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来栖なお探偵事務所 1話 依頼

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「ぅ〜ん、分かったよ、ただ、危険じゃなければ受けてもいいんだよね」

そう笑顔で答えたなおは、果たしてちゃんと理解して頷いたかは甚だ疑問だが、今は依頼主を待たせる訳にもいかず助手は準備する事にした。

「では、自分はお茶とお菓子の用意をしてきますので、先に応接室の方に行ってお話をして下さい」
「は〜い」

なおはそのまま応接室に入り女性と挨拶し合った。

応接室から事務室には声が聞けるようになっているので、お茶とお菓子の準備をしている間に、助手は執務室で会話を聞いていた。

「初めまして、来栖探偵事務所所長の来栖 なおです」
「初めまして来栖 なおさん、私は朝谷 菊(あさたに きく)と申します」

お互いお辞儀しながら名刺を交換して、机を挟んで対面のソファーに腰掛けた。

「朝谷 菊さん、ですね、お仕事は…え?朝谷カンパニーの社長さんなんですか?!」

名刺に書かれている職業欄に、そう書かれていて、なおは驚いた声を出した。

朝谷カンパニーと言えば古くから続く名家だ。

様々な分野で大成功して、世界的にも三本の指に入る大企業だ。

医薬品、雑貨屋、建設業、ファッションなどなど殆どのもので大手と名のつくものは大体が朝谷カンパニーだ。

(そんな大企業の社長がどうして)
「どうしてそんな大企業の社長さんがこんな探偵事務所に?」

助手の考えと同じ事をなおも思ったらしく、朝谷社長に聞いていた。

大企業の社長ならもっと有名所な探偵事務所も探せたはずなのに。

「実は、あまり公(おおやけ)にせずに解決して欲しいことがあって…」

朝谷社長が少し緊張した面持ちで話そうとしたタイミングで助手が応接室にノックした。

「失礼します、お茶とお菓子をお持ちしたのでお召し上がりください」

助手は銀のトレイに載せた紅茶を入れたティーカップとショートケーキを載せた小さい食器とフォークをテーブルの上に二つずつ置き、なおの座っているソファーの後ろに立った。

「ありがとう」
「ありがとうございます」

女性陣二人がお礼を言いながら紅茶を一口ずつ飲み、先程までの緊張感はなくなり、リラックスした。

「このお茶凄く良い入れ方ですね、蒸らし方も温度も、しっかりしてとても美味しいですね」

朝谷社長はそう言いながらケーキを一口食べる。

「このケーキ、甘さが控えめでこの紅茶と凄く良く合いますね」
「ありがとうございます」

朝谷社長の言葉に軽く頭を下げ、ちらりとなおの方を見てみると。

「あ〜んっ、ん〜っ!美味しい!」

パクパクと食べていき、終始笑顔で食べきった。

「ご馳走様、美味しいお菓子と紅茶ありがとうございました」
「お口にあって良かったです、それでは、依頼の話をしましょうか」

朝谷社長がケーキを食べ終わり、緊張もだいぶ解れてから助手は依頼について聞いた。

「あ!そうだね、依頼について話すんだった」

なおのその言葉に若干呆れたが、朝谷社長は可笑しそうに微笑みながら話し始めた。

「そうですね、先ずはこちらをご覧下さい」

そう言って朝谷社長は折り畳まれた紙を取り出した。

「これは?」
「私の母の遺書です、先日亡くなってしまって」

朝谷社長は少し悲しげな顔をした。

「これは母が亡くなった後に見つけたのですが、よく私にはわからなくて」
「分からない?」

朝谷社長はその遺産をなおに渡し、なおは遺書を開きそれを読んだ。



菊へ

この遺産を読んでいるということは、私は既に死んでいる、という事でしょう。
私が最後にあなたに残せる物は、生涯私が大切にしてきた物ぐらいしか有りません。
ただ、それは公に出してはいけません。
それを世に出せば恐らく、あなたは危険な目に遭うかもしれません。
なので、少し見つかりにくい場所に隠しています。
他の兄弟、親戚等にも一切他言しては行けません。

追伸
そのペンダントと鍵は必要になるので、決して手放してはいけませんよ
12月12日



なおが読み終わり、遺産を一旦机に置き、紅茶を一口飲んで息を着いた。

「なるほど、一応聴いておきたいのですが、亡くなられたお母様のお名前は?」
「朝谷 洋子です」
「ん?同じ苗字、何ですか?」

朝谷社長は既婚者である、それはテレビ等でも報道されていた。

だからこそ同じ苗字な事に疑問を持ち、なおは咄嗟に聞き返した。

「ええ、家は代々女性は嫁がずに婿養子を取って名前を残してきたのです」
(なるほど、名家だからこそ、その名前と血縁を絶やさない為か)
「凄いですね」

納得する助手と素直に驚くなお。

「それと遺書にも書かれていましたが、こちらが同じく一緒に入っていた鍵とペンダントです」

そう言って朝谷社長がカバンから取り出したのは、星の形をした薄い硝子のペンダントと古びた鍵だった。

「両方、かなりの年代物ですね」

助手の言葉に朝谷社長は頷き答えた。

「この鍵とペンダントは一応鑑定士に鑑定してもらった結果、明治初期にと作られたものじゃないか、と言われていました」
「明治って、相当昔の物なんですね」

なおは珍しいのかその鍵とペンダントを持ってじーっと見ていた。

「なるほど、ちなみにこの鍵やペンダントの入っていた遺産は何処で?」

助手の疑問に朝谷社長はすぐに答えてくれた。

「ええ、この遺書は母が最後に、私と一緒にいた時に残した言葉で分かって、探し出したものなのです」
「なるほど、その言葉って教えて貰っても?」

なおが鍵を置いてから興味深そうに聞いた。

「母は、菊の好きだった庭の桜の木の下に大切なヒントを残したと、そう言っていましたので、私は母が亡くなった後に、庭にある桜の木の下を少し掘ってみました。そこには缶がありまして、その中身が今お見せした鍵とペンダントと手紙だったんです」

朝谷社長が話終わり、紅茶を一口飲み、喉を麗した。

そして、話を聞いてた助手となおはお互いに耳を寄せて話し合った。

(ねぇ、これは受けてもいいんだよね?)
(そうですね、少し遺書の内容に不穏な空気を感じ取ってしまう文面がありましたが)
(助手君は気にし過ぎなんだって)
(そうでしょうかね)
(それじゃこの依頼は受けるでいいね)
(はぁ、分かりました、何か大変なことにならなければいいのですが、一応先に報酬の話もして下さいね)
(分かってるって)

二人の会話が終わり。

「朝谷社長、一応先に報酬の方も聞いておきたいのですがよろしいですか」
「えぇ、報酬なら先にこちらを」

そう言って朝谷社長が取り出したのは1枚の紙だった。

「「え?」」

なおと助手はそれを見た瞬間固まった。
その紙は小切手で、金額の所には五百万と書かれていたからだ。

「えぇぇぇ!こ、こんなに!?」
「えぇ、これは前金なので、もし探し物が見つかれば同じ額をお支払いします」

驚くなおと、普通に話す朝谷社長。

金銭感覚が圧倒的に違いすぎて助手も少し呆然としたが、直ぐになおの肩を叩いて正気に戻した。

「なおさん、落ち着いて」
「ぼぼほ、ぼくは、おおおお、おち、おちついてるよよょ」

ダメだ、落ち着いてると言ってるだけで一切落ち着いてない。