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サヨナラのウラガワ 7

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 それでもアーチャーは座に還ってしまったのだから、不測の事態が起こったか、凛が評価するよりも士郎の力不足さ加減が深刻だったということになるのだろう。
 もっと真剣に対処すれば良かったと凛は悔やみはしたが、その後の士郎の言動に違和感を覚え、そんな悔いもどこかへ行ってしまった。
 士郎は力不足を悔いていたようではあるが、確信を持って魔術と身体の鍛錬に向き合い、勤しんでいた。
 普通であれば、力不足が招いた失敗に、焦りで気持ちばかりが先走り、魔術などうまく操れないはずである。だが、アーチャーを失った直後の士郎は驚くほどに冷静で、自身の未熟な状態を把握していた。
 そんな士郎の姿を見れば、ただ単に士郎の力不足だけが理由ではないとも考えられた。だが、二人の間に何があったのか根掘り葉掘り訊く必要はない、と凛は結論づけている。不測の事態が起こったにせよ、何かしらの約束事を交わしたにしても、士郎が腹を決めて生きていることが、十分に感じられたからだった。
 明確な目標に向かって励む士郎は、ひたむきであったし、見ていて感心するほどの努力を積み重ねているとわかる。何を置いても自身を鍛えることに懸命で、何よりも魔術師として限界まで能力を引き上げようとしていた。
 持って生まれた魔術師の才というものは越えられない壁に阻まれるものであるが、士郎はその突き当たりにまで、この二年で到達している。したがって、もう魔術師としては上が望めないのだ。あとは、会得した魔術を応用し、どう活かしていくかに目を向ける必要がある。その結論を士郎自身から聞いたときの凛の驚きは最たるものだった。
 ――――衛宮くんって、こんなに落ち着いていたっけ……。
 二年の間、セイバーとともにルームシェアをしてともに過ごしていたが、今思い起こせば、常々、落ち着き払っていたところがあったと思える。
 着々と魔術を身に付け、魔力量を増やし、肉体を鍛え上げる士郎を側で見ていて、私のバカ弟子は、こんなにデキが良かったかしら、と首を傾げたこともある。
 ――――それでも、衛宮くんなのよねぇ……。
 別人ではないかと疑い、何度か彼を精査して見てみたのだが、魔術回路に変化は見られず、衛宮士郎でしかない、という結果にしかならなかった。
「はーあ。じゃあ、卒業したら、衛宮くんとは別々ねー」
 お手上げ、というジェスチャーで凛はおどけて見せ、士郎の苦笑を誘った。
「あいつを捕まえたら、いの一番に知らせなさいよー?」
 人差し指を突きつけ、凛は士郎に不敵な笑みを見せる。
「遠坂……、人を指さすのは、やめた方がいい」
 呆れ声の指摘に肩を竦めた凛は、あんたにだけよ、と爽やかに笑うのだった。



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 はたして、この世界に召喚されるのだろうか。
 疑念は尽きない。
 何度か自分で召喚を試したが、できなかった。
 やはり英霊の召喚など、聖杯の力がなければ無理があるのだろうか。
 ならば、待つしか術はない。
 もう、私にできることは、ないのか?
 士郎がこの世界に召喚されることを祈るより他ないのか?
 悔しさに全身を蝕まれるようで、怖気がした。
 何か手がかりがないかと守護者の記憶をあさっても、擦り切れた記憶では、この時代、この場所で、という情報はわからない。何しろ私は、召喚されればすぐに仕事を終え、座に還っていたからだ。
 私の生きた現代に近い、と思うことはあっても、その場所が西暦何年のどの国のどの街だと確かめる術も、そんな気もなかった。ただ殺し尽くし、私は座に戻るだけだったからだ。
「どうしたものか……」
 どうやって士郎の召喚される場所にアタリをつければいいのだろうか。
 私には召喚される何かを察知するような能力はない。世の中には、そういう魔術師もいるのかもしれないが、私の知り合いにはいない。
 凛も優秀な魔術師ではあるが、そういうことはわからないと言っていた。それに、一度だけ再びエミヤシロウを召喚しようと試してくれたことがある。が、成功することはなかった。
 私は凛に、あのペンダントを返してしまったし、士郎はあのペンダントを持っていない。机の引き出しに入っていたのを私が確認している。したがって、聖杯戦争のときのように、あのペンダントの繋がりでは召喚できない。
 エミヤシロウとしての繋がりであれば、衛宮邸だ。しかも、土蔵であれば何かしらの効果があるかもしれない、と、そこで召喚の儀式をしてみたものの徒労に終わった。
 諦めなければならないのだろうか?
 士郎を取り戻す術は、もうないのだろうか?
 ”アーチャー、幸せに”
 士郎の最後の言葉が耳に残っている。
 幸せに、だと?
 ふざけるな。
 私だけで、どうやって幸せになどなれるのか。
 今にも泣きそうな顔で、サヨナラだと言って、あんなにも私を好きだという顔をして……。
 自惚れだというのか、これが。
 私の勘違いだというのか、あれは。
 お前は、私のことを、憧れの延長などではなく、ただただ好きだったのだろう?
 だというのに、手放してしまえるような、簡単な想いだったというのか?
「私は、お前を……こんなにも……」
 今もなお、募る想いに身を焦がしているというのに、お前は、あんなにもあっさりと別離の言葉を吐けたというのか。
 お前は、今、私のことを想っているか?
 私の代わりに座に引き込まれて、あの剣の荒野で私を想っているのか?
 ならば、出てこい。
 私のいるこの世界に、出てこい!
 逃げるなど許さない。
 私に散々熱を植え込んでおきながら、逃げられると思うな。
「だから、士郎……」
 お前に、会いたい。 



Back Side 19

 砂埃が舞っている。
 瓦礫が散乱していて、ここが少し前まで街だったとは想像もつかない。
 生成りの外套が風に煽られ、バタバタと存外大きな音がする。
「雨でも降れば、少しは……」
 口の中が埃っぽく、不快になってアーチャーは口を閉じた。
 守護者であれば、紛争地が一番召喚されやすいと踏んで、アーチャーはずっとこういう場所を彷徨している。
 いまだに士郎を見つけられず、何度も失望を味わった。それでもアーチャーは諦めることなどない。必ずこの手で捕まえる、と、いまだ色褪せない情熱を持ち続けている。
 紛争地に身を置いて各地を転々として三年余り。手がかりの一つも見つけられないまま、士郎との突然の別れから五年以上が経過している。
 その間、世界的には不安定な情勢が続き、紛争地があちこちで見受けられるようになってきている。
 世界情勢を精査して、守護者が召喚されるだろう場所にアタリをつけるのは至難の技だが、アーチャーは努力を惜しまない。ただ、英霊の身ではなく生身の人間であるために無理がきかないのが玉に瑕だ。つい眠る時間を惜しんでしまい、路上で失神したことも記憶に新しい。
 士郎の身体に無理をさせてはならないと、それからは体調管理も手を抜かずにやってきた。おかげで紛争地を渡り歩いていても、すこぶる健康体だ。
「そろそろ、この辺りも落ち着くのだろうな……」
作品名:サヨナラのウラガワ 7 作家名:さやけ