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悪魔言詞録

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172.夜魔 リリス



 私はね、自分の生き方を主張したかっただけなの。

 別に、あの男よりも上に立ちたかったわけじゃない。神に近づきたかったわけでもない。ただ、自分の思いを率直に口にした。ただ、それだけだったのに。

 あのときから私たちはつまずいた。何もかもうまく行かなくなった。そして、私は彼から離れることにした。

 それからもいろいろあったけど、最終的に彼は自分のろっ骨を妻とし、私は不貞な女の象徴とされた。自分の思いを話しただけなのに。それだけで神からも元夫からもその神の信奉者からも愛想を尽かされ、名誉を汚されて悪魔のらくいんを押されたわ。

 もちろん、これは私の側の言い分。あちらにはあちらの言い分があるんでしょうね。でも、情報を広めるのはあちらのほうが上手だから、私はどちらにしても泣き寝入りをするしかないわよね。

 そういえば、あの男、次の妻ともうまくいかなかったみたいね。ヘビの甘い言葉にだまされたその女のせいで、甘い果実を口にして、最高に居心地のいい場所を追い出されて。

 しかも、甘言でそそのかしたそのヘビが、私のセフレってのはちょっとばかり皮肉な話よね。あ、私はそのヘビには何も吹き込んでなんかいないわよ。過去の男になんていちいちかかずらってらんないし、報復なんて面倒くさいこと、したくないもん。

 ……でもね。こんなあばずれでどうしようもない女だけども、できることならもう一度、してみたいことがあるんだよね。

 どんなことかって? あんたに言うのはちょっと照れくさいけど、そろそろ塔の頂上も近いだろうから思い切って言わせてもらうよ。

 あたし、あんたの創り上げた世界で、あんたといつまでも幸せでずっと一緒にいたい。もう一度「最初の女」になりたいんだ。そして、あんたを「最初の男」にしてあげたい。

 あんたとなら、やり直せる気がするんだ。ねえ、悪い相談じゃないでしょ?

 話の流れ的にそれもどうせ甘言だろうって? 今度こそ本物の甘い果実なのに、もう。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔