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 怒りも顕に、礼もせずに背を向け、去りかけた。
 倒れたままの誉王が、靖王に向かって叫んだ。
「良いのか景琰!!!。私ならお前や静嬪を守ってやれる!。皇后の庇護を受けられるのだぞ。
 知っているのか?。静嬪はお前の謹慎を解くために、一昨日から一昼夜、養居殿の外に跪いて倒れた。この寒空にだぞ。
 私と皇后に付けば、今後、そんな事はさせない。
 戻って来い!!、景琰!。」

「母上が、、。」
「そうだぞ、守ってやる!。」
━━『自分の身は守れる』と、母上は言っていた。

 誉王が本心から救いたいのなら、祁王兄上に毒酒なぞ、届けなかったはず。私だったら、罰されても、決っして運びはしない。
 景桓は、昔から口先だけの男だった。
 そんな者に母上を委ねて良いのか?。
 祁王に死を運んだ景桓に?、、、、。━━

「賢人が言っていた、是非は心の中にあると。我ら母子は、兄上等の闘争には組みせぬ。」
 靖王はそう言うと、外套を翻し、その場を去った。
 背後では献王が高笑いし、誉王が何か叫んでいる。
 靖王は、二人の話の内容に興味は無く、勝手にやっていろと思った。

━━この二人には、民の是非など、分かるまい。
 この者達の後ろ盾なぞ、母上も望まぬ。
 この者達の庇護を受けてしまったら、私も母も、何をさせられるか、、、。間違った行いに、否と言えなくなってしまう。━━










 皇宮を出たが、靖王府に戻る気にはなれず、気がつくと林府の門の前にいた。
 門は封鎖の官紙が貼られ、硬く閉ざされている。



 靖王は馬を下り、門扉に触れてみる。
 子供の頃から、何度もこの門を潜ったのだ。

 途端に中に入りたくなり、封鎖の紙を破り、門を押してみる。門は音を立てて動いた。
 懐かしい林府。もっぱら林殊が靖王府に来ていたので、最後に林府に来たのは、いつだったのか。

 門を潜れば、馴染みの門衛が立っていた。
 玄関に入らずに左の庭へ。
 林府殊の母親、晋陽公主自慢の庭園があった。
『景琰、よく来たわ、ゆっくりしていきなさい。小殊は悪さを企んでない?。止めてちょうだいね。』
 庭園を散策する晋陽公主に、そう、声をかけられた。
 晋陽公主の言葉を、笑ってやり過ごし、更に奥へ進むと、林殊の部屋へ。



 林府は既に荒らされていた。
 調度品は持ち去られ、国庫に没収されたか、担当した兵の手元に渡ったか、、。

 林殊の部屋も、あの頃の面影もない。
 空っぽの空間。
 


 靖王は、一人で懐かしもうと思っていたのだが、先客が居た。

「先客が居たか。」
「ええ。」
 霓凰は開け放たれた戸口の、敷居の端に座っていた。
 靖王もまた、反対の端に座った。

 暫く沈黙の時が流れたが、霓凰が口を開いた。
「林殊哥哥の部屋の前の、あの楠、、、哥哥が生まれた時に、林主帥が幼苗を植えたのよね。そう哥哥に聞いたわ。」
「ああ。だが、子供の頃、小殊ときたら、戦に行く時、槍の柄にするから、柔らかくする為に鍛えると言って、しならせて遊んでいたのだ。」
「そうそう、調子に乗ってしならせてたら、真ん中から折れてしまったのよね。」
「怒られるからと、折れた所を布で巻いたり、支柱を立てたりして、誤魔化していたが、強い風が吹いて、楠は再び折れて、、、結局主帥にこっぴどく罰を受ける羽目に、、。」
 霓凰はくすくすと笑う。
「うふふふ、、、晋陽公主が、太皇太后に泣きついて、林主帥に許す様に太皇太后が命じて、気に吊るされた林殊哥哥が降ろされて、あの件は終わったのだわ。」
「折れた楠はずっとそのままで、『まるで小殊の将来の様だ』とからかったら、小殊は酷く怒って、暫く口を利かなかったな。」
 靖王も思い出し、一人でに頬が緩んだ。
「林殊哥哥は、林主帥や晋陽公主にも、事ある度に言われていたわ。だからよ。うんざりしてたのね。うふふ。」
「あはは、、そうか。だが、醜く折れた樹木なら、さっさと切り倒して、新たに植えれば良いのに、小殊はそのままにして、育てていたのだ。」
 霓凰は懐かしんで、目を細め、楠を見ていた。
「樹木に詳しい者に、聞きに行ったり、木に良い水があると聞けば、汲みに行ったり、遠くの山に良い土があると聞けば採りに行ったりしていたわ。
 元通りの形にはならなかったけど、折れた下から枝が伸びて、折れた先も一部は繋がり、葉が茂っているわ。」

 霓凰の話に、靖王の心が温かくなる。
 林殊との思い出が、溢れ出していた。
「ふふふふ、、、。では私も一つ、昔語りを。
 、、、小殊の落ち着きの無さを、実は祁王も案じていたのだ。」
「祁王が?!。」
「祁王は、囲碁でも窘(たしな)めば、物事をじっくり考える様になり、小殊も少しは落ち着くだろうと。
 小殊を祁王府に呼んで、囲碁を教えたのだ。
 だが、小殊の事だ。自分が考えてる時は良いのだが、祁王が次の手を打つまで、手持ち無沙汰になったのだ。暇になり、手に持った碁石を、侍女に向けて飛ばして、遊び出したのだ。祁王に注意され、初めは『自分では無い』と、シラを切っていた。だがその後も、祁王の目を盗んでは、侍女や従者に当てたり避けられたりして、遊んでいたのだ。流石に祁王も気が付き、『気が散るから』と、侍女と従者を皆下がらせた。」
「やだ、目に浮かぶようだわ。」
「小殊は当てる者が居なくなり、祁王には盾つかぬ小殊は、囲碁に向かわざる得なくなったが、やはりあの気性だ。今度は物を的にし始めた。燭台であったり、棚の書であったり、、、。
 そのうち手元が狂って、陶器の壺に当ててしまったのだ。陶器は真っ二つに割れた。あろう事か、その陶器は、祁王府を開いた折に、陛下から頂いたものだったと。
 小殊も壺の来歴は知っている。
 あの小殊でも、青ざめて、座ったまま固まっていた。
 以来、祁王は小殊に囲碁を教える事は諦めた。小殊と碁の対局もしなくなった。」
「えっ、、初めて聞いた話だわ。陛下に頂いた物を壊したなんて、、流石に林殊哥哥でも、その時ばかりは、陛下に罰されてしまったわよね?。」
「いや、、祁王も小殊も、何も罰されなかった。
 祁王は手先が器用で、自分で壺の割れ目を繋ぎ、直したのだ。侍女と従者も下げて、その場には誰も居なかっだから、祁王だけの秘密だったのだ。
 その後は、掃除でも片付けでも、その壺に触ることを禁じたのだ。」
「うふふふ、、、。でも、ちょっと変な話ね。、誰も知らない筈なのに、何故、殿下は知っているの?。私をからかっている?。」
「ふふふ、、、私も、その場に居たのだ。慌てた祁王から、『死んでも人に漏らすな、墓場まで持っていけ』と、釘を刺された。」
「あははははは、、いやだ、あの祁王がそんな事を。私もその場に居たかったわ。うふふふふふ。」
 
 霓凰自身、あの日以来、笑った事が無かったが、思わぬ所で、存分に笑え、心の霞が、いくらか晴れたような気がした。
「あー、面白かったわ。
 、、、せっかく、靖王府の封鎖が解けたと思ったら、明日には出征だなんて、、、、酷い話。
 城門で見送ろうと思ったけど、私も明日、雲南に帰らなくてはならなくなったわ。南楚がまた、騒ぎ出したんですって。」
「ふっ、、小殊の居ない金陵なぞ、何が面白い?。」
作品名:再見 参 作家名:古槍ノ標