悪魔言詞録
62.魔人 マタドール
ふむ。すっかり見違えたな……。
いや、大昔、大地下道で闘ったときのことを思い出していてな……。あの頃の、血相を変えて私に挑みかかってくるおまえとは、もはや別ものだなあと感慨にふけっておったのだ。
ん? 当時は闘い方が分かってなかった? そうかもしれんな。しかし、やられるたびに仲魔や自分の相性を変えて、根気よく挑んできて、どうにか私から勝利をもぎ取っていったではないか。それをするだけの器がおまえにはあったということだし、これから先も、きっとおまえは結果を出し続けるだろう、私はそう思っているよ。
何だって? いきなり変なことを言い出すのはやめろ?
うむ。こんな話をしたのはわけがある。おまえには申し訳ないが、私はそろそろこのパーティから外れようかと思っているんだ。
なんでって、そんな大した理由があるわけじゃあない。ただ、マタドールたるもの、孤独に獲物と一対一で向かい合うのが本懐というものだからだ。
もちろん、おまえに使役されて得られたことも、同じ仲魔と戦って得られたことも大いにある。それは否定しない。だが、やはり私は孤独でありたいという欲望から、離れることができないのだ。おまえには済まないが、こればかりは承知してもらいたい。
それに、私ももうそろそろ足手まといになってきただろうし、貴重な死兆星分の働きは十分したであろう?
この魔人マタドール。無様な敗北を2度もおまえに見せるわけにはいかん。ここは潔く、私を開放してはくれまいか?
ふむ。パーティから去るのならそれはそれで構わないが、地下道であれだけ自分を鍛え上げてくれたのだから、今度はここで闘い方を勉強してもらって、そうすることで恩返しをしたい?
……全く、人の子というものはよく分からんな。魔人に情けなぞかけて、寝首をかかれても知らんぞ。だが、その心意気は承知した。私もこの場で、おまえやいろいろな仲魔の闘い方を見て、引き続き、研究を重ねることにするとしよう。