはフィリアに借りだってあるんだ」
「借り?」
「フィリアのおかげでここに入れた」
「…だって、エドは助けてくれたから」
「フィリア」
「…?」
「仇をとってやる、とは言えないけど…」
 少女が息を飲む。エドワードは、落としたトーンのまま続ける。
「…ほんとは内緒だけど、フィリアは町の決まりを破って、…決まりだよな?ほんとは、あの検問。そう、なのに、オレをソフィアに入れてくれた。だから、教える」
 ニッ、と少年は彼らしい笑い方で笑った。不敵で、生意気な。だがとても魅力的な。
「こういうの等価交換ていうんだ。…まあそれはいいとして。オレは、その噂がどうして流れてんのか、…吸い込まれるみたいに消えてる人間がどこに行ってるのか、それを調べに来たんだ」
「調べに…?」
「ま、ほんとはオレの前にもう一人来てるはずなんだけど、…検問の話は全然知られてなかったから、あの小屋で立ち往生してるか…それかどっかに移されたか、どっちかだな」
 まさかそのロイが、既に町に入っているとはエドワードも思っていなかった。今頃別の場所を調査しているかもな、くらいに考えていた。
「…それに、この町の周り。…火薬と鉄を持って入ると、爆発する…んだろ? それを、多分…軍が狙ってる」
 言いながらエドワードは違和感に気付いた。軍は結界に手を焼いてこの町に入りそびれているのではなかったのだろうか。確かに、武器を持たなければ入ってこられるのだろうが、丸腰で入ってきてどうにかなるものでもないだろうに…なぜあの時城壁の近くにいて、フィリアに絡んでいたのだろうか。
 フィリアはフィリアで、考え込むような表情を見せた後、ぽつりと呟いた。
「…グングニルを…狙ってるの?」
「……グ…?なんだって?」
 聞き慣れない単語に、エドワードは軽く眉を顰めた。それに、フィリアはもう一度、はっきりと繰り返した。
「グングニル。昔話の、神様の槍のこと。絶対に狙った相手を外さないんだって」
「ふーん…?」
「ソフィア様が作ってくれた壁も、同じなの。おじいちゃんはそう言ってた。この町を攻撃しようとしても、グングニルが絶対許さないって」
「…なるほど?」
 よくはわからないが、例の結界は、現地では「グングニル」と呼ばれているらしい。響きからしてアメストリスの言葉ではないように思えたが、思索は後回しにした。
「そういえば、この店ってフィリアのうちなのか?」
「え? うん、そう。この後ろに家があるの。おじいちゃんと二人で住んでるんだ」
「ふぅん…」
 フィリアが大体自分と同年代くらいに見えるから、祖父という人は恐らく、ピナコ前後の年になるのだろう。そんなことを思いながらエドワードは頷いた。さすがにソフィアの時代は知らないだろうが、ソフィアが死んで間もなくには物心がついているだろうし、知っていることも多そうだ。フィリア自身は、口ぶりから察する限りではこの町で生まれ育っているようだし、祖父という人も長く住んでいる可能性は高いだろう。
「…フィリア。そのおじいさんて人にさ、会わせてもらえないかな?」



 さて、エドワードが幸運にもすんなりソフィアに入れた頃。
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ