二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

GLIM NOSTALGIA

INDEX|24ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

 ロイは苦笑して、すやすやと枕を抱きしめて寝ている少年を見下ろした。金髪はあちこちにはね、いい夢でも見ているのか顔はとろけんばかりになっている。ロイは寒いくらいだったがどうやら子供体温なのか、エドワードはシーツを跳ねた上にさらに下着一枚の格好で寝ていた。暑かったのかもしれない。
「…鋼の、」
 こうやって誰かを起こすのには慣れていなかった。大体、ロイ自体あまり寝起きが良くないのだ。起こされることならあるのだが。
 しかし、彼を放っていくわけにもいかないだろう。まだ朝食をたべるのにちょうどいい店を教えていないから。
 いや、それはすこし違うのかもしれない、考えながらロイは自分に疑問を呈した。そう、すこし違う。自分が、朝食をエドワードと一緒にとりたいと思っているのだ。それが正しい。
 だから、起こさなければいけない。
 いかないのだが、これがまたエドワードがよく寝ていて、起こすのが忍びないほどなのだ。随分と幼い顔をして、むにゃ、と何か呟いている。グラタン、とかさっきは言っていた。なるほど、食事している夢のようだ。そのうち腹をかいたりもしていて、ロイは段々おかしくなってきた。最初はこらえていたのだが、あまりにおかしくて、遂には隣に並んだ自分のベッドに腰掛け、そのまま横に倒れて突っ伏してしまった。笑いを堪えすぎて肩がぴくぴく震えている。
「…あひゃ?」
 それでも横目で見守っていたら、突然びくっとエドワードの体が震え、その後ぱっちりと金目が開かれた。しばらくは夢と現実の境でぱちぱち瞬きを繰り返していたが、やがて肩を震わせ、涙まで滲ませ笑いをこらえているロイと、その目がばっちり合う。

「何笑ってやがんだてめぇええ!!」

 寝起きとも思えない怒声が外まで聞こえ、宿屋の前を通りがった人々は一瞬顔を見合わせたが、特に疑問には思わずまた歩き出した。



 朝食を奢るから、と宥められ、髪をひとつに括っただけの格好でエドワードは小さな喫茶店に引っ張っていかれた。編まなかったのは面倒だからに尽きる。後は頭に来すぎていて冷静になれなかったのもあるが。
 しかし考えればそこまで怒ることではないな、と美味いコーヒーをすすりながらエドワードは思ったが、相手はまだ自分が怒っていると思っているようなので、しばらくそのままにしておくことにした。
 朝目覚めたら、隣で自分の寝相を笑われていたら誰だって気分が悪いだろう。いくらエドワードがロイに好意を持っていたとしても、許せることと許せないことがある。そして今朝の出来事は、心臓への負担といい何といい、朝食を奢らせた上にすこし心を痛めさせるくらいは当然だろう。
 …本当に驚いたのだから。
 目が合った瞬間、「おはよう、鋼の…楽しませてもらった」なんて言われて。こいつ何を見たんだよ、とか、そんな風に。
 昨夜彼の額に口づけたことも負い目となっていて、気付かれたのかと不安にもなった。どうやらそれはさっぱりわかっていないようだが…。
「…は、…ええと、その…ほら、これも美味いぞ」
 鋼の、と呼ぼうとしてやめた男に、エドワードは溜息をついた。
「ありがと。…なあ、エド、でいいよ? オレもロイって呼ぶから」
 本心を言うならすこし違うのかもしれないと気付いていた。ロイと呼ぶから、ではなくて、ロイと呼びたい、の間違いではないのかと。エドと読んで欲しいのではないかと。
「そ、そうか? …だがなんだか…」
 何を思ったか視線をそらす男に、エドワードは軽く眉を顰める。すると…。
「…呼び慣れていないから、…ちょっとこう、…変な感じだな。照れくさいような…恥ずかしい、というか…」
 無意識のように思えるはにかんだ顔で、照れくさそうに小さな声で、ロイはそんなことを言う。聞かされたエドワードこそ不意を打たれて、思わず赤くなってしまった。その表情もいけない。
「…こーの天然タラシが…」
 口を尖らせそっぽを向くと、ぼそぼそと呟く。聞こえなかったらしいロイが不思議そうに「何か?」と聞き返してくるが、それには「別に」と冷たく返して。
「…あ、」
 ふと、視線をそらした先に二本の塔を見つけ、エドワードは軽く目を瞠った。あれが、ソフィアの塔。
 彼女が残した日記にも、塔のことがすこしだけ書かれていた。ソフィアの日記にはあまり暗号のようなものは含まれておらず、…すべてが暗号化された普通の文章という可能性もあるにはあるのだろうが、とにかく読む分には単なる日記だった。内容はさておき。
 エドワードは、ロイにまだそれを見せていないことを思い出した。
 幽霊からの贈り物は偉大なもので、独り占めする気持ちはなかった。それに、人体錬成の失敗談など、読んでいて楽しいものではない。加えて言うなら、エドワードはロイを信じていたから、あれを手渡しても、彼がどうしようもない扱いをするとは欠片も疑っていなかった。
 呼びかけようとして顔を戻し、エドワードは、ロイもまた塔に見入っていたことに気付く。その横顔は真剣で、贔屓目を抜きにしても凛々しいと思えるものだった。
「あの塔の話を、知っているか?」
 やがてロイがおもむろに声をかけてきた。それで、自分がうっかり彼に見惚れていたことに気付き、頬が勝手に色づいた。
「…エド?」
 しかも、先ほどは恥ずかしいなどと言った口が、今はもう躊躇なく愛称で呼びかけてくる。せめて偽名でも呼ばせれば良かったと思う。
「塔の、話、って?」
 呼吸を落ち着かせながら、極力平静を装いつつ彼は問い返す。ロイは、そんなエドワードの様子には頓着していない調子で進めた。
「あの塔は今二本だ。だが本来は三本揃って初めて意味があるらしい」
「…どういうこと? …もう一本は壊れたのか? それとも間に合わなかった?」
 違う、とロイは首を振った。
「三本目は未来の塔。だから、建っていないのが常態なんだそうだ」
「……未来の塔…?」
 エドワードは眉をひそめながら、塔を見た。
 日記にそんなことは書いてあっただろうか、と考えながら。
「…これ、読んどいて」
 エドワードは塔を見たまま、懐から古びたあの手帳を取り出した。ロイは一瞬首を捻ったものの、黙ってそれを受け取り、ぱらぱらとめくる。
「…これは、君…?」
「幽霊からもらったんだ。マグネイトって町でさ」
「幽霊…?」
 エドワードは身軽に立ち上がると、ロイを振り返り、笑った。
「オレはちょっとあの塔を調べてくる。あんたは、ここの勘定を済ませたら、どっかでそれ読んでて」
「ちょ、っと、待て、これは…」
 動揺しているロイは、どのページを読んだのか、それはわからない。わからないが、エドワードは一瞬そんなロイを見つめた後、片目を瞑って唇に人差し指を当てた。…可愛らしいポーズをとったつもりだったのだが、失礼極まりないことに、ロイは若干青ざめていた。…失敬な。
 頭にきたので、半ば自棄になってこう捨て台詞を残していた。
「――すぐ帰ってくるから、大人しくしてんだぜ? ダーリン」
 ロイが真っ青になって口をパクパクしていたのが、正直に言えばかなり面白かった。


 ロイを残して、エドワードが向かったのは、塔が立つ広場だった。
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ