狩沢さんと帝人のデート
帝人はあまりゲームセンターにはなじみが無かったのだが、確かに狩沢さんはよくゲーム
センターで遊んでいるような気がする。狩沢さんになじみのある場所で遊ぶのもいいかも
しれない。
それにゲームセンター位なら僕でも楽しめそうだし。
「いいですよ!行きましょう!」
賛成すると狩沢さんはにっこり笑い、すっと手を差し出す。
一瞬躊躇した帝人だが、今度はあまり間を空けずに狩沢さんの手を握った。
歩きながらも会話を続ける。
「何箇所かあるけどどこのゲーセンがいいかな?映画館にくっついてる方?映画館の向か
いの方?」
「狩沢さんがよく行くほうはどっちなんですか?」
「うーん、映画館の向かいの方のかな。あっちのが独立して建ってるから広いし。」
「じゃあそっちにしましょうか。」
いつも前を通るゲームセンターの中に入る。
機械音がけたたましくなる店内には、思った以上に人が入っているようだ。
ずんずんと店の奥に進む狩沢さんに引っ張られるように進む。
「みかプーは何が得意?音ゲー?格闘ゲー?それとUFOキャッチャーとか?」
「あ、僕あまりゲームセンターってこないので、特に得意なのはないんですけど。
でもUFOキャッチャーとかなら何度かはしたことありますけど。」
「そうなんだ!じゃあ色々試して回ろうか?」
「あ、はい!」
狩沢さんに誘われるままに色々なゲームに挑戦したが、そのどれも狩沢さんは
帝人の素人目から見てもかなり上手いことが分かるほどだった。
特に有名らしい音にあわせて手元のボタンのようなものを叩くゲームで
目まぐるしい動きでボタンを叩く勢いは凄まじいものがあった。
「私これ結構好きでやりこんでるの!みかプーもやってみなよ!」
「はい!」
「最初からEXはさすがに無理だからこっちの初級のほうの曲にしようか!」
狩沢さんのおすすめで割りと難易度は低いらしいものを選ぶ。
確かに狩沢さんのやっていたものに比べると一度にボタンを押す数も回数も
圧倒的に少なく、割りとミスせずにやりきることができた。
「みかプーすごい!器用だね!ほんとに初めて?」
「あ、でもこれくらいならなんとか・・・。」
「ううん!すごいよ!筋がいいね!何か鍛えたくなっちゃう!」
狩沢さんが嬉しそうに褒めてくれるので帝人まで嬉しくなってくる。
店内をうろうろしているうちに気がつけば大分時間が経っていた。
「あ、みかプー!そうだ!プリクラとろうよ!プリクラ!」
「プリクラですか?」
「そう!今日のデートの記念に!紀田君に楽しくデートできました!って証明もできるしねー!」
確かにいい記念になるかもしれない。
「いいですね!撮りましょうか!」
たくさんある機種の中から狩沢さんが選んだものの中に2人で入る。
プリクラを撮るのはいつ以来だろうか。正臣と園原さんの3人で撮ったのは大分前だった
気がする。
「ゆまっちとはよくゲームセンターにくるんだけどね。イベント帰りとかは別だけど
あんまりプリクラは撮らないかも!今の子達は何も無くても遊ぶたびに撮ったりなのかな
ー?」
「どうなんですかね?女の子とかはそうかもしれないですけど・・・。」
「男の子だけだと撮れなくなっちゃっててかわいそうだよねー?昔はそんなことなかった
のに。ほんと、今は何でもかんでもすぐ規制って感じー。」
つらつらと話しながらフレームや背景を選んでいく。
「さぁ、ここから怒涛の撮影タイムだよ!みかプー気合入れてね!」
「え?は、はい!」
よく分からない発破をかけられながらも正面の画面を見つめる。
緊張しているのか表情がこわばっているのが自分でも分かる。
「・・・なんかみかプー固いよ?どしたのー?」
「いえ、僕、写真とかもそうなんですけど・・・。改めて撮るってなると緊張しちゃっ
て・・・。」
「そうなの?うーん・・・。」
考え込む狩沢さん。呆れさせてしまったかもしれない。重ね重ね申し訳ない気分になる帝
人だったのだが。
「えいっ!」
「!?」
狩沢さんは突然帝人の両側の頬に手を当てると
「やわらかくなーれやわらかくなーれ・・・」
ぶつぶつと呟きながら帝人の頬をそのままぐにぐにとこね回していく。
「ちょ・・・狩・・・沢さん!?ちょ・・・や・・・・。」
振りほどくわけにもいかずほとんど無抵抗のまま顔を変形させられる帝人。
「あはっ!」
狩沢さんがたまらずに吹き出す。そのまま画面の方を向きまた笑う。
「み、見て!見て!みかプー!!このまま!このまま撮影しちゃう!!」
言われて画面の方に目を移すと確かに撮影のカウントダウンが始まっている!
「ちょ!ちょっとまってくだ・・・!」
「あはははは!!」
より一層こね回す手の勢いを増す狩沢さん。
『3・・2・・・1・・・・』
カシャ!!
おそるおそる撮影画面を見るとそこには楽しそうに笑う狩沢さんと
顔をつぶされたままおびえた表情を浮かべる帝人が写っている。
「・・・・。」
「・・・・。」
手を離した狩沢さんとしばらく見つめあう。
「・・・・っっ!!」
「あははははは!!」「ははははははは!!」
一斉に笑い出す。
「何!何この顔!!あはははは!!」
「ひどいですよ!!狩沢さん!これはさすがに!!あははは!!」
『3・・2・・・1・・・・』
カシャ!!
次の撮影が済んだようで画面には満面の笑みの2人が写りこんでいた。
無言で顔を見合すと
今度は自然な笑顔で次の撮影に備える。
何だかとても楽しくて横にいる狩沢さんの横顔を盗み見ると
視線に気がついた狩沢さんがまたいたずらっぽく笑うのだった。
「うん、いいのがいっぱい取れたね!」
何枚も撮影した中から数枚を選ぶ。狩沢さんからの熱望で最初の一枚も採用された。
あとは大笑いしている一枚と見つめあって微笑している一枚。
2人そろって画面に向かって笑顔でポーズをとっているものなどを選ぶ。
ボックスを出て、外にある画面で狩沢さんが回りにデコレーションをしていく。
ペンで『初デート!!』 『10/04/04』 『えりか みかプー』
などと書き足している。
何か・・・本当のデートみたいだな・・・。などと画面を見ながら
また的外れなことを考えていると はさみで半分にしたプリクラを渡される。
「はい、これはみかプーの分!楽しかったね!」
「あ、ありがとうございます。・・・プリクラでこんなに笑ったのはじめてですよ。」
「私も!このプリクラは永久保存だね!」
「・・・僕としてはちょっと恥ずかしいですけど。」
にやにや笑い続ける狩沢さんに軽く突っ込みを入れる。
「さ、じゃあいい頃合だしご飯に向かおうか!」
「そうですね!」
時計を見るといつのまにか7時近くになっていた。
「ここからまたちょっと歩くんだけどいい?」
「はい。狩沢さんのおすすめなんですよね。」
「うん、はずれは無いと思うよー!それにみかプーは育ち盛りだからね!!」
作品名:狩沢さんと帝人のデート 作家名:えも野