狩沢さんと帝人のデート
「うーん、人にはペースとかってあると思うけどね。でもやっぱり高校生くらいだと異性
の子とは話せないって子もいるしねー。そういう子に限って大学ではっちゃけちゃって紀
田君みたいになっちゃうんだけどね?」
「ほめ言葉として受け取っておきます。」
「やっぱりいきなり女の子に対してアプローチをかけるってのは難しいよね?」
うーんと唸りしばらく何か思案顔でいたが、狩沢さんは帝人のほうへ向き直ると手を合わ
せた。
「あ、そうだ、手始めに私で慣れてみるとかどう?」
え?
いきなり飛躍する話の展開に付いていけず思わず帝人は正臣のほうに顔を向いてしまう。
「いや何で俺を見るんだよ!」
「え、いや・・・。え?」
いつものように飄々とした物言いのままだが内容としては無視できない展開になってい
る。
「あのね、私だったら竜ヶ峰君ともそこそこ年は離れてるから同年代の子よりは意識しな
いで話せるかもだし竜ヶ峰君は女性慣れできて・・・私は男子高校生の生態が暴けて!両
方幸せでしょ?」
「生態って狩沢さん・・・。まさか・・・」
アワアワと口を震えさせる正臣を見ながらいたずらっぽい表情を見せる。
「へへ・・・。竜ヶ峰君って紀田君と全然違うタイプの子だし、資料としての幅も結構広
がると思うんだ!新しいカップリングが増える予感だよ!」
「やっぱり!やっぱりそっちなんですね!?狩沢さん!!」
半ば席から離れるように頭を抱えて体を捻る正臣を見ながら帝人は理解出来ない単語の羅
列を頭の中で反芻していた。資料?カップリング?
「・・・でも確かに!デートってのはかなりいい提案です!帝人!こんなラッキーな展開
めったにないぞ!麗しいレディからデートのお誘いだ!ここはひとつ、身を切る思いでお
受けしなさい!!」
「え?え?」
「よろしくね!竜ヶ峰君?」
「え?」
「・・・え!?」
半ば流されるように決まった狩沢さんとのデートは後日決行となり
「連絡したいから!」ということでしっかり狩沢さんから携帯のアドレスと電話番号まで
教えてもらってしまった。
喫茶店を出てもう薄暗くなりつつある通りをぶらぶらと歩きながら狩沢さんがもう一度振
り返る。
「じゃあ、紀田君!竜ヶ峰君!今日は楽しかったよ!
今度は杏里ちゃんともお話させてね!」
「はい!こちらこそ楽しかったです!さようなら!」
こちらを向きながらひょこひょこと後ろ向きで歩き始める狩沢さんに慌てて帝人も声をか
ける。
「帝人、ちょっと待っててくれな。」
「え?あ、うん。」
大分離れてしまった狩沢さんに向かって正臣が小走りで近寄っていく。
「狩沢さん!今日はあの、ありがとうございました。」
「ん?どーしたの改まって。私こそ、楽しかったよありがとう。
だって思えば私たち、ドタチンとか抜きでこうやって話すのって今までなかったじゃな
い?何か新鮮だったよね?」
正臣はその言葉でほっとする自分に気づく。
そしてあたりが薄暗くなっていることを内心感謝した。あまりはっきりと表情は読み取ら
れたくない。
「あの、俺。」
言葉を続けようとする正臣に向けて右手を突き出すと狩沢さんはにこっと笑いかける。
「訂正。正臣君もたいがい真面目だね?」
「え・・・?」
「私たちの前だとあんなにお茶目な君の姿、なかなか見れないからね。」
「!」
「あ、深い意味は無いよ?本当に、ただ単純に友達と一緒にいる君を見れて
お姉さんは何だか安心したってこと。そこに君が引け目を感じる必要、全然ないよ?」
言おうとしたことを先回りされ、正臣は改めて狩沢さんを見つめる。
帝人の前では馬鹿みたいにはしゃぎ回る姿勢を崩したくなかったのもあって
今日は少し狩沢さんに対して馴れ馴れしくし過ぎてしまったかなと思っていたのだ。
・・・でもどうやら、お見通しだったみたいだ。
門田さんや遊馬崎さんにも勝てる気がしないけど・・・・
やっぱりこの人も、只者じゃないよな。
「・・・ありがとうございます。」
ようやっと、一言を振り絞ることができる。俺はやっぱりまだまだ逃げの姿勢が崩せな
い。
「ううん!走ってくるから何かと思ったよー。
あ!もしかして、やっぱり竜ヶ峰君を取られたくない!とか?」
あっという間にいつもの通りに戻った狩沢さんに向かって正臣は思わず吹き出してしま
う。
「違います!あ、でも何か話の流れでそうなりましたけど、帝人のことよろしくお願いし
ます!」
すると今度は狩沢さんのほうが吹き出してしまった。
「一日遊ぶだけなのに大げさなんだからー。何だか友達というかお父さんみたいだよ?
私こそ自分本位のお誘いだからね!よろしくお願いしたいところだよ!
じゃあ、またね!」
そういって狩沢さんはいつの間にか色濃くなった夕闇の中に消えていった。
「わりい帝人。今日のお礼とかお前のことよろしくお願いしますって言ってたら
ちょっと長くなっちまった。」
離れた場所で待ちぼうけを食らっていた帝人に謝る。
「・・・ううん、全然それはいいんだけど・・・。」
そのまま考え込むように黙ってしまう。
・・・帝人の奴、何か感づいたか?こいつ妙に勘がいいからな・・・。
自分と狩沢さん、いや狩沢さん達との間にある違和感を感じ取ったのかもしれない。
もちろん過去にお互いどんな出来事があったのかまでは帝人は知らないのだが。
「・・・あのさ!正臣!もしかして・・・いや、僕の勘違いだったら謝るね!」
真剣な表情でこちらを見つめる帝人。心臓がだんだんと跳ね上がるのを感じる。
まさか、こいつ本当に何か感づいたのか?
「・・・正臣って、狩沢さんにも気があったりする?」
「・・・・・・は?」
しばらく黙り込んだ後、ようやく聞き返す正臣。
「だって急いで追いかけていったし・・・。もしかしてデートしたかったのは正臣だったりしない?」
「・・・・・・・。」
全身から力が抜けていく気がする。あぁ、デートの案、本当に名案なのかもな。
こいつ、もっと誰かに揉んでもらわないと駄目な気がするぜ。
「だったら、今から事情を説明すればきっと狩沢さんも・・・あれ。正臣。正臣?」
帝人を無視してそのまま駅へと向かう。
「ちょっと!正臣!? ・・・やっぱりそうなんだね!?言ってくれればいいのに!
そっか。でも狩沢さんって素敵な人だよね!雰囲気も何か不思議な人だし!!」
たまらずに立ち止まると後ろを振り返る。
「・・・帝人。」
「何?」
がっしりと両肩を掴むとそのまま帝人の体を激しく揺さぶる。
「しっかり、しっっっっっかり!!狩沢さんとデートしてくるんだぞ分かったなお兄さん
との約束な!!」
「!?・・・・・!?」
そのまましばらく帝人は正臣に揺さぶられ続けるのだった。
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10/04/02 22:29
FROM 狩沢絵理華
件名 デートの件
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作品名:狩沢さんと帝人のデート 作家名:えも野