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悪魔言詞録

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41.夜魔 インキュバス



 なあ、召喚主さんよ。

 昔からな、思ってたことがあるんだ。よけりゃあ聞いちゃくれねえかな。いや、悩みごとなんて、そんな大層なもんじゃねえ。ただ、人間の、特に男って生き物に、ちょっくら物申したいだけさ。そんな折に、ちょうど元人間のあんたが呼び出してくれたんだ。もしかしたら耳の痛い話かもしれんが、まあ、聞いてくれよ。

 俺らはさ、昔から夢魔なんて言われて、ずいぶんと迫害されてきた。特に宗教家のやつら、あいつらは、過剰なほど性に潔癖だからな。そりゃあもう、えらい嫌われようだった。
 でもな、本当のところをいうと、俺たちはそれほど上級の悪魔じゃねえから、たくさんの女をたぶらかせることなんてできないんだ。人間がどう思ってるかは知らんが、それが実情ってもんさ。
 でもな、女の腹がわけも分からず膨らんじまった、そんなときは軒並み俺らのせいだとされた。みんな、俺らが部屋に忍び込んで種付けをしたからだと言いわけしたんだな。でも、なんでそんなことになったんだろうな。

 そうそう、さすが召喚主さんは物分かりがいいねえ。

 婚前交渉や不義密通、もしかしたら近親や母子、もっとエグいのもあったかもしんないな。そういった文字通り悪魔のような行為の結果、望まぬ子どもを宿してしまった。どうしよう。そうだ、そのまま悪魔のせいにしちまえばいい。そうやって、俺たちは罪をなすりつけられてきたんだ。

 人間どもは、俺らをどスケベだという。でも、俺に言わせりゃ人間のほうがよっぽどどスケベだよ。男も女も色に迷って、その結果にゃ知らんぷり。都合のいい悪魔を引っ張り出してきて、全てそいつのせいにしてふたをしちまうんだ。

 結局、何がいいたいんだって? 要するにな、人間にゃ気をつけろってことだよ、特に女にはな。あいつら、いざとなったら悪魔よりも恐ろしいことを平気でする生きもんなんだ。

 おや、その顔つきは、思うところがあるようだねぇ。なら、この先は何も言わないよ。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔