「こんにちは」
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近場の総合病院で腕を診てもらった源田は、病院のロビーで請求額の計算が弾き出されるまでのあまり長くない時間を持て余していた。数年前に、彼は、この病院で入院生活を送っていたが、あの頃と比べると売店の配置も変わっているし、知らぬ間に流行の喫茶店まで入っていて彼が知っている病院とは随分と様変わりしたように感じた。三階まで続く吹き抜けの天井を見上げながら昨日痛めたおかげで首から提げる羽目になった腕を撫でていると、漸く会計のカウンターに腰掛けた女性職員から名前を呼ばれた。
会計を済ませ、店内を拡大したらしい売店に寄ってから帰ろうかと入り口から少し外れたそこへ足を伸ばすと、それはとてつもなく不可思議に思える男を見かけた。あの特徴的な髪型もそうだったし、背丈も、横顔も、あのときから彼は一つも変わっていないのだ。思わず駆け寄り、これもまた変わらないままの華奢な腕を掴むと、確かな肉質と体温があって、疲労やこの病院への懐かしさから見せた幻覚ではなく現実なのだと知らされた。
「不動じゃないか……」
突如として腕を捕らえられた不動は恐らく狼狽しながらも振り返って、彼を捕まえた男が旧友、というよりも、「兄弟弟子」に属する源田だと知って、不動は目を見開き唇の端を僅かに痙攣させた。
「なんだ、驚かせんなよ、お前か」
「久しぶりだな」
源田の胸に、湧き水のように滾々と湧き出る再会の喜びが、源田の端正な顔を綻ばせていたが、不動は、どこか居心地の悪いような、そんな顔を見せてから「どこか悪いのか」、と首を傾げて、そしてやっと首から吊られた右腕に目を留めた。
「ああ、ちょっとばかし痛めた。見た目ほど悪くないから来週にでも取れるらしい」
「相変わらず鈍臭いな……」
久しぶりに叩かれる憎まれ口が懐かしい。源田が不動を最後に見たのは何年も前で、その頃はお互い中学生という大人と子供の狭間にいたが、彼らはもう大人だ。それなのに不動ときたらあの頃からちっとも変わっていない、成長していないものだから、源田は、まるで自分が幼い中学生の時分にかえってしまったような錯覚を起こして、気が弛んだのだ。ただ、昔、姿を暗ました友人が愛おしく、彼が再会を喜んでいるわけではないことにも、何故彼が病院にいるのか気付きもしなかった。