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 静嬪自身が、直接、荷物に薬を忍ばせる、といった事は不可能だ。官女や太監や、皇宮の人伝に、叶えられた事なのだ。こうして何とか、静嬪からの心が届いたという事は、皇宮の中にも、この度の祁王の逆心に疑問を抱いて、静嬪や靖王を、影で助けてくれる者がいる事に、戦英は光が見える思いがした。
「殿下、、お分かりですか?。この国の全ての人が、敵になった訳では無いのです。」
 皇帝の、祁王や靖王に対する処遇に、背筋の凍るようなものを感じて、稀代の賢王と謳われた祁王が、罪人として処刑され、赤焔軍に属していた多くの友がいなくなり、靖王の未来まで潰えたと、主の運命にも悲嘆していたが、今、手の中にある薬と手紙に、僅かな希望を見い出していた。
「殿下、どうか、早く元通りになって、、、。」
 早速、指示通りに傷に薬を塗り、一緒に入っていた薬材を、煎じさせた。
 早い回復を心に願い、靖王の手当てに当たった。








  ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼





 何事も無かったかのように、金陵の年が明ける。

 かの件は、『赤焔事案』と名打たれ、気骨のある文人武人が、祁王の助命と再審を求めて血を流したが、今ではすっかり、金陵の人々も、祁王も赤焔軍も、初めから無かったかの様に、口にする者は居なくなった。

 その名を口にすれば、自分はもとより、親類縁者にも累が及ぶ。
 正義を求めた気骨ある民が、処刑され、いなくなったからかも知れない。


 あれから三月(みつき)が、瞬く間に過ぎてしまった。
 靖王は幽閉され、王府の門も封印され、開くことは無かった。
 


 金陵の都の、衆人を相手に、商いする街路がある。
 そこを、戦英は足早に歩いていた。
「戦英────。」
 呼び止められる声がして、振り返ると、馬上の霓凰がいた。
「霓凰郡主。」
 戦英は両手に荷物があり、霓凰に頭を下げた。
 霓凰も馬を下り、会釈をした。
「郡主、その節は、医師を遣わせて下さり、感謝致します。まだお礼もせずに、失礼をしております。」
「良いのよ、お礼なんて。殿下はもう大丈夫?。」
「、、、、、あ、はい、、お陰様で。
 あれ程酷く打たれたのに、靖王府には軍医にも来て貰えず、困っていたのです。本当に助かりました。
 静嬪にお薬を頂いていましたが、医師に診てもらわない事には、安心が出来ず、、殿下の意識も虚ろでしたし、、。医者によれば、骨や臓腑や頭も大丈夫という事だったので、王府の者が皆、安堵いたしました。ご報告もせずに、申し訳ありません。」
 戦英の言葉に、霓凰は微笑んだ。穆王府とて武門、こういったいざこざや、立場などは、自分の父親を見ていてよく分かる。
「いいのよ、、、私に気を使ったのでしょう?。私と靖王に往来がある事が分かれば、私に迷惑がかかると思ったのね。医者から靖王の具合は聞いていたわ。あの一度きりで、その後の診察は遠慮するなんて、、。謹慎と言っても、治療位、許されてるわ。」
「あ、、、いえ、、靖王府がどう見られているかは、知っています。巻き添えにしてしまっては、殿下も忍びないかと。
 我々は武人です。怪我は絶えません。怪我の治療は皆、心得ています。」
 少し 曇った戦英の表情を見て、霓凰は察した。
「その手に待っているのは、、、また、お酒?。殿下の物なのね?。」
 戦英は、両手に酒瓶を持っていた。急いで後ろに隠したが、既に遅かった。
「もう三月を過ぎるのに、まだ殿下は立ち直れないのね、、、。
 、、、そうよね、、衝撃が大き過ぎたわ。」
「、、、はい、、。」
「、、、靖王は、心の病なのだわ。、、、戦英でも、靖王を立ち直らせる事が出来ないのね、、。心の病は、医者には直せないわ。でも何かきっかけさえあれば、、、きっと靖王も立ち直るはずよ、、。」
 霓凰とて、許嫁の林殊を失った。林殊は、逆族林燮の子として、子もまた罪人扱いだ。位牌を置くことすら許されない。思い出の残る林府は封鎖せれ、入って偲ぶ事も許されない。
 赤焔事案は王室にも衝撃を与え、殊更、林殊を可愛がっていた太皇太后は、大きな悲しみを受けた。孫の晋陽公主と、曾孫の祁王と林殊三人を失った心の痛手は深く、めっきりと老け込み、寝込むようになった。霓凰が太皇太后の元に、足しげく通い、太皇太后の心を癒したのだ。霓凰は人を気遣い、悲しむ暇も無かったのだ。
 そして何よりも、信じるものがあったのだ。
「、、、死んでなんかいないわ。靖王は忘れてしまったのかしら。」
「、、は?。」
 独り言のように霓凰が、ぽつりと呟いた。戦英には何の事やら分からない。
「ねぇ、戦英。林殊哥哥が、本当に夏江に討たれて、本当に死んでしまったと思う?。」
「えっ?。」
「林殊哥哥は、都の怪童と呼ばれた男よ、自分より強い相手も、知恵で負かせてきたのよ。汚名を着せられて、表に出てくる事が出来ないのよ。きっと、、、いえ、必ずこの空の下で、機会を待っている筈よ。」
「、、、。」
「梅嶺で別れた時、靖王もそう思っていたわ。口に出さなくとも、分かる。」
 戦英は、赤焔事案の軍報を読んで、まず第一に、『七万もの軍を、たかだか懸鏡司と巡防衛如きの軍で、壊滅など可能だろうか?』そう思ったのだ。『例え、他の駐屯軍が加勢したとしても』、『梁の軍隊とその将校の事ならば、林燮以上に熟知した者はいない』手の内を知る軍隊に、林燮程の将軍が負ける訳は無い。戦英には、不思議な事だらけの軍報だった。
「ねぇ、戦英。靖王は梅嶺から、弓を持って帰ったでしょう?。」
「あ、、、、いえ、、殿下は直ぐに皇宮に向い、あのような目に遭ったので、、、殿下の荷物はそのままで、荷解きをしていなくて、、、。」
「梅嶺からの荷の中に、林殊哥哥の朱弓が入っているの!。戦英、林殊哥哥の朱弓を、靖王に見せて。きっと思い出すわ。立ち直れる筈よ。」
「はっ、分かりました。探して殿下にお見せします。
 霓凰郡主、ありがとうございます。」
 戦英は霓凰に頭を下げ、靖王府へ向けて、駆け出した。
 だが、何かを思ったか、立ち止まる。
「何?、何なの戦英?。」
「、、あの、、、弓を見せたら、余計に殿下が悲しむような事は、、、、ないでしょうか、、?。」
 霓凰は少し苛ついたが、心を落ち着け、強く言い放った。
「無いわ!。早く見せなさい!。」
「はっ。」
 戦英は再び駆け出した。
~~全く、手のかかる男共ね。
 でも、無理もないわ。どんなに靖王が気丈でも、祁王も林殊哥哥も林主帥も、、大切なもの全てを失った。病になって当然だわ。だけど、林殊哥哥も祁王も、あなたが立ち直る事を願っている筈よ。
 どうか気が付いて。
 そして立ち直って。~~
 




 戦英が、王府に戻ると、梅嶺からの荷を探した。
 書房にあるものと思っていた。だが、書房のどこを探しても、荷物は無かった。
 王府の兵や従者に聞いても、全く分からない。
 あの日、王府は大騒ぎだったのだ。
 更には、靖王府の家職は元々祁王府から遣わされた者だった為に、当然、家職は懸鏡司に連行され、処刑された。祁王府から来た従者達も、処刑された者、行方知れずになった者数多で、王府の諸事が回らなくなっていた。
作品名:再見 参 作家名:古槍ノ標