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悪魔言詞録

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174.邪神 マダ



 酔っている状態ってのは、しらふよりもいいんじゃないだろうか。

 飲んだことのないおまえにはわからないだろうけどさ。なんつうの、理性的な行動が本当に正しいかどうかってのは、実際にやってみることでしか判断できないわけ。

 もちろん理性が必要なものもあるよ、お金の計算とか。ああいうのはやっぱりしらふでやらないとさすがにまずいだろうね。

 でもさ、異性を口説くとか、営業をするとか、引っ越し先の隣人がちょっと危ない人だったなんて場合、必ず理性でどうにかできるってわけでもないじゃん。どんなに理性的にふるまっても結果が出ないなんてことはざらにあるはずだよね。そういうとき、べろべろに酔っぱらってめちゃくちゃやってみたほうがうまくいったりすることもあるんじゃないかな。

 何、異性は幻滅するだろうし、営業は仕事だから飲みながらできないし、ご近所トラブルをお酒で解決しようとするのは、こっちが変わった人だと思われる? そう、そこなのさ。今の世は堅過ぎるんだよ。何事も無難に、ちゃんとやろうとし過ぎる。

 今、挙げた3つ。どれも人間関係だけど、これらについて誰もが規範を意識し過ぎなんだよ。俺に言わせればもっと逸脱してもいい。大きく相手の意表を突いたって許されてもいいと思うんだ。もちろん法からは、はみ出さない程度にね。

 さあ、そこで登場するのが酒だ。酔っ払っていれば、お互いに理性は吹っ飛んで、本音が飛び交うコミュニケーションになる、何度も言うようにやり過ぎないことが前提だが。正装からいちいち胸襟を開いていくより、いっそ半裸からのほうが早くてやりやすいだろう。

 形式や会話の流れを重要視するこの国では、理解されるのは難しいかもしれないがな。だが、少しは同意できるところがあるんじゃないか。

 なに? その説明を今、理性的にしているようならば、あまり説得力がないって?

 これは、一本取られたな。まあ、重要なことは襟を正して言いたいもんだからなぁ。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔