その先へ・・・6
イワンはポロポロと涙をこぼした。
「夢?」
「妹は教師を夢に見ています。父の様な教師になりたいと」
イワンは流れる涙を拳で拭った。
「この包みを持ってきた男が現れたのは、同志ルウィからの誘いがあったすぐ後でした」
「わかった……。よく、話してくれたな」
アレクセイはイワンの髪をくしゃくしゃっとかき混ぜた。
「同志ルウィは、あなたは貴族出身の鼻持ちならない理想主義者だと言っていました。どんなありがたい事を言ったって、どんな活動をしていたって、あなたは、所詮は貴族だって。自分達の気持ちなど分かりはしない、と。まだ未熟なぼくはあなたという人物を理解出来ず、同志ルウィの言葉を信じていました。だからこの包みも渡せなかったのです。ですが、あなたの事を知れば知る程ぼくにはどうしても彼が言う様には思えなくなりました。さっき彼を殴ったのだって、あまりの言いようにハラが立ったからです。ユリウスの事だって……」
「おまえ、ユリウスの事はヤツに話したのか?」
「いいえ……。話せば利用されてしまう事は分かり切っていたので」
「そうか。……すまないな」
「ただ……」
「ただ?」
「実は今日は彼に呼ばれていたのです。ですが、宿に行ってもいなくて‥…」
嫌な予感がした。
ルウィが明日の昼に帰る事は間違いなかった。支部の女性が切符を用意していたから確かだ。
あのルウィが短時間の滞在でしか無いこの街で、大人しく宿で体を休めるだろうか?
アレクセイとユスーボフ侯爵の関係を調べ上げると豪語して憚らないあの男が。
ユリウスの存在を把握し、あんな風に……
咄嗟にアレクセイはコートを掴み身を翻した。
「ア、アレクセイ!どうし……」
「ルウィのヤツ!最初からこうなる事を予想してやがった!くそっ!!」
「えっ?あの、どういう……」
「行けばわかる!おまえもこい!」
2人は足音荒く部屋を飛び出し、女将への挨拶もそこそこに雑踏の中へと吸い込まれていった。