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自分らしく
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彼方から 幕間3 ~ エンナマルナへ ~

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 自分に視線を向ける二人の眼を交互に見やりながら、
「確かに――白霧の森の時の彼女とは、様子が少し違うとはあたしも思うけど……けれど、自分で言ったことを、約束したことを反故にするような、そんな人間じゃないと、あたしも思っているよ」
 年を重ねた者らしく……静かな口調で、アゴルの意を受け留めながらも、バーナダムの言葉に同意する旨を、口にしてゆく。
「それは――それはおれも、思ってはいるが……」
 二人の言葉に、自身の言動を省みているのか、言葉尻を濁し俯くアゴル……

「あんたは考え過ぎなんだよ!」

 不意に……
 俯くアゴルを指差し、バーナダムはそう、断じていた。
 予測のつかない彼の言動に、皆の視線が向く。
 腰に手を当て、ムッとした表情で……仁王立ちするバーナダム。
 『自分は間違っていない』そう思っているのだろう、注目されても動じることなく、アゴルをずっと、指差し続けている。
「……ま、その点に関しちゃ、おれも同意見だがな」
「だろ!?」
 我が意を得たりとばかりに、勢い良く顔を向けてくるバーナダムに、いつもの懐っこい笑みを向けながら、バラゴも大きく頷いていた。
「エイジュのこと、信用してんだろ? だったら喧嘩腰で話しをするの、止めろよな! 聞いてるこっちがハラハラすんだよ!」
「それは……悪いと思っているが――」
 バーナダムの剣幕に、押され気味になるアゴル……
 今、この場だけ見ていると、一体どちらが年上なのか、分かりはしない。
「とにかく、彼女が戻ってきたら、ちゃんと話をすんだろ?! 何か考えんならそれからにしろよ」
 『ったく……』という呟きと共に、差していた指を引っ込め、
「ホント、心配かけんなよなぁ、あんたは一応この隊の隊長なんだからさぁ……見て見ろよ、みんな馬車から出て来ちまっただろうが」
 腕を組み直しながら、呆れた様に視線をゼーナ達へと向けていた。
「あ…………」
 ゼーナを中心に、アニタやロッテニーナ、左大公にグゼナの大臣二人――
 憂いの色が浮かぶ皆の視線や表情に、アゴルは、自身の至らなさを想う……
「今回はバーナダムの言う通りだと、あたしも思うよ、アゴル」
 穏やかな笑みを向けてくれるゼーナ。
「そうだな……それに君は、一人で抱え込んでしまう嫌いもあるようだ」
 ジェイダもそう言いながら、優しく頷いてくれる。
「我々は、戦うことは出来ないが、一緒に考えることは出来る」
「もう少し、頼ってもらえると嬉しいのだが」
 エンリとカイノワも、同じように頷いていた。

 『まったく……仕様がないな』

 そんな意を籠めた皆の苦笑と溜め息が、聴こえてくる。
「……お父さん……大丈夫だよ――」
 優しい声と共に、慰めるように頬に寄せられた小さな手……
 アゴルは娘の手に自身の手を重ねながら、
「済まん……有難う――」
 幼い娘に心労を掛ける自身の情けなさを自重し、笑みを向けていた。
 
「話しは、一段落したのかしら?」

 丘の上から吹き降りてきた風に乗って、彼女の声が、皆の耳朶を捕らえる。

「じゃあ……早速で悪いのだけれど、聞かせてもらえるかしら――『無益な殺生はするな』と言った、その理由を……」

 丘の斜面を降り切り、背後から吹く風に髪を靡かせながら、エイジュがゆっくりと、こちらに向かって歩いて来ていた。

          ***

 自然と……
 アゴルとエイジュを囲むような形で、皆が集まってくる。
 一つ、大きく息を吐き、エイジュの冷めた瞳を見上げると、ジーナを抱え、アゴルはゆっくりと立ち上がった。
「……グゼナの国境近くで野営をした夜、おれとした話を覚えているか……? エイジュ」
「――? ええ、覚えているわ」
 不意の問い掛けに、怪訝そうに眉を潜めながら、応えるエイジュ。
 アゴルに抱かれながら、胸の守り石を握るジーナが、じっと……見詰めてくる。
「あんたは、『世界全体が、まるで暗い影のような……不穏な気配のようなものに覆われていく感じがする』……そう言っていたな」
「…………ええ」
 軽く頷きを返すエイジュに、
「その正体が何なのか……あんたは知っているんだろう?」
 アゴルはそう、問い質していた。
 潜めた眉を戻し、口元に、薄い笑みを浮かべるエイジュ。
「……それが、『殺すな』という理由と、何か関係があるのかしら?」
 まるで、『何か』を期待しているかのように、訊ね返してきた。

「へぇ、あの夜、二人で話なんかしてたのか」
「全然気づかなかったぜ」
「……あたしもだよ」
「おれ達も……なぁ、コーリキ」
「うん……兄さん」
「わたしも……」
 バーナダム以下六人……
 全員の脳裏に、白霧の森での出来事が蘇ってくる。
 あれだけの死闘を繰り広げ、国境を越えた後も、森に巣食っていた化物に襲われた二人……
 あの日、あの夜の出来事が、やけに鮮明に脳裏に浮かぶ。
 バーナダムは一人、無意識だろうか……
 自分の耳に、手を当てていた。
 
「その『影』は、『邪気』と呼ばれるものだそうだな……」
「ええ……そうよ」
 六人の話など耳に入っていないのか、二人は互いに見合ったまま、言葉を重ねてゆく。
「『邪気』とは……闇の世界で時間を掛けて浄化されるはずの、未練や負の感情、負の思いを残して亡くなった人の『気』が――闇の世界に留まり切れずに溢れ出たもの……と聞いたが?」
「……そのとおりよ」
 アゴルの問い掛けに言葉を返しながら、エイジュは……
 彼の背後で黙し微笑み立つ、ガーヤと同じ容姿を持つ女性に、視線を向けた。
 ふっ……と、口元を緩ませる。
 その女性も気付いたのか、同じく、笑みを返してくる。
「……本来、闇の世界から溢れ出てくる『邪気』など、高が知れているわ――溢れ出て来ても極めて少量で、人々に与える影響も少ないものだしね」
「だが、今は違う」
 エイジュの言葉に、噛み付くように語を吐くアゴル。
「今は、『世界全体』を覆い尽くすかのように、『邪気』が溢れ出てきている……そしてその『邪気』は、何かを『望み欲する想い』に強く反応し集まり、そういう想いを持つ人間に、強く影響を与えるのだろう?」
 まるで、その責がエイジュにあるとでも言うかのように、アゴルは彼女から眼を逸らさない。
「何故、溢れ出てきている? 自然に、浄化されるはずのものが」
「何故だと、思うのかしら……?」
 その瞳を真正面から受け留め、エイジュはそう、返しただけだった。
「誰かが……」
 アゴルはそう言いながら、振り返り、ゼーナたちを見やる。
「意図的に増やしているのだろう? 理不尽に命を奪われる人々を……この世界に未練を残し、強い思いを、負の感情を抱えて亡くなってゆく人々を増やすことで……『戦争』に因って――」
 アゴルの言葉、視線に頷くゼーナ。
 二人の様子を見やり、
「その『誰か』は、どうしてそんなことをする必要があると、思うのかしら?」
 エイジュはアゴルにそう、問うていた。
 ジーナを抱える腕に力を籠め、アゴルはエイジュへと視線を戻すと、