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悪魔言詞録

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160.夜魔 ニュクス



 あら、坊やが喚び出してくれたのね。

 久しぶりね。すっかり見違えて……。最初に会った頃はまだまだ危なっかしい半人前だったのに。使役される側になるなんて思ってもみなかったわ。

 でも、坊やならば話は早いわね。実はお願いがあるの。報酬を幾らか融通してもらいたいのよ。

 なんでって? ええ。あれからギンザも変わってしまって……。実は、バーの経営が苦しいのよ。

 正直、お店を閉めてもいいんだけどね。私、こう見えて夜の女神じゃない。やっぱりできる限り夜の女であり続けたいなって思うし、あのお店、できれば残したいのよ。

 それに、少ないけど働いてる子もいるからね。リリムちゃんなんか、お店のことをいろいろやってくれるし、お客さんの評判もいいし、本人も勉強だって言って頑張ってるし。ヤカーくんやガキくんたちも裏でしっかり頑張ってくれてるのよ。ああいう子たちを見てると、お店を畳むなんてなかなか言い出せなくなってしまうのよね。

 あと、以前は結構な太客もいたのよ。でも、うちの宝物庫が荒らされちゃって、その方の貴重品が盗まれてから来なくなっちゃって。その宝物庫の管理をしてたのが、その客の口利きで来ていた悪魔の方だったから、「俺の人選ミスだった」ってことで賠償とかは発生しなかったんだけど、それも大きな痛手だったわよね。

 と、いうわけでお店の子たちには内緒で、こうして悪魔退治に出掛けてこっそり運営資金を調達してるっていうわけ。まあ、お酒を飲んで前後不覚の中でお金を払ってもらうか、眠らせてからの永眠の誘いでお金を奪い取るかだから、そんなに大きな違いはないわよね。

 それに、夜はお水の華やかな世界だけじゃなくって、実は怖い世界でもあるんだってことを、夜の女神としては知らしめたいしね。


 というわけで、お願い、聞いてくれる? 8:2くらいだとうれしいな。

 え? 2:8でいい? ほんとに? なんか、真っ青な顔をしてるのが気になるけど助かるわ。それじゃ、よろしくね。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔