悪魔言詞録
135.神獣 バロン
はぁ……。よろしくお願いします。
元気がなさそうだって? ええ、ちょっと疲れていますね。
ここ最近、生あくびが止まらないし、体を動かすとバキバキと音がします。体中が痛くて、体調がいい日なんか一日たりともありません。これじゃ、お得意のバロンダンスもうまく踊れやしませんよ。
故郷のバリ島はおいしいものもあるし温泉もあるんだから、休んできたらいいんじゃないかって? いやあ、そうもいかないんです。
僕には宿敵がいるのはご存じですよね? ええ、あの物理反射で有名な異形の魔女です。あいつは悪の権化ともいうべき憎きやつで、善の象徴である僕としてはなんとしてもやっつけたいやつなんです。
でも、そんな僕の思いとは裏腹に、世の人は僕らの戦いをこう言うんです。「決して終わらない戦い」とね。仮にどちらかが一時的に勝利することがあっても、生まれ変わってまた争い始める。こうして僕らは永遠に戦うことが義務付けられているんだと言うんです。
最初、僕はその話を信じちゃいませんでした。世の中ってのは勧善懲悪なんだ。この戦いはきっと僕、善の側の勝利に終わるだろうと若い頃は思っていたんです。でも、戦い続けていろいろなことが見えてくると、悪には悪なりの論理があることがわかってくる。悪のおかげで救われるものすらある。どうやら善だけでは世界は成り立たないらしい。善悪ともに存在し、両者がバランスをとって対立しながら存在すること。長い目で見れば、これこそが安定というものなのではないか。そう思うようになってきたんです。
僕と彼女は、そのバランスを取るため、それだけのためにいつまでも争い続けなければならない。戦いのための戦い、それがどれほど苦痛なのかは、召喚主さんならおわかりでしょう?
最近は、あの憎き魔女といっそ和解して、合体してしまいたいと思っているんです。そうすれば僕らは、このループから解放されるかもしれない。そんな希望を抱いているんですよ。