悪魔言詞録
158.魔人 マザーハーロット
ねえ。ちょっと聞いてよ。ひどいと思わない?
なにがって? あたしにつけられたあだ名のこと。『大淫婦』だとかさ、『売春婦の母』とかさ、いくら正義の名のもとでも、女子にこんなあだ名を付けるなんていじめじゃないかって思うんだよね。
しかもさ、世界で最も売れた本にこれを書いちゃうんだよ。まあ、書いた当時、こんな売れると思っていたかは疑問だけどね。おかげであたし、なんかめっちゃエロい女みたいな感じになっちゃったじゃん。
でも、よくよく考えるとおかしいよね。みんながやってるから種というものは存続してるはずなのにさ。特にあの宗教の上のほうの人たちはそういうことが許されてないから、あたしらに感謝してくれてもいいくらいだよ。
それにさ、『売春婦の母』ってそれ、悪口としてはどうなの? 偉くて頭のいい人が書いたワードだと思うんだけどさ。これって完全に売春婦を下に見てるじゃん。差別してるじゃん。最古の職業で、今もたくさん従事している人がいる仕事を見下すって、ちょっといい度胸過ぎじゃね?
まあ、あちらさんの考えてることもわかるよ。パートナーは一人、快楽のためじゃなくてあくまで子孫を残すためってことにしたいんだよね。でもさ、そんなに性にストイックじゃやってらんないよ。たくさんの相手と快楽にまみれたいって考えもあっていいし、バツをつけて人生をやり直している人もいるし、もう時代にそぐわないと思うんだけどな。
……きっと、彼らはうらやましかったんだろうね。自分たちが我慢している横で好き放題やってるやつがいたら、やっぱり腹が立つもんね。そりゃあ、悪口の一つも書き残したくなるし、ついついそのはけ口が児童に……あぁ、これは言わないほうがいいか。あたしも悪口を言ったらあいつらと同じになっちゃうし。
まあ、とにかくひどいよねって話。ちょっと、召喚主くん、聞いてた?
僕、高校生だからわからない? そうやって都合よくすっとぼけるんだ、ふーん。