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GLIM NOSTALGIA

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 塔の近くは公園になっていて、町の人々の憩いの場になっているようだ。今も、散歩する人や駆け回る子供の姿がちらほらとだが見える。
「……」
 二本の塔を、エドワードは見上げた。
 塔はそれぞれがおよそ二十メートル前後くらいの高さで(恐らくは)、幅はといえば、大人が五人くらいで手を広げて輪になったらちょうどいいか、という程度。
 灯台のように入口があって階段があるのだろうか、と思ったが、ドアらしきものは見当たらず、中には入れないようになっていた。しかし、その割に、途中には窓のようなものが見える。それから察するに、中はやはり空洞になっているようだ。勿論飾り窓の可能性もあるのだが。
 二つの塔はほぼ同じ大きさ、形状で、ただすとんと地面に立っている。ではその二本の間隔は、といえば、二、三百メートルといった所だろうか。
 それぞれの塔の根元には札のような、石碑のようなものがあって、それによれば、片方がウルドの塔、片方がベルダンディーの塔というそうだ。それぞれ、過去を司る女神と現在を司る女神の名であることが併記されていた。
「…未来の塔。…なるほどね」
 どちらかといえば雑学の分野になるが、エドワードもその名は知っていた。そうした神話のモチーフというのは特に古い時代の文献に暗号として登場したりもしたから、造詣は自然深くなった。
 運命の三女神というなら、残りは未来を司るスクルド。
「…スクルドの塔」
 エドワードはすっかり頭に入っているあの手帳を脳裏でめくってみる。
 ソフィアの日記の終わり頃に、塔についての記述が確かにあった。

 過去の塔には私の過ちを。
 現在の塔には私の祈りを。
 そして未来の塔にはこれから生まれる命への贈り物を――。

 どういう材料を使って、どういった設計で、どういう仕様で作られているか、そんなことは何も書いていなかった。ただ、誌のようなそんな短い記述があっただけで…。
「…過ち…祈り…贈り物…」
 エドワードにもそれが具体的にどういう意味なのかはわかっていない。だが、現場を見ないことには始まらない、と思い、とにかく今建っている塔を見に来たのだ。
 そして見上げた塔は想像よりも優美で、そして厳然としていた。
「……あんたは何を残そうとしたんだ…?」
 届くはずのない問いを囁いて、エドワードは塔の上を見上げた。
 すると、何かが陽光を反射して光った気がした。
「…?」
 どうやら、塔の上部には、何か光を反射するようなものがあるらしい。普通に考えれば、例えば鐘楼として使われていたから鐘つき台がある、とか、そんなところかもしれないが、何しろ今の時点ではこの塔は中に入れないので、それも妙なように思った。
 無論、エドワードならドアくらいすぐに作ることは出来る。
 だが、こうして周りに人もいる状態で、このソフィアを神聖視している町で、ソフィアの遺産である塔に手をつけるほど無謀ではなかった。
 忍び込むにしても夜だな、と思いながら、エドワードは塔からすこし離れて観察してみた。そうして何度か場所を変えて観察していたら、確かに、塔の最上部付近に、鐘つき台のような空白が見えることに気付いた。だが置いてあるのは鐘ではないようにも見える。
 その後は簡単に聞き込み調査をして、エドワードは、ロイが待っている、かもしれない宿屋に戻ることにする。時刻はそろそろ昼に近づいており、…ソフィア滞在に関しては三日先輩のロイに昼飯オススメスポットを聞く必要があったのである。


 宿屋に戻ると、ロイは、ベッドに横になっただらしない姿勢で、手帳を読んでいた。そして、エドワードが入室すると、手帳を両手で持ち上げ、顔だけ浮かせると「おかえり」と短く言う。妙に気恥ずかしい気持ちになりながらも、ああ、ただいま、とエドワードも返す。
「…君、…幽霊にもらった、って?」
 エドワードは肩をすくめた。
「先に言っとくけど、オレはそういう非科学的なの、信じてはいない。だけど、オレにそれを渡した途端、じーさんは消えた。んで、その後近所の人に聞いてみたけど、そんなじーさんはいない、って言ってた」
 だから、と瞬きもせず彼はロイを見つめ、言った。
「幽霊。としか、言いようがないだろ?」
「……そうか…」
 ロイも困惑したように眉をひそめて、…ひとつかぶりを振ると、手帳を閉じ、ベッドから身を起こした。
「そろそろ昼だな。何か食べてきたか?」
 首を振ってから、エドワードは、何か思いついた顔で「なあ」と切り出した。
「ん?」
「あんた、思わなかった? どうしてコインは結界に反応しないのか」
 たくらみ顔ですこしの笑みを唇に載せる少年を見返して、ロイは瞬きした。
「――気付いてたんだよな、大佐はさ。初めっから。だって、あんた、オレに『鉄と火薬』って言ったもんな」
 最初にあの執務室でソフィアの話を聞かされた日のことを思い出しながら、エドワードは重ねて問うた。
「……アダムスのおっさんは? 軍は、どこまで知ってんだ?」
 黙っていたロイだが、エドワードの台詞に含まれた「アダムス」の言葉に眉を吊り上げる。
「…鋼の、アダムス大佐に会ったのか?」
「向こうがツラ出してきたんだよ。大佐が、…あんたが、ソフィアに単身乗り込む、つってさ。もしもオレにそれをどうにかしたい気持ちがあるなら、ってソフィアのだっていう金属板くれた。その時は鉄とも何とも言ってなかったけど」
「……」
 ロイは、…難しい顔で一度目を閉じると、喉奥で小さく唸ったようだった。そんなに考えることかよ、とエドワードはいささか拗ねたような気持ちで内心呼びかける。
 ――巻き込めばいいのだ、自分を。
 自分は、自分のために彼を利用することだってある。だから、彼だって自分を利用すればいい。
 いや、それは違うか。自分が単純に、彼の役に立ちたいと…彼を助けたいと思っている。それが正しいのだろう。弟のために、自分を擲つことなどけして出来ないはずの自分が、そんなことを考えるのは矛盾しているかもしれないが…。
「…コインは反応しない。コインは、鉄では出来ていないから」
 やがてロイは、重々しくそう答えた。苦痛に答えるように。
 普通に考えればそれは当たり前すぎる事実で、そんな重々しく口にするようなことではない。だが、それこそがソフィアの結界の謎を解く事実でもあるのだ。
 ベルトのバックルに反応しないものがあった、とアダムスは言っていた。恐らくその反応しなかったバックルは鉄製ではなかったのだろう。
 金属には多種多様な物が存在している。それぞれ組成も違えば影響力も違うし、加工の難易度も異なる。
「そうだな。鉄でないもの、それから恐らく、鉄の純度が低いものは多分反応しない。そして、磁性体でないものに覆われたものも、反応しない」
 推論ではあったが、自分が機械鎧をただ細工しただけでこの町に入れたのが何よりの証拠だった。
 機械鎧は確実に反応する。そのままであれば。
 だから、磁性体ではないもので腕と足を覆った。何しろ急ごしらえだったから、いくらか不安は残っていたのだけれど。
「…結界の正体は、磁気、だろ?」
 ただしそれが根源にあることは確かだが、磁気をどのように利用しているかはまた別の話である。
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ