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悪魔言詞録

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164.邪神 サマエル



 ……ウリエルのやつ、そんなことを言ってやがったのか。で、あんたはあんたでその面白い経歴を聞きたくてわざわざ俺を召喚した、と。


 うーん。まずあんたに言っとくと、変わった経歴っていうのは誤解だ。正しくは、よくわからない経歴だと思うんだよな、俺の場合。


 まず、俺は死をつかさどる天使だ。俺以外にも死の天使はいるが、今はそれは置いとこう。俺が言いたいのは、こう見えてちゃんと神から役目を与えられているということだ。すなわち、俺は神から見放された堕天使ではなく、天使である可能性が残されているということさ。

 でも、なぜか文献にはやけに俺が失敗して神に叱られる話ばかりが載っているんだ。とあるものを天国に運ぶのを失敗したり、とある場所に木を植えて勝手なことをするなと怒られたり、とね。

 「死」をつかさどる天使が、よくミスをやらかす。さらに俺の名前「サマエル」は「神の悪意」という意味。普通に考えたらそんなやつ、真っ当な天使だとは誰も思わないよな。

 そうなるとどうなるか。人間は、神を裏切ったあの有名な大魔王たちと俺を同一視しだす。もしかして、あのお方やあのお方の別名なんじゃないか、そんなふうに考え出すんだ。

 最終的には、最初の人間にりんごを食うことをそそのかしたことにもされちまったよ。

 こうして、いろいろくっついて最終的になんかふんわりとした、口ばっかり達者だけど実績が伴ってなさそうな転職希望者の履歴書みたいな経歴が完成したというわけさ。


 で、実際に堕天はしているのか、あと、りんごも食わせたのか、だって?

 それがさ、俺自身もよく覚えてないんだ。でも、こんなこと今さら神に聞けないじゃん? 「俺、あんた裏切ってますか」なんて聞きに行って本当に裏切ってたら生きて帰れないもんね。りんごの件も同じでさ、あんな重大なこと「俺がやったんだっけ?」なんて誰かに聞けないよ。

 だから、どうしようもない。俺がやったことにするしかないよ、もう。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔