狩沢さんと帝人のデート
気が付けば普通に話すことが出来るようになっていた。
「ね?ほら、恥ずかしいのも緊張も一瞬だけだったでしょ?」
その様子を感じ取ったのか狩沢さんは嬉しそうに笑う。
「はい!本当にこれって効果あるんですね!」
握られたままの手を持ち上げると狩沢さんはにこっと笑うと握った手をぱっと離した。
「うん!さすがスキンシップっていうだけあるねー!」
あれ?離しちゃうんだ
一瞬そんな疑問が頭をよぎるがすぐに思い直す。
いや、つないでいるほうが特別な状態なわけで・・・
そもそも目的は達したんだからこれ以上つないでる意味はないもんね・・・。
「・・・あれ?」
顔を上げると狩沢さんの視線とぶつかる。にやにや。笑っている。
「今帝人君、ひょっとしてもう離しちゃうんだって思ったー?」
「!!」
一瞬で顔が紅潮するのが分かる。
「いえ、あの。僕は・・・!」
狩沢さんは降ろした手をもう一度上げて差し出した。
「・・・?」
「・・・つなぎたい?」
「!!・・・!!」
何か言おうと思うが言葉が出てこない。
狩沢さんがにやにや笑いをやめてにっこりと微笑んだ。
「つなぐ?」
「・・・・・・!!」
視線を落としたまま帝人は黙って狩沢さんの手を握った。
「うん、今度は帝人君が握っててねー。」
そんな帝人をからかいもせずにまた歩き始める。
思わず帝人は心の中で親友の名を呟く。
正臣、これは正解?この対応は正解なのかな?っていうか正臣・・・
お試しデートって言ったのは誰だったっけ・・・。
東口から交番の前を通り過ぎ、少し歩いたところにあるカラオケ店に入る。
「ここはアニソンもいっぱい入ってるからね!オフ会とかにもすごい使われるんだよー!
うん、今日は小手調べに3時間で行こうか!ウォーミングアップね!」
小手調べで3時間というのは長すぎる気もしたが
狩沢さんの様子では3時間でも大丈夫そうだ。
満室のようだったがちょうどタイミングが合ったらしく
10分ほど待たされただけで済んだ。
部屋番号の札を受け取りエレベーターで部屋に向かう。
こ、この手いつはずせばいいんだろう・・・。
すっかりタイミングを失ったままつなぎ続けている手を見ながら
帝人は戸惑っていた。
「このカラオケ店ってさっき言った理由とかもあって日曜日のこの時間は
1時間待ちとかもザラなんだよー。ダメだったら他のお店にしようって思ってたの。
でもうまく滑り込めてよかったー!」
嬉々として離し続ける狩沢さんと一緒に部屋を目指す。
部屋に入ると部屋自体の広さは決して広いとは言えなかったが
2人の人数には十分すぎる広さだった。
「結構広いんですね。」
「どこの部屋も結構広いんじゃないかな?他のお店だと テレビ!2人分のL字ソファ
ー!以上!みたいなとこもあるよねー。タバコくさかったり。」
部屋に入るときにやっと手を離すことに成功した帝人は、
・・・カラオケを出た後も・・・やっぱり僕からつながなきゃだよね!
よし、頑張ってつなごう!
と、少し的外れな決心をするのだった。
狩沢さんに向かいあって座る。
「よし!みかプーどんどん入れてね!途切れないようにしよー!」
さっそく検索機で曲を探し始める狩沢さん。
「み、みかプー?」
思わず聞き返すと狩沢さんが顔を上げてこちらに説明する。
「うん、みかプーはみかプーって感じ!みかどっち、でもいいけど・・・どっちがいい?
あ、でも個人的にはやっぱりみかプー!」
「・・・ど、どっちでもいいです・・・。」
「そう?じゃあみかプーはい、曲入れてねー!」
あ、みかプーで定着するんだ・・・。
狩沢さんの入れた曲が流れ出す。やはり帝人には分からない曲だったが
何かのアニメの主題歌か何かだろうと推測する。
狩沢さんはマイクを握ると真剣そのものといった面持ちで歌い始める。
『~♪♪』
帝人は検索機を持ったまま固まったように動かない。
ちらちらと帝人を見ていた狩沢さんが間奏中にマイクで問いかける。
『ほら!みかプー!早く曲いれないとだよー!』
「・・・あ!はい!!」
慌てて帝人も曲を探し始め・・・だがそのうちに狩沢さんの曲が終わってしまった。
「・・・みかプー。」
「ご、ごめんなさい!」
「どしたのー?なんかぼーっとしちゃってたよね?」
帝人は狩沢さんのほうへと顔を上げる。その表情には尊敬のまなざしが見て取れる。
「ちょっとびっくりしちゃったんです!狩沢さんすごい歌うまいんですね!
圧倒されちゃったっていうか・・・。僕、こんな上手い人とカラオケ来たのはじめてで
す!」
少し驚いたような顔をした狩沢さんは慌てて言い返す。
「ええ、言うほどそんなにうまくないよ!大げさだなぁみかプーは!」
「いやほんとにびっくりして!すごい聞き入っちゃったっていうか!ほんとにあ
の・・・!」
興奮状態のままにある帝人は尚も賞賛を浴びせようとしたのだが・・・
急に視界が暗くなる。
狩沢さんが少し身を乗り出して帝人の頭に手を乗せて撫でてきた。
一瞬何が起きたか分からずに思わず狩沢さんの表情をうかがう。
にこにこ嬉しそうな顔でこちらを見つめる。
「・・・みかプーかわいいね!」
「え?」
「ううん、なんでもないよー。ほめ言葉だよ!さー!みかプーもどんどん曲入れてね
ー!」
「あ、はい!」
慌てて帝人も曲を入れる。
狩沢さんはアニソンがメインだったが様々なタイプの曲を入れ、そのすべてが歌いこまれ
ている印象だった。
帝人自身はあまり歌に自信はなかったのだが
「みかプー、わたしの歌ほめてくれたけどみかプーも相当上手いよ!?」
と狩沢さんが褒めてくれたので少しほっとする。
それから3時間弱を休憩無し、途切れ無しの勢いで歌いつくすのだった。
「すっごい歌ったー!満足したよー!どうする?このままご飯って時間には
まだちょっと早いし。予定通りボーリング行こうか!」
「あ、はい!」
カラオケ店を出て、店の前の路上で立ち止まり、確認を取る。
「いつも僕たちがいくボーリング場でいいですか?ちょっと遠いんですけど。」
「大丈夫だよー!」
狩沢さんの了承を得て、いつも正臣と行くボーリング場へと向かおうとするのだが。
ふと思い立ち携帯を取り出す。
「?どうしたのみかプー?」
「あ、ちょっと待ってくださいね!」
登録してあるボーリング場の番号に電話する。今日が日曜日で、この時間帯に
ボーリング場が込み合うことを思い出したのだ。
「・・・あ、すみません、今からそちらに向かおうと思ってるんですが、予約出来ます
か?・・・はい。はい。・・・あ、そうですか。いえ、分かりましたありがとうございま
す!」
携帯をしまうと狩沢さんに向き直る。
「今からだと1時間待ちみたいです・・・。」
「あぁ~~。そっかー。この時間くらいから余計混むもんねえ・・・。じゃあボーリング
はダメかぁ・・・。他に行くとしたら・・・そうだ!ゲーセンはどうかな?」
「ゲームセンターですか?」
作品名:狩沢さんと帝人のデート 作家名:えも野