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悪魔言詞録

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156.堕天使 フラロウス



 なんで胸にヒョウの顔をくっつけているのか、召喚主さんはそれが知りたいんだね。

 うん。あれは、少し前の話だ。その頃の魔界では、とあることがはやっていた。あの上級悪魔も、あのお方も、人が名前を聞いただけでも震え上がるような大悪魔から、大したこともできない下っ端悪魔まで、みんなが一つのことに熱狂していたんだよ。

 それは、人間のまねをすること。

 別に人間という生き物を尊敬して、少しでも近づくためにやっていたわけじゃない。元人間の召喚主さんには言いにくいけど、どちらかというとダサいのをあえて取り入れてからかうみたいな、そんな感じ。そんなふうに俺たち魔界の悪魔どもは、ふざけて人間のまねをしていたんだ。

 そんなときに、俺が目をつけたのは、ここトーキョーからちょっと西のほうの地域に住んでいるややお年を召した女性たち。おばさんとか、おばちゃんなんて呼ばれている人々が着こなしているファッションだったってわけ。

 でもさ、俺たち悪魔はそんな頻繁に服を着替えないのよ。堕落したとはいえもともと天使だし、人間と違って土くれから生まれちゃいないからね。じゃあ、あのおばちゃんたちが着こなしているヒョウの柄をどうやって実現するか。そりゃ、一つしかないよね。本物のヒョウの顔を胴体にくっつける、それだけ。

 で、実際にやってみた結果、これがすこぶる評判がよかったんだ。他の悪魔からもかっこいいなって褒められるし勇ましく見えるしで。それが、さすがにおばちゃんもヒョウ柄を着なくなった今でも続いてるってわけ。

 どう? うなづいてるところを見ると、納得した?


 うん。納得したところで申し訳ないけど、今のは全部ウソ。ごめんね。

 でも、召喚主さんも覚えといたほうがいいよ。契約によって悪魔を召喚しても、そいつが約束を守ったり正直な言動をしたりするとは限らないってことをね。

 ときには、強大な敵よりも信じていた仲魔のほうが恐ろしかったってこともあるからねぇ。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔