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GLIM NOSTALGIA

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 しかも今、この部屋に入るとき、彼は何を思ったか鋼のといわずエドワードと呼んだ。
 …寝不足で頭がおかしくなっているのか?
 ぽかんとしたまま、エドワードはロイを見守る。彼は何が楽しいのか、いきなり机の上の色々なものをばっさっと払い落とすと、そのまま机に何事か書き出そうとしたのでエドワードも寝ていられなくなる。
「ちょっ、馬鹿か! 落ち着けよ!」
 しがみついて制止すれば、…しかし、ロイは性質が悪かった。
「すばらしい、すばらしいんだ!」
「ぎゃ…! ちょっと…!」
 ロイは嬉しそうな顔のまま、しがみついてきたエドワードを抱きしめ頬ずりし始めた。まるでヒューズが乗り移ったような様子に、エドワードはいろいろな意味で失神寸前だ。
「ああ、そうか、そうなんだ、未来の塔だから建っていないなんて、そんなわけはなかったんだ!」
「は…はぁ? だからっ、ちょっと、落ち着けっての…!」
 いってえ、と悲鳴を上げながら、エドワードは渾身の力をこめ、…頭つきをロイの顎にクリーンヒットを決めた。これが決定打となり、…興奮していたロイは、問答無用で床に昏倒した。エドワードをぎゅっと抱きしめたまま。
「…もう…なんなんだよあんたはぁ…!」
 抱きしめられたまま、エドワードは泣きたいような気持ちになった。

「…その、すまなかった…」
 昏倒から立ち直ったロイは、腕組みしてむっすりしているエドワードに平謝りした。
「…別に、いいけどさ…。ちょっと驚いたけど…いや、つーか、むちゃくちゃ驚いたけどさ…」
「その…だめだな、つい…発見があると、抑えられない時があって…ここ最近はなかったんだが…」
「はあ…まあ、オレもそういうのは、覚えがないわけじゃないけど…」
 それにだな、とロイはさらに消え入りそうな声で呟いて、下を見た。
「…?」
「…これはいいわけだといわれても仕方ないんだが…なんだか、君だったら、その」
「オレだったら、なんだよ」
「…君を見たら、なんというか、こう…」
「だから、なんだよ?」
「…喜びを、な?」
「はぁ。喜びを?」
「…意地悪だぞ、鋼の!」
「うるせえ、居直るな」
 びしりとエドワードは遮った。ロイは、うう、と情けない声を上げた後、小さくこう言った。
「…君だったら、許して、わかってくれるかと思ったんだよ…」
「は?」
「だから! …発見の喜びとかそういうのを、鋼のだったら、わかる、といってくれそうな気がしたんだ」
 半ばふてくされたような様子で言い切ったロイを、エドワードはまじまじと見つめた。何を言っているのか、この男。自分で何を言っているのかわかっているのだろうか?
 だがエドワードももう限界だった。
「…鋼の?」
 返事がないのを訝しんだものか、ロイが正座した姿勢から顔を上げ、エドワードを覗き込んできた。
「わっ」
 不意をつかれたので、エドワードの淡く染まっていた頬も、寝癖が付いてぴんと跳ねたサイドの髪も、何もかも隠すことなくロイの視界に収まってしまう。
「………はがねの?」
「……んだよ」
「…なんで君、赤くなってるんだい?」
 きょとんとした顔で天然もいいところの質問をしてきた男を、エドワードは照れ隠しも含めて思い切り蹴り飛ばしてやった。
「…オレはもう寝る! いいか、起こしたらあんたがセクハラしたって中尉に訴えるからそのつもりでいろ!」
「な、なに?! …君は私に死ねと言うのか?!」
 ロイはシーツの山の外側からエドワードを揺さぶるが、エドワードも一度こうと決めたら梃子でも動かない性質だ。
 …そこからは暫し不毛な戦いが繰り広げられたが、…騒動の一部が聞こえてきていたフロントでは、ああ痴話げんかか、とのんきに片付けていた。それを知ったら二人とも憤死してしまいそうだが、…まあ、知られることはないので問題はない。


 どうにかこうにか鋼の錬金術師との国交を回復したロイは、改めて医師に聞いた話に自分の論を付け加えてエドワードに説明した。ただ、ロイの論は論というより勘に近いものだったが…。
「だから、火を灯すのが鍵だと思うんだ」
「………はぁ」
 一応真面目に聞いていたエドワードだったが、…最終的にはベッドに突っ伏した。
「…鋼の?」
 それに、ロイは怪訝そうな顔を浮かべて首を捻る。
「…まあ、うん…いいや。わかった。…で? それで、どうするって?」
「…? だからだな、三本目の塔を出す」
「………。ああ…うん。…それで?」
「? それだけだ」
 ロイはさわやかに言い切った。
 エドワードは、…何度目になるか知れない絶句をした。
「…? 鋼の?」
「…それだけだ、って。なあ。…それだけって、なんだよ!おい!」
 きー、といきなり怒り出したエドワードに、ロイは目を丸くした。だが慌てた様子はない。なんとなれば、ロイは、エドワードが怒ることになど今さらちっとも驚かないくらいに慣れていたから。
「それだけでいいんだよ。タイミングさえ合えばな」
「…タイミング?」
 ロイは自信満々に言い切って、窓の外を見た。
「検問所の連中、今夜がなくても明日にはもう駄目だろう。なんだってまた引取りの連中が来られないのかはわからないが、とにかく、抑え切れないだろう、もう長いことは」
「……」
 ロイの表情が真面目なものになったので、エドワードもいくらか我慢を試みる。
「だから、三本目を見せるだけでいい。…乱暴な言い方をすれば、暴動というのは、不満や不安が溜まって緊張が高まっている時に、何かの刺激を受けて起こるものだ。そして放っておけば、あの連中は暴動を起こす。そうなったら、若者の少ないこの町で誰がそれを止められる?」
「……」
「三本目を出せば、さすがに誰でも驚くだろう。度肝を抜かれてしまえば、毒気も抜けて案外大人しくなるものさ。あの連中だって、暴れたくて来ているわけじゃないんだ」
 ロイはその先は言わなかったが、エドワードは少しだけ反省した。
 彼は、要するに、誰もが傷つかない、都合の良い未来を探したのだろう。確かにここまでありもしない噂を信じてやってきた人々のその苦悩は察して余りある。だが、そうやって突然押しかけてこられたこの町の人々の困惑もまた道理だった。しかも過去にそれが原因で人死にまで出ているとあってはなおさらだ。
「…金持ち栗様が動かない理由はわからん。楽観的に、皆が頑張ってくれていると思うことにしてるが」
「…中尉とか…中佐に、言ってきたのか」
「ああ。私のいない間にリブロンを調べておいてくれとな。彼らは優秀だ。とっくにチェスナットに辿り着いてるだろうさ」
 ロイの彼らに対する信頼には穴がない。疑うことすら馬鹿馬鹿しいといったような調子だ。それが時折、エドワードの心をちくりと刺す。
「…ふぅん」
「…鋼の?」
 答え方がおかしかったのか、ロイが不思議そうな顔をしてエドワードを振り向いてきた。
「どうかしたのか?」
「…べっつに。…そんで? 何をどうするって? ああ、塔がどうとかじゃなくて、細かい話な」
「ああ、それは段取りを決めよう」
 話をそらされ、一瞬怪訝そうな顔をしたものの、ロイもあまり深くは突っ込んでこなかった。




作品名:GLIM NOSTALGIA 作家名:スサ