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悪魔言詞録

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178.大天使 ガブリエル



 ものごとを正確に伝えるということは、本当に難しいことだと思います。

 事態を正確に受け止めて、自分の中で十分にそしゃくしてその意味合いを吟味し、それを正確に誰かに伝達する。一見すると単なる通り道なわけですから簡単に思えるかもしれませんが、その情報を雑音のないように伝える場合、自己を介在させなければならない点が足かせとなることもありますのよ。

 以前、とある女性に懐胎を告知したことがあったのですが、このとき特にこのことを痛感したんです。なにせ相手は若い娘ですし、しかも身に覚えがないという状況。さらに伝えるのが人の子ではなく天から使いであるこの私。
 それほど深く考えなくてもこんな状況では、パニック状態で話を聞くどころではなくなってしまいそうなものです。私もその点、浅慮であったことを認めます。

 でも、その娘は驚くほど冷静に私の存在を受け入れ、私の言葉に耳を傾けてくださいました。こうして私はどうにか重大な仕事を全うすることができたのですが、このことをきっかけに先述したような、情報を伝えることの難しさについて考えるようになったのです。

 ええ。私の意見を少しばかり挙げてみると、特に人の子の場合、外見や身なりが重要視される傾向にありますよね。これは人々の間でも周知の事実ではないかと思います。
 着飾った身なりでいかにも人生の成功者といった風情の方と、貧しそうな身なりで運命にほんろうされていそうな方。この二人が同じようなことを発言したとしても、受け取る印象がまるで変わってしまう。言葉そのもの以上に雰囲気や状況が重視されるという傾向にあります。

 もちろん、理想的で耳障りの良い言葉だけを紡ぎ出す者はいるでしょう。しかし、外見や雰囲気を装うのも決して難しいことではありません。では、どうすれば良いか。私は、全ては神の御心のままに、と考えたら良いと思うのです。

 そして、そのように考えて受け入れたのが、あの娘だったのです。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔