悪魔言詞録
168.妖獣 フレスベルグ
きっと、とてつもなくさみしいだろうね。
うん、いきなりわけのわからないことを言ってしまって申し訳ない。でも、思い当たる節はあるだろう?
実はね、私には仲が悪いヘビがいるんだ。私がとある木の一番高いところで羽ばたいているのに対して、そいつは地中の一番深いところで根っこをかじっている。そんな私たちはどうも折り合いが悪くて、お互い顔を合わせてもいないのに悪口ばかり言い合うんだよ。
こんな話は、どこの神話にもあるもんだ。ガルーダとナーガ一族も私たちと同じように鳥とヘビという立場で仲が悪いし、バリ島の獅子と魔女だってそうだ。あまねく天使と堕天使もそういうもんだろう。この地の神々も国を譲ってから、表向きは平穏になったが……おっと、この先はやめとこうか。
で、私のライバルであるヘビは何をしているかというと、なぜかこの受胎した地に呼ばれていないんだ。まあ、いろいろ事情があるから、それ自体は仕方がないことだけれども。
でも、あいつがいなかったらさぞかしせいせいするだろうなと思っていたのに、いざその通りになってみるとなんだか物足りない。なぜかはわからんが、本気になれないんだ。
そういう意味では、ライバルと競い合えるということはものすごく幸せなことなんじゃないかと思う。あなたがごくごく少数とはいえ知人とともに受胎後の世界に降り立ったということは、とてつもなく運が良かったのだろう。この先、たとえ誰かを失うことがあっても。この先、たとえ誰かと殺し合うことになったとしても。
召喚主さん、今のあなたはもうそろそろそんなライバルたちと雌雄を決さなければならない状況にきている。でも、たとえ憎むべきライバルであっても、長年ともにいた素性をよく知るものを退ければ、やはり大きな喪失感が心に去来するに違いない。嫌いなやつのいない場所で、すっかりやる気のない私のように。
でも、こればかりは対処法はない。今から覚悟をしておくことだね。