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GLIM NOSTALGIA

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 聞こえていませんように、と願った後だったので、これは正直焦った。
 ロイはエドワードに背を向けて横になりながら、続ける。
「寝言だが、鋼の。…君は、後悔していないか?」
「……」
「私がしたことは、…間違っていなかったか…?」
 エドワードはすぐには答えなかった。ロイもまた、答えを急かすようなことはしない。
 やがてどれくらい経っただろう。さほど長い時間でもなかっただろうが。
「後悔なんて、しないわけがない」
「………そうか…」
「でも、あんたがしてくれたこと、オレはありがたいって思うことはあっても、恨むことなんて絶対ない」
「…そうか」
 ロイはすこし笑ったようだった。
 そんなことで不安を覚えるこの男が可愛いと、再びエドワードはそんな風に思っていた。ああ、やっぱりこいついいな、好きだな、そんな風に。
「寝てるヤツにだから、オレも言うけどさ」
「……」
「あんたこそ、オレに関わりあって面倒だとか迷惑だとか、そんな風に思うことはねえの? …自分で言うのもなんだけど、オレって結構扱い辛いんじゃない?」
 寝ているらしいロイは、笑ったようだった。
「確かに扱いやすいと思ったことはないが」
「……」
「飽きないよ」
 そのコメントは如何なものか、とエドワードは一瞬悩んだが、別に嫌がられていないのなら問題ではない。
「君といると楽しい。面倒な君だから、考えてることや欲しいものを当てられるとなんだか達成感があって嬉しいよ」
「…やっぱ面倒?」
 ふ、とロイは小さく笑った。
「私にとっては問題ではないね」
「…そ、っか」
「ああ。そうさ」
 ロイの声はゆったりしていて、寝てはいないものの、案外本当に眠いのかもしれないとエドワードは思った。
「…おやすみ、大佐」
「おやすみ。鋼の」
 エドワードもまたロイに声をかけて、シーツに入り込んだ。寝つきの良さには自信があって、今夜もまた、数も数えぬうちに眠りに落ちてしまったのだった。




 ロイとエドワードが北の町で地道に活動を続けていた頃、イーストシティでは、残されたホークアイ中尉がリブロン准将について調べていた。
 准将の経歴はすぐに調べがついた。当たり前といえば当たり前だが。
 仮にも将官だからさぞかし豪華な経歴が…と思ったが、単純に家柄が良いらしい。その事実からだけでも、大体本人の能力や性向が伺えないことはない。
 リブロンはセントラルに本宅を、西部に別荘を持っているようだが、北部には何の足がかりもない。念のため妻女の家柄についても調べたが、こちらも北には縁もゆかりもない人だった。勿論、ソフィアとの縁は言うに及ばず、である。
 中尉は、今度は、ここ数年の入札関連の資料に当たった。リブロンが関わっているとすればこの入札に関する贈収賄というのが最も疑わしく、だとすればやはり業者を疑うのはセオリーというものだった。
 そして、気になる名前を見つけた。
 ウィシュラー・チェスナット。
 元は西部で鉄鋼関連の事業をしていたらしいが、近年、北に本宅を移している。今でも西部の工場は稼動しているが、どうも「新しい金属」に取り組んでいるとのこと。
「…新しい金属…?」
 武器や装備の類は一般的に重いものである。たとえばそれが、強度は落とさずに軽量化されたら、採用されやすいだろう。もしくは単純に強度を上げるのでもいいだろう。
 リブロンが西部の別荘に行く時には、チェスナットが夜会に招いたり贈り物をしていたりするらしい、ということは案外あっさりと判明した。チェスナット自身は確かに本宅を北部へ移したが、工場はまだ西部にあるし、元住んでいた屋敷もそのままにしてあるという。資産も潤沢に持っているようだから、移動もさしたる問題ではないだろう。
 チェスナットが怪しい、というよりも、彼が怪しくなかったら誰が怪しいというのか、というような状態だった。あまりに単純で、かえって中尉は自分の調査結果を疑ったくらいである。捜査に協力してくれたヒューズも同じことを考えているようで、電話で話した時には「うーん…」と唸っていた。
 しかし、本当に素直にこの人物が怪しいのだとしたら、話は簡単だ。
チェスナットを締め上げればいいのである。
「…簡単に礼状を出せれば、だけれど」
 いくら軍権社会といっても、さすがにそれは横暴だろう。中尉は溜息をつき、さてアダムスには進展があっただろうか、と考えた。アダムスからは、何かわかり次第連絡すると言われているのだが、エドワードをセントラルで見送ったという連絡の後はなしのつぶてなのだ。大丈夫なのかしら、と中尉は眉を曇らせたのだった。


 そして、セントラルに残されていたアルフォンスは、といえば。
「兄さんがいない間しか無理だもんね〜」
 …宿屋の子猫とたわむれる日々である。
 あれほどきつく連絡を言い渡した兄だが、二度ほど電話あった後、連絡が途切れていた。しかし最後の連絡で「これからちょっと電話が出来ないとこに行く。でも心配するな、大佐もいるからさ」と言われたので、心配はしていない。というよりも、兄についての心配というのは、基本的に兄が他人や他の物体に何か危害を与えて不都合が生じないか、という部分が実は大きくて、身の安全という面に関しては、よほどの場合を除いて実はそこまで心配していなかったりする。うちの兄さんはチビだけどヒーロー並だから、というのがアルフォンスの中にあるエドワード観だった。それに大佐も先に行っているというなら(それは嘘ではないが真実のすべてでもないということを、アルフォンスは知らない)安心だ。彼ならエドワードの暴走だって止めてくれるに違いない。勿論、身の危険だって、見過ごすことはないだろう。
「さーあ、チェイミー?ブラッシングしようね〜」
 まさに猫なで声で子猫に呼びかけたアルフォンスのご機嫌マックスの声に、高いか細い声が「にゃあん」と答えた。実に平和な情景だった。
 …エドワードが知ったら、がっくりと脱力してしまうに違いない。




 あけて、翌日。
 やはり今日もロイがエドワードを起こしたが、エドワードはもう怒ることはなかった。慣れたらしい。なんだか物足りなく感じたロイだが、怒鳴られると道まで聞こえるというのがわかっているので、それは口には出さなかった。賢明な判断であろう。

 その日は別の店で朝食を取った。エドワードは朝からよく食べ、ロイはコーヒーとトーストだけだった。体に悪いぜ、と少年が咎めれば、君の食べてるのを見てるだけで胸焼けがしてるよ、と力なく答えた。おっさんめ、とエドワードが毒づいたことは言うまでもないだろう。
「さて、…今日はどうするか?」
「どうって…」
 ブリオッシュをかじりながら、エドワードは器用に片方の眉だけを上げた。
「塔でも調べてみる? 三本目の塔についてとかさ」
「未来の塔か?」
「そ。スクルドの塔」
「…スクルドの塔、か…」
 不意に、ロイは顎をつまんで、考え込むようなそぶりを見せた。
「…ロイ?」
「いや、なんでもない。…そうか、スクルドの塔か、と思ったんだ」
「なに?」
「スクルドは未来を司る女神。そして、唯一、戦乙女として戦場を駆ける女神だ」
「……」
「女だから詳しいとは言わないでくれよ」
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ