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悪魔言詞録

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180.大天使 メタトロン



 なんじが人の子であり、この地が受胎をしていなかった頃はどういった者がいたのか、教えてくれないか。

 いや、神を信奉する者の国はつぶさに見ていたのだが、自分たちのことを無宗教と言い張るこの東洋の島国にはあいにくとあまり目を向けていなかったのでな。

 ふむ。別にそれほど大きな違いがあるわけではない、この国にも神を崇めるものはいるし、もちろん別の神を信じているものもいる。ただ、大多数が他の神さまに寛容で、面白そうな祭とかやってるのを見たらうまいこと理屈をつけて自分たちも取り入れてしまうってだけ……。

 うーん。にわかに信じがたい話だが、少しばかり思い当たる節がある。

 実は、私は力が強大過ぎるせいかあまり表に出ることは少ない。最強の天使などとも呼ばれるが、これにはさまざまな議論があるし、わざわざ天使同士で戦って雌雄は決めるなどということもすることはない。実力は認められているがその正体は謎、というような存在だ。

 そのような存在に出くわしたとき、人の子はどうするか。自分たちにもわかるように、理解しようと試みるようだ。私もその例外にもれずどうにかして表現しようと、人の子がたくさんの異名を私につけた。その数、72とも100以上とも言われている。

 これだけの異名があると、かえって存在がぼやけると思うのだが、恐らく人の子たちも、異名をつけることが楽しくなってしまったのだろう。中にははなはだ迷惑なものもあるのだが、信奉者のやることだ、むげにもできまい。

 要するに、神を信じずに楽しそうなことだけ取り入れてしまうこの国の子ら、神や天使に異名を付け続ける者たち、どちらも不敬として行っているものではなく、どこか楽しんで行っているものなのであろう。

 ……まあ、それはそれでよい。というより認めるしかないのだが、正直、これほどの異名の数を目の当たりにしてしまうと、もしかしたらからかわれているのではないか、という疑念も湧いてきてしまうな。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔