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悪魔言詞録

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179.大天使 ミカエル



 私、天使軍の総司令官として堕天使や悪魔と戦うという役割を担っているのですが。どうも、それに関して人の子たちは大きな勘違いしているような気がするのです。私の役割というか、立ち位置というか、そのへんのところを。

 ええ、もちろん。私がそう思う根拠もあります。人の子たちはその歴史の中で、絵筆、ノミ他、さまざまなものを用いて私の姿を表現してきました。そのこと自体はとてもありがたいのですが……。

 いや、姿が格好悪いというわけではありません。とてもりりしくて、私にはもったいないぐらいです。でも、致命的な間違いがあるのです。

 私が描かれているものの多くは、悪魔や竜を打ち倒しているものではないかと思います。しかし、天使の長が自分から率先して悪を退治するでしょうか。

 天使と悪魔が戦うとなれば、それは大規模な戦争になるわけです。そんな大規模な戦争で総司令官が悪魔と戦うことを余儀なくされるとしたら、それは敗北寸前のときだと思うのです。

 もちろん自軍の士気を上げるなどの理由で、上に立つものが先頭に立つことはありますが、それはかなりのレアケースだと思います。上のものは後方で軍の指揮や統率をするのが主な仕事ですよ。まあ、この地位に就くまでにそれなりに実践経験を積んだので、必要とあらば悪魔だってやっつけますけどね。

 また、別の創作物では悪魔の首領であるサタンをやっつけているものなどもあります。でも、私はサタンと刃を交えたことはありません。会話を交わしたことはありますけどね。
 そもそもお互いに天界と魔界で影響力を持っていますから、顔を合わせるなら会談を開きましょうということになるでしょうね。

 しょせん、そんなもんなんですよ。もちろん人の子たちがより神への信仰を深めるために、勇ましく悪魔を倒す私を描く気持ちもよくわかりますし、それを止めろという気もありませんがね。

 ただ、そういう創作物を目にすると、申し訳ないなとも思うのです。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔