悪魔言詞録
67.軍神 ヴァルキリー
えいっ、やあっ、とおっ!
ふう。手ごわい相手でしたわね。でも、こんなところで弱音をはいてはいられません。召喚主さまのために、これからも頑張らないと……。
何? そんなに肩に力を入れなくてもいいって? いえ、それでは私の気が収まりません。召喚主さまの手足となってこの地を平定せねば、私は死んでも死にきれません。
そんな恩義を感じるようなことをした覚えはない? いいえ。そんなことはありません。私が変化する前の存在から目をかけていただき、辛抱強く育てていただいて、こうして変化してからもおそばにおいてくださる……。こんな光栄、またとありません。
いや、単に強いから使ってるだけ? そんなお褒めの言葉をいただけるなんて、なんてもったいない。召喚主さまと私では、その強さは雲泥の差です。そんな私のことを気にかけてくださって、重用してくださるのですから、これを恩義と言わずなんといいましょうか。
そ、それに、ですね……。
私、その、なんていいますか、強い方が好みなんです。圧倒的な力を持つ殿方が、ものすごい力で相手をほふっていくのを眺めるのがたまらないのです。あの力強い筋肉の躍動と滴る汗。ものすごい勢いで振り下ろされる拳。それが相手の装甲をぶち破る鈍い音。そしてその先に生まれる哀れな敗者の肉が無様に変形していく瞬間……。
ああ、召喚主さま。今、告白いたします。今まであなたの隣りで戦っていた私は、本当の力の半分も出していないのです。隣で相手を完膚なきまでに打ちのめしている召喚主さまに見とれていて、私はあなたをサポートすることすらろくにできやしないのです。
そう。私はあなたの強さに憧れるあまり、闘いが手につかないのです。だから、いつも戦闘が終わった後の回復や、交渉ばかり。こんなことでは、もうおそばにいることは許されないのでしょうか?
いや、十分強いから別にいいよ? 召喚主様はお優しいのですね、ますます好きになってしまいそうです。