悪魔言詞録
60.天使 プリンシパリティ
…………。
……おお、やっと通りがかった。あんただ、あんた。そうそう。そこのあんた。あんたに頼みがあるんだ。
あんただろ。これからニヒロの本陣をぶっつぶしに行こうとかいう元人間は。そんなことを考えているやつでもなきゃ、このハイウェイを通り抜けるなんてこと、しやしないもんな。
でさ、さっきも言ったけど、折り入ってあんたに頼みがあるんだ。単刀直入にいうとさ、あんたのその力で、みんなさっさとやっつけちゃって、このトウキョウを平らげてくれねえかなってことよ。
なんでそんなことを言い出すんだって? よくよく考えて見てくれよ。俺たち、プリンシパリティっていうんだけど、俺たちに与えられた権能は文明や国家の盛衰をつかさどることなんだぜ。
国家や文明というとなんかすごそうだけどさ、結局のところ、国家や文明ってもんがないと、俺たちの出番はないってことじゃん。
そこを踏まえて、今のこの受胎後のトウキョウの状況を見てみろよ。たくさんの悪魔と数人の人間がうろついているくせに、その悪魔の大半は自分で道を切り開こうともしない。まあ、俺らもそうなんだけどね。せいぜいがゴズテンノウぐらいだが、あいつもニヒロにやられっちまった。
じゃあ、ニヒロがこのまま独走するかというと、そうも行かねえ気がする。他にもどんどん台頭する勢力が出てくるかもしんねえし、あの泥人形どもですら国を作ろうと考えるかもしれない。
要するに、誰が一番手っ取り早くここを統べてくれそうかって話になったときに、俺はあんたを一番買っているっていうことなんだ。あんたなら、人間の気持ちも悪魔の気持ちも分かる。こう見えて腕っぷしもいい。創世の女に懸想しているのだけは怪しいが。
だから、あんたならさっさとここをまとめて、俺らに仕事をくれると信じてる。ああ、どうせ今、やることもないから、俺なら仲魔にもなってもいいぜ。
その代わり、さっさとこの受胎後のトーキョーをまとめてくれよな。