悪魔言詞録
36.堕天使 フォルネウス
なんだ、誰かと思えば、おまえじゃねぇか……。
病院じゃあ、世話になったな。まさかおまえなんかに敗北するとは思わなかった。調子はどうだって? 今じゃ、すっかりやる気もうせちまって、あのときの力はもう出せやしないよ。
で、いまさら俺なんかを召喚して、一体何の用だ。無様な負け犬を笑おうとでもいうのか? 弱っちそうな外見をして、性格までいかついたぁ思わなかったな。
何? そうじゃない? いや、気を使わなくてもいい、俺だってこう見えて堕天使の端くれだ。敗北の味は、天から追われた時にも味わったことはあるからな。ある意味、負けることには慣れているんだよ。
だから、違うんだって? 何だよ、結構、気を使ってくれるじゃないか……。でもいいんだ。どうせ病院の主にもなれない役立たずだ、おまえの仲魔に加わっても、肩身が狭いだろうし、何より、足手まといになるだけだろうよ。
そんなに落ち込むな? おまえにはするべき仕事があるだろう? まあ、ないわけじゃないだろうな。だがな、今の俺には少しばかり休みが必要なんだ。すまねえが、このまま仲魔から外してくれよ。
いや、すぐにできることだし、今からでもやってほしいことなんだ? 何だよ、今度は随分熱いじゃないか。でもな、俺は氷の悪魔だし、言語学が大得意なんだ。そんな言葉だけ熱くても、その気になりゃしないからな。
でも、やってくれないと困る? 俺のことを待ってくれているやつがいるんだって? そんなやつ、いるはずがないだろう? 根城にした病院を失った今、俺に残されているものは何にもありゃしないのさ。
え? 渋谷で待ち合わせしている仲間のことを忘れたのか? ……あっ!
そ、それって、もしかして、デカラビアのこと? あいつ、今でもシブヤで俺のことを待ってんの? かぁー、確かに愚直でばか正直なところはあるけど、そこまで融通が利かないやつだったか、あいつ。
おい、おまえ。今すぐシブヤ行こう。あいつ、待ちくたびれて死んじゃうよ。