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自分らしく
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彼方から 幕間4 ~ エンナマルナへ ~

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 手下たちの、何とも言えない表情を見やりながら、
「まぁ、任せておけ……グゼナの兵共が、約束を守ってくれりゃあ、後は何とでもなる……」
 頭は、酒を一口呑み、眼の前にある料理に手を伸ばす。
「どんな能力者だろうと、このおれ様……」
 見事な焼き色のついた、骨付きの肉を鷲掴みにし、
「『風使い』カイダール様の手に掛かれば、赤子の手を捻るも同じよ――」
 自信に満ちた言葉と共に、食い千切っていた。

          *************
 
 夜空には変わらず、星が煌めいている。
 雲一つない紺色の空に流れる星の河は美しく、いつ見ても飽きることがない。
 大きな岩が幾つも並び立つ荒れ地……
 吹き込む風はその勢いを殺されながらも通り過ぎ、微かな音を鳴らしてゆく。
 夜風を遮る大岩の下、揺れる炎に照らされる馬車の姿が見える。
 聳え立つ壁のような岩肌に、幾人もの人影が揺らめきながら、映し出されている。
 火の熾された薪は、柔らかな光と共に、夜気で冷えた体に温かな食事を齎してくれる。

 眠りに就く前の一時……
 皆が、夜具の用意を始める中――
 ゼーナは一人、馬車の中に身を置き、台に置かれた鏡を前に精神を集中させていた。 
 細い、光の帯が、遥か上空から……そして、乾いた大地からも伸び、ゼーナの体を包んでゆく。
 胡坐を掻き、ゆったりとした姿勢のまま、少し俯き瞼を閉じる。
 静かで深い呼吸を繰り返し、ゼーナは自身の能力の導くままに、『先』を『占て』いた。

 脳裏に映し出されるのは、遠くに見える、エンナマルナの岩壁。
 剣を手に、戦う皆の姿。
 相手は五人――内一人は能力者……と思われる。
 更に精神を集中させる。
 能力者の『力』が、どんなものであるのか、見極めようとする……
「――ん……?」
 不意に、嫌な気配を感じた。
 『何か』が、『占い』に干渉している……そう、感じる。
 そう思った矢先、脳裏に結ばれた映像に、霞が懸かり始めた。
 霞は薄い闇となり、やがて、漆黒へと移り変わってゆく……
 
「……どうやら、妨害されたようだね」
 
 もう、どれだけ精神を集中させようとも、映像の欠片すらも、脳裏に浮かび上がらせることは出来ない。
 この先――遭遇するであろう戦闘の行く末も、能力者の『力』も、『占る』ことは敵わなかった……
 
          ***

「……エイジュ――待っててくれたのかい?」
 『占い』を終え、幌幕を開けたゼーナの眼に飛び込んできたのは、待ち兼ねたかのように腕組みをして立つ、エイジュの姿だった。
 いつもの笑みを浮かべ軽く頷き、
「『占て』――くれたのでしょう?」
 そう、問い掛けてくる。
「ああ……」
 ゼーナは眉を潜めた笑みを返し、深く、息を吐くと……
「あんたの予想通りだったよ」
 差し出されたエイジュの手を取り、ゆっくりと、足下を確かめるようにして、馬車を降りていた。
 エイジュから、笑みが失われる。
「やはり――能力者がいるのね……」
 遠く、北の空を見やりながら、低い声音で呟く彼女に、
「ああ、一人だけ、だけれどね」
 ゼーナはそう、応えていた。
「……一人だけ……そう――そうなのね」
 何度か軽く頷き、エイジュは口の中で小さく、ゼーナの言葉を反芻する。
 やがて、ゆっくりと踵を返すと、
「少し、辺りを探るわ……暫く一人にしてと、みんなに言っておいてもらえるかしら」
 そう言い置き、周辺に立つ大きな岩の一つに、軽々と飛び乗っていた。
「占いの結果をみんなにも話すけど、あんたはどうするんだい? エイジュ」
 下からのゼーナの呼び掛けに振り返り、
「知りたいことは知れたから……」
 首を振りながらそう応えると、もう、いつもの笑みを浮かべ、更に高さのある岩へと飛び移ってゆく。
 岩の頂点に立ち、動きを止めるエイジュ。
 彼女が、『探り』を入れる為に集中し始めたのを見届け、ゼーナは皆が囲む焚火へと、爪先を向けていた。

          ***

「エイジュはどうしたの? 姉さん」
 二人のやり取りを見ていたのであろうガーヤが、大岩の上に立つ、エイジュの影に眼を向けながら、声を掛けてくる。
「昨日頼まれていた『占い』を、したんじゃないの?」
 問いを重ねてくる妹に、
「知りたいことは知れたから、占いの結果は聞かなくても良いって……」
 そう応えながら歩を進め、
「少し、辺りに探りを入れたいから、暫く一人にして欲しいそうだよ」
 何事かと、興味深げな視線を向けてくる面々に向けて、ゼーナはそう告げていた。
 アニタとロッテニーナに誘われ、焚火を囲む皆の輪の中に……
 空いている場所へと、腰を落ち着けるゼーナ。
 一息吐く彼女に、
「何を頼まれて、どんな占いをしたんだ? ゼーナ」
 怪訝そうな面持ちでいる皆を代表するかのように、バーナダムが率直に訊ねていた。
 注がれる視線に応えるように見渡し、
「この先、あたし達に差し向けられる追手の中に、能力者がいることを確かめたいってね……それで、占って欲しいって頼まれたんだよ」
 ゼーナはバーナダムの問いに応えていた。
 彼女の周りに、同じように腰を落ち着けたガーヤやアニタ、ロッテニーナも、その言葉が正しいことを示すかのように頷いている。
 ゼーナの言葉に、少し眉を潜めながら、
「では――エイジュは我々に新たな追手が掛かることを、前提としていたと、いうことだね?」
 ジェイダはそう、問うていた。
「そうです、左大公」
 落ち着いた笑みを浮かべ、頷き、応えるゼーナ。
「昨日、馬車の中で彼女に診てもらっている時に、そう、頼まれましてね……グゼナの兵を足止めしただけに止めた時点で、彼女はもう、追手は掛かるものと、覚悟していたようですね」
 続けて紡がれたゼーナの言葉に、皆の視線は自然と――頭上高く聳える大岩の頂点に立つ、エイジュの背に、向けられていた。
 星明りの中、彼女のシルエットが黒く……浮き上がって見える。
「能力者がいるかどうかってことだけなのか? 『占てくれ』って頼まれたのはよ、ゼーナ」
 皆の意識がエイジュに向けられている中、不意にそう問うてきたのはバラゴだった。
「エイジュが気にしていたのは、それだけだったね」
 ゼーナの応えに、
「『占えた』のは、それだけじゃないということか?」
 今度はアゴルが、そう問うて来ていた。
 再び集まる視線に、ゼーナは緩めていた口元を引き結ぶと、
「ああ、違うよ。『占えた』のは追手と遭遇すると思われる場所、そしてその人数……残念ながら、その戦いの行く末までは、『占えなかった』けどね」
 皆にも、気の引き締めを促すかのように、『占い』の内容を口にしていた。
 彼女の『占い』に、皆の顔に緊張の色が浮かぶ。
 互いに見合い、一呼吸、間を置いた後……
「追手の人数は?」
「五人」
「場所は何処なんだ?」
「恐らく、エンナマルナから、さほど離れてはいない所」
「いつ来る?」
「『向こう側』からの妨害が入ってね、正確には分からなかったが、そんなに先のことじゃない……きっと、この数日以内には、彼らはあたし達に追い付き、襲って来るはずさ」