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GLIM NOSTALGIA

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「…あんたそれ被害妄想だよ。オレそんなことばっかり言ってねぇだろ」
 そりゃそうだが、とロイは口を尖らせる。ああもう、とエドワードもとうとう気が緩んで口走ってしまった。
「あんたさあもうほんとそういうの可愛すぎるからやめてくれよ…」
「…………」
 ロイが絶句したのをぼんやり見て、…自分がとうとう言ってしまったのだと気付いて、エドワードもまた遅れて絶句した。
 コーンスープの湯気だけが平和な朝を保っている。
「………あー」
 校長先生がマイクのテストでもしているかのような不恰好さで、エドワードは搾り出した。
「…今のは幻聴だ。よって忘れることをオススメする。な。忘れろ」
「………強烈な幻聴だったな…」
 ふふ、とロイは力なく笑い、突っ伏した。
「ちょ、おい、なんだよ? オレ別にあんたのこと馬鹿にしてるわけじゃないぞ?」
「…破壊力絶大だったぞ…」
「なんでだよ?! どっちかっつったら褒め言葉だろ?!」
「…私が君に言うならね…」
 相変らず突っ伏してしまっているロイの黒い頭は、なんだか拗ねた子供のようだった。
 困ったなあ、とエドワードは天を仰いだ。実に困った。
 …周りから見たら、じゃれているだけにしか見えないのだが。

 どうにかこうにか朝食を終えて、二人は結局塔に向かった。そして今は、何事もなかったかのように並んで塔を眺めている。こういうところを見ると、やはりロイは大人なのだと思う。
「…材質は、何かな?」
 こんこんと静かに壁を叩きながら、ロイは首を捻る。
「石…じゃねえの? それか素焼きの煉瓦かなあ」
「煉瓦…ねぇ。それならこの町では元々窯業が行われていたというし、…セラミックの件もあるから、関連性がありそうな気がするが…」
「ううん…。でもさ、それも気になるっちゃ気になるけど、この塔、なんで入口ねえんだ?」
「さあ…ただ建っていることに意味がある、とか?」
「でもさ、上の方、多分鐘楼の上のとこみたいになってる気がする」
「…?」
 ロイも言われて上を見上げた。だが近すぎてよくわからなかったので、少し距離を置いて同じことを繰り返した。
 そうすれば、確かにエドワードの言う通り、がらんとした空間があるように見えた。
「本当はあそこで何かするんじゃねえかなあ…」
 だが、ソフィアの日記にはそんなことは書いていなかった。二人の錬金術師は、結局腕組みして首を傾げてしまうのだった。

 その後もしばらくはああでもないこうでもないと話し合っていたが、これといった素晴らしいアイディアは出てこなかった。手詰まりになってしまったといってもいい。
 だが、公園からの帰り道、ちょっとした事件を彼らは目撃することになる。
「…何で中に入れてくれねえんだよ!?」
 低い、太い声に、二人は目を見合わせ、それから頷きあって、門まで走る。ちょうどそのあたりを歩いていたのもある。
 すぐにたどり着いて、二人は一瞬立ち止まってしまった。
 そこでは、検問所に留め置かれた人々が番兵に食って掛かっていた。彼らは口々に中に入れろと喚き、奇跡を独り占めにするなと責め立てる。エドワード達はこの町に彼らの求める奇跡が存在していないことを知っている。町の人々がそれで迷惑していることも。現実に死者まで出ているとあってはなおさらだ。…だが、彼らの気持ちもわからなくはなく、複雑な気分だった。
「…危ないんじゃない? 番兵さん」
 どう見ても番兵はおされ気味だった。それはそうだろう。聞いた所では、もう何十年も、ソフィアの番兵はお飾りのようなものだったというのだから。今更急に暴徒を鎮めろといわれても、荷が重すぎる。
「…そうだな」
 答えながら、ロイは既に動いていた。
「君は動くな」
「なんでだよ?」
 動く気満々だったエドワードは不服そうに鼻を鳴らす。それに、呆れたようにロイが答えた。
「君の錬成をここで見せる気か? 彼らに?」
「……?」
「ソフィアの奇跡を信じさせるだけだ。やめた方がいいと思うがね」
 ロイはそう言い置いて、番兵の方へ近づいていった。エドワードは反論しそびれて、その背中を睨みつける。
 本当にロイは腹立たしい。こんな時ばかりそつなく、大人として振舞うのだから。

 近づいていったロイがどうするのか、とりあえず静観することにしたエドワードの前で、ロイは、番兵に何事か話しかけた。番兵が一度首を振ったように見えたが、最後はロイが押し通したらしい。唇を読むまでもなく、自分に任せろとかそういった類のことを言ったのだろうと思う。
 そして――
「やかましいっ!!」
 滅多に聞くことのない、ロイの、腹の底からの大音声があたりに響き渡った。轟いた、といってもいい。
 さすがに、騒ぎ喚き立てていた人々も、しんと静まり返る。
「間違えるなよ、貴様ら」
 ロイの声は良く通る。そして、今は、怒り心頭といった具合に冷え切っていた。
「勝手にやってきて中に入れろも何もないものだ。独占するな? 汚い? 手前勝手をほざくなよ、貴様ら」
「なっ、…何がわかるって言うんだ!」
「そうだ!」
「やかましいと言ったのが聞こえなかったか」
 声を震わせながらも、数を恃みに反論めいたものを口にした男は、ロイに射抜かれんばかりに睨まれて悲鳴を上げる。
「奇跡なんて、この世にはない」
 ロイは大勢いる検問所の人々を睥睨しつつ、言った。
「願っていれば叶うなんて、そんな手軽な奇跡があってたまるか!」
 ロイは、実際、とても怒っていた。但し、目の前の人々にというより、自分自身にだ。
 一度でもエドワードの姿を彼らに重ねた自分が許せなかった。エドワードは、自分の力で這い上がってきたことを、ロイが誰より知っていたのに。
「わかったら自分のすべきことを探せ。本当にすべての手を尽くしたのか考えてみろ」
 冷たく言い捨てると、ロイは、くるりと人々に背を向けた。すっかり飲まれてしまった彼らは、しばらく声を発することはなかった。

 ロイとエドワードが遭遇した諍いはロイの一喝で収まった形になった。しかし、それは氷山の一角に過ぎなかった。
 どうも何か事情でも出来たのか、三日は空けずに検問所に引き取りに現れるはずの軍人達が来ず、検問所はいっぱいになってしまっていた。
 思えばフィリアに絡んできた軍人達をエドワードが追い払ってからというもの、彼らは姿を見せていないらしい。
「…あれは、まずいだろうな」
 一度はロイの一喝で引いたが、そもそも希望が叶えられないでああして留め置かれている彼らには、相当なストレスが溜まっているはずだ。今はまだ抑えられているが、そのままにしておくのは危険だった。
 チェスナットとの接触にも案がなく困っていたが、こちらもまた切実な問題である。確かにロイが直接解決しなければいけない問題ではないのかもしれないが、拡大解釈すれば、これもまたロイが解決しなければいけない対象だった。
 そもそも、彼は、ソフィアに消える人々の謎を解くべく、そしてソフィアにはセントラルに――大総統に対する叛意のないことを明らかにするべく、やってきたのだ。
「…なあ。チャンスは一度きりなんだけどさ」
「…?」
 ロイの向かい側で思案していたらしいエドワードの言葉に、ロイは顔を上げた。
作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ