悪魔言詞録
47.地母神 キクリヒメ
まあ、わたくしと二人っきりでお話がしてみたい、という殿方がいらっしゃるんですの?
実はもう既に会っている? いったいどなたでしょう。全く心当たりがありませんわ。
はい? その方は、あまりご自身の顔に自信がない方なのですか。え? マスコットキャラみたいなかわいい感じの顔をしている? まあ、かわいらしいのも良いではありませんか。それに、男性は顔が全てではありませんわ。
ただ、性格はちょっと暗い? それだって良いではありませんか。世の中、明るい方ばかりでは回りません。それに暗い方は、大抵、落ち着いていらっしゃいますから、いざというとき頼りになる方が多いのですよ。
それに、レベルは近いし気も合うはず? そうですか。それならばぜひ、と言いたいところなんですが……。
なにはともあれ、そのようなお申し出をいただいて、とてもうれしく思います。わたくし、縁結びの女神なんてやっているにも関わらず、自分のそういったことにはとんと疎くて、お恥ずかしい限りですわ。
その方とご一緒してみたい、そういう気持ちも私の中にはないわけではありませんの。けれども、なんて言いますか、今はまだ、私、この縁結びの女神という役割と、召喚主さまに使役される今の役割を、しっかり果たしていきたいという気持ちが強いんですの。特に、今、召喚主さまが挑んでおられるこの戦いは、たくさんの弱き者たちが傷を負うことになりそうな予感がいたします。そういったものを助け、癒やし、救済するためには、今は殿方との逢瀬にはかまけていられない、というのが正直なところです。
いきなりそんなふうに構えなくても、会って話をするだけでいいとおっしゃるのですね。しかし、会うことでその殿方に下手な希望を持たせてしまうのは、決して良いことではありませんわ。
ええ。そうですわね。その殿方にも、召喚主さまにも大変ご不快な思いをさせてすみませんが、なにとぞ、よしなにおっしゃっておいてくださいませ。