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さみしさの後ろのほう 16~20

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18

俺にとっては帝と初めてのキス。けれど帝にとっては多分本当に初めてのキス。もしかしたら小さい頃身内としてるかもしれないけど、まあそれは数に入らないだろう。
初めてのキスがこんなだなんて、怒るかな。以外の可愛い物好きなんだから、以外とロマンチストだったりもするのかもしれない。ちらりと考えたけれど、すぐに二度目三度目は優しくして許して貰う事にした。
俺の真下の顔は呆然としていて、口は少し開いたまま。舌を入れるキスがあるだなんて、知らないんだろうな。頂けるものは頂いておこうと遠慮無く下唇を舐めた。驚いて引っ込んだ舌を無理矢理引き摺りだして、絡める。力が入らないようなのを良い事に、そのまま奥へ奥へと進めてゆく。
時々漏れる苦しげな声が艶めかしい。とても服装の乱れは精神の乱れ!とか叫んでる奴の声とは思えない。
同時にシーツの上で丸められた手に手を重ねる。背中に回して貰えないのは俺の所為。自分の事ばかりに目がいって、こいつの淋しさに気付いてやれなかった俺が悪かった。

倒れたばかりなのだから控えめにしておいたのだが、それでも帝には刺激が強過ぎたらしい。解放した頃にはぐったりとしていた。いつもの憎まれ口すら叩けない程に。潤んだ眸があの夢を思い出させて、胸が苦しくなった。
だから抱き締めた。壊さないようにそっと肩に腕を回して、けれど崩れないようにしっかり支えて。

「好きだ」
「何が」
「お前が。好きなんだ。本当に好きなんだ。だから、お前の事もっと知りたくて。……なのに、淋しい思いさせたよな?ごめん」

帝は何も答えなかった。代わりに首が少し傾いて、黒い髪が俺の首を擽った。嬉しかった。なのに泣きたくてしょうがない。

「倒れるぐらい無理すんなよ。心臓止まるかと思った」
「これぐらい平気だと思ったんです」
「どれだけ貯め込めばこうなるんだよ、ばぁか。……違うか。吐き出すに吐き出す場所無かったんだよな。ごめん」
「…………」
「なあ、まだ間に合うか?お前の隣に居て良いか?二人で一緒に居たい。他でも無いお前と、二人で居たい。もう絶対、淋しい思いはさせないから」

返事は無かった。けれど代わりにずっと鼻を啜る音が聞こえた。体勢の所為で顔は見えなかったけれど、今は見られなくても良いと思った。弱々しく服の裾を握った、その指先だけで今は十分だ。

「そう言われたら私は弱くなってしまうかもしれません」
「それの何が悪い。それがお前ならそれで良いだろ。確かお前の家のクッション、“沢山泣いたらご褒美に頭なでなでしてあげる”だっけ?そんな感じの事書いてあったよな。それやってやろうか?」

馬鹿ですか、貴方。聞き取るのが難しいぐらい潤んだ声で言われた。
震える背中を温めようと必死になって擦った。ぼろりぼろりと零れ始めたのは弱音。その一つも取り落とすまいと思った。