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 皇帝はずっと黙って、靖王を見ていたが、その視線は厳しいものだった。
「誰か!!、景琰を捕らえよ!!。父上を侮辱している!!。大罪だ!!。誰か!!、景琰をここからつまみ出せ!!。」
 献王は真っ赤になって、怒鳴っている。
 わらわらと、数人の太監が、靖王の側に駆け寄った。
 祁王と林殊の為に、これだけ我慢をして、言葉も選んだ。なのに献王如きに言(げん)を潰されては、祁王と林殊は元より、靖王の心も浮かばれない。
 生涯で一度きりの願いを、皇帝に訴える。
「どうかどうか、、父上、お願いです!。何かの間違いです。どうか、、あらゆる面からの調査を、、。」
「景琰!、朕が間違っているというのか!。」
 皇帝が漸く口を開き、と同時に、皇帝の机上に積まれた、上奏書が飛んで来た。避けることは雑作なかったが、靖王は避けずに、奏書は頬に当たって落ちた。
「父上!!、、、どうか、、私に捜査させて下さい。どのような刑罰でも、その後で喜んで受けます。、、死罪でも構わない。、、、、私は許せません。
 祁王を、、赤焔軍を、、、。この梁には天子を欺いた者がいる!。」
「愚か者!、やっと終わった事を、、。蒸し返すか、大馬鹿者が!!。何を考えておる?!。、、騒がせおって、許さぬぞ。」
 靖王は、怒りに震え睨みつける皇帝が、怖いとは思わなかった。ここで引き下がれば全てが終わってしまう。
 靖王は、ありったけの誠意と情を訴えた。
「どうか、私の一生の願いです。他は何も望みません。父上、どうかどうか、一連の捜査をお許し下さい。」
「景琰!、まだ言うか!、全て終わったのだ。皆も聞け!。今後、この件に触れた全ての者を罪に問う。誰であっても、この事案を語ることは許さぬ。」
「父上!!!。」
 全てを絶たれた靖王の絶叫が、大殿に虚しく響く。
「禁軍大統領、景琰を捕らえよ!!!。」
「はっ。」
 わらわらと大殿の内外から、禁軍の兵士が集まり、立ち所に靖王を囲み、必死に抵抗する靖王を引き立てる。
「頼む、離してくれ。聞き届けられるまではここを離れられぬのだ。祁王も赤焔軍も冤罪なのだ。正義を曲げてはなならぬ。後生だ、、離せっ!!、、。」
 靖王は剣を抜いたり、禁軍兵を殴ったりはしないが、必死の抵抗に、御前を守る十人余りの兵士が手こずっていた。
「何をしている、早くつまみ出せ!!。」
 献王の声に、更に兵士が集まり、鎖まで用意され、忽ち靖王は縛り上げられてしまう。
「離してくれ!、父上!父上、父上───!!。」
 いくら叫べども、靖王の願いは、聞き届けられる事は無く、引き摺られるように大殿から連れていかれた。
 この顛末を口元に笑みを浮かべ、楽しげに見ていた献王と、対照的に、終始俯き加減で、無表情に見ていた誉王。
 皇帝の眉間の皺は深く刻まれ、皇帝はその後、他の奏書を取り上げる気にもなれず、その日の朝議は散会となった。






 禁軍に連行され、その後靖王は、宮内の牢に入れられた。
 二度ほど、皇帝付きの太監が来て、靖王に反省を促したが、靖王は、反省よりも皇帝への拝謁を願った。
 その後、靖王は幾度も、皇帝への拝謁を願ったが、叶えられることは無かった。
 夜になって太監が来て、靖王の処分を言い渡した。
 棒打ち五十回の後、屋敷に謹慎と。謹慎の期限は無期であった。
 そして間もなく、刑は執行され、靖王は夜遅くに、皇宮の門の外で待っていた、戦英に引き渡された。
 本来ならば、夜が明けて、宮門が開かれてからの、執行、引渡しになるのだが、朝を待つ事なく。忌む物を吐き捨てるが如く。
 一度閉じた宮門を開けるなど、異例の対応だった。

 靖王は、梅嶺への強行軍の後の、棒打ちの刑罰だ。
 いつもの靖王ならば、数日寝込むだけで、回復するのだろうが、疲労と心の衝撃とで、このまま死ぬのではないかと思う程、酷い状態だった。手枷足枷までされ、まるで罪人の様な扱いに、戦英も黙ってはいられない。
「一体、殿下が何をしたと、、。」
 幾らかでも皇帝に情があれば、軍兵や太監達も意を酌んで、棒打ちの力を緩めるなり、治療をして引き渡すなりする筈だが、そのまま放り投げる様に、靖王を皇宮から締め出したのだ。
 王族と皇宮の無情さに、戦英の頬に涙が流れた。


 夜中ではあったが、戦英は、靖王の治療の為に、共に宮門の前で待っていた靖王府の兵に、医者を連れてくるように言いつける。
 そして戦英は、靖王を王府に運んだ。
「戦でも、これ程の怪我をなさった事は無いのに。」
 背中一面が腫れ上り、打ち傷と痛々しい打撲痕。
 手当の為に、血の滲む衣服を脱がせ、靖王の背中を見ていられず、目を背けた。

 夜中だからなのか、もう既に、靖王か皇帝に盾突いた話が、知られ渡っているのか。町医者は関わりを持つ事を避け、夜も遅いからと、言葉巧みに逃げられ、居留守を使われ、兵士は医者を連れてくる事が出来なかった。十数軒回ったが、どの医者も、取り合わなかったと。
「どうすれば、、、殿下、、、どの医者も来てはくれません、、、。」
 靖王の意識は混濁し、虚ろな状態だった。
「、、、何とか、軍部に掛け合って、軍医に来てもらおう。私が書状を書くから。それを持って願うのだ。」
 戦英は軍医が来るまで、せめての応急処置をしようと、傷を綺麗に洗い、清潔な布を当てておいた。だが衝撃のせいか、この背中一面の傷のせいか、靖王は熱を出していた。熱い体に虚ろな意識。戦英は、困り果ててしまった。多少の傷ならば手当の方法は知っているが、靖王の背中の、範囲の大きな打ち傷と打撲、更には発熱だ。どうしていいのかも分からず、意識も虚ろに横たわる靖王の側で、自分の無力さを罵るしかなかった。
「列少将!。」
 兵士の一人が部屋に入ってきた。
「見て下さい。殿下の馬具にこれが括られて!!。皇宮で殿下の馬を引き取った時、王府に戻ったら、開くようにと太監に耳打ちされて、、、。」
 四つの瓶と紙包みが、ごろごろとぞんざいに袋に入れられていた。そして畳まれた数枚の紙が、一緒に入っていた。
 紙を開くと、それは手紙であった。
 靖王の母親、静嬪からの手紙だった。打ち傷の治療の方法と、その薬。今後、数日は熱が上がり、暫く続く事も記してあった。解熱と、傷が化膿しないよう、薬剤と飲み薬の処方も。
「静嬪娘娘、、。殿下、、静嬪娘娘からお薬が、、。」
 息子を気遣う静嬪の心を感じて、戦英はまた涙した。
 靖王が東海からの帰還を離脱して梅嶺へ行き、それからは凄惨な出来事ばかりで、戦英の心は、休まる事がなかった。
 静嬪には、夜中に棒で打たれた息子が、その後どうなるのかも、分かっていたに違いない。医者も呼べぬ事も予見していたのだ。静嬪は元々医女だ。人目を忍び、この薬が靖王の手元に届くよう、手配をしたに違いない。
 以前とは異なり、静嬪の拠り所の宸妃や祁王はおらず、宸妃の実家の林府も封鎖された。官女や太監は、後ろ盾のない静嬪を蔑ろにしても、罪には問われない。むしろもう既に、大概の官女や太監が、静嬪の肩身を狭くさせていることだろう。
作品名:再見 参 作家名:古槍ノ標