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悪魔言詞録

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159.魔王 アバドン



 イナゴを率いて戦ったりはしないのかって?

 ああ、それなあ。実はさ、わけがあって今はやってないんだよ。ええ? かっこよさそうなのになんでって? そりゃ、おまえ。ちょっと言いにくいけど、キャラが被っちまうからだよ。

 そりゃあさ、大量の虫がうるさく羽音を奏でて群れをなして襲いかかってくる、っていうのは見た目にはとてもインパクトがあるよ。自分よりもはるかにちっちゃい、けれどちゃんと生きている虫が、殺意を持って大量に身にまとわりついてくる。その恐ろしさ、おぞましさったらありゃしないよ。そんな小さい生き物たちに自身の肉を少しずつ食いちぎられ、朽ち果てていく。自分自身ですらいつ命を落としたのかわからない、けれど骨だけになっていく。恐ろしさとダークなかっこよさ、それらが合わさった攻撃方法なのは間違いないと思う。

 でもさ、あんまり言いたかないけど、俺よりもその攻撃がふさわしいお方がいるのよ。悪魔の世界も広いようで狭いからね。やっぱりそういうところで似ていることをやってると、いろいろと目をつけられちゃうからさ。今は地面に潜っていていきなり襲いかかるってキャラでやらせてもらってるわけよ。

 そのふさわしいお方は誰だって? おまえ、それを俺の口から言わせるなよ。俺よりはるかに高名で大食を司っているあの大悪魔のお方だよ。

 まあ、俺もさ。一応は天使として扱われることもあるし、別のさる高名なお方を奈落に封じて見張るという役目を仰せつかったり、それこそイナゴを率いて異教徒に災いを与えて苦しめたり、それなりに頑張ってはいるんだけどね。やっぱ、スターには敵わないっすよ。

 でもさ、偉い方ばかりじゃ組織は成り立たないだろ? おまえのパーティだってある程度は役割があるもんな。おまえが率いて回復役がいて補助役がいて攻撃役がいてってさ。

 だから、トップではないけど一翼を担う存在ってのも必要だし、そこに俺の道はあるんじゃないかなって思うんだよ。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔