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悪魔言詞録

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161.鬼女 ランダ



 そうかい。バロンのやつがそんなことを言っていたのかい。ふむ。あいつもあいつなりにいろいろと考えているんだね。

 わしらが善と悪の象徴として戦いを続けているのは、お主も知ってのとおりだ。でもな、このうんざりするような戦いを続けていて思うんだよ。善の象徴であるあいつのほうが、わしよりよっぽどつらいんじゃないか、とね。

 善はいついかなるときでも純白でなければならない。すなわち、善には悪を取り入れる余裕はないのさ。少しの汚れも許されない。一度でも悪いことをしたら、もうそいつは悪だ。不正をした政治家や炎上した有名人なんかがいい例だ。今までの善行は一つの悪行であっという間にかき消されっちまうんだよ。

 その反面、悪は多少の善を許容できる。捨て犬を助ける不良や蜘蛛を助けて釈迦の慈悲を手繰り寄せた盗賊なんかがいい例だ。気分次第でたまにいいことをしてもいい。わしだってたまにそんな善行を人間に施しているときもある。いつも物理攻撃を反射してお主をあざ笑っているわけではないんじゃ。

 だからこそ、あいつは苦しいんじゃろう。善という形で身動きが取れない今の身の上が。しかもあいつも昔は相当悪かったんじゃ。悪を知るものが人に請われて善の象徴となり、道を踏み外さずに永遠に戦わなければならない。世界の存在と引き換えにそんな悲劇が延々と繰り広げられているわけなんじゃ。
 無論、わしだって疲れていないわけではない。だが、あいつはそれ以上につらく苦しいはず。敵対しているわしが気の毒に思う程度にはな。

 でも、わしらは戦わねばならないんじゃ。世界を終わらせるわけにはいかないから。
 だが、その決着は永遠につかないんじゃ。世界を終わらせるわけにはいかないから。

 ……つくづく因果な戦いじゃのう。


 お主がわしらに思うところがあるのなら、わしらを合体させるとええ。そこには善悪を飲み込んで、はるかに超越した彼岸の力を持つ恐ろしい存在がいるじゃろうからな。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔