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サヨナラのウラガワ 11

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 わかっていたのならば、どうして反対してくれなかったのか、と、士郎はがくりと肩を落とした。



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 やってしまった。
 もう、無理だ。
 もうだめだ。
「も、もう……」
 衛宮邸の門を出てすぐ、よろよろと塀に片手を付き、空いた手を額に当てた。
 項垂れたまま、己の過失を噛みしめる。思い返しただけで背筋が寒くなってきた。
 うまくやっていたはずだった。
 いや、うまくいくように、私は必死に、いろいろなことを抑制して……。
 それがいけなかったというのだろうか。
 私を心から信用している士郎を裏切りたくなくて、必死に己を殺していたというのに……、私の努力を嘲笑うかのように、士郎はいつも無防備だった。
「いや、士郎は何も悪くない。悪いのは、私だ」
 許せないのは、我慢がきかなくなり、どうしようもなくなって士郎を抱きしめてしまった自分自身。
 買い出しに行くと言って逃げてきたのはいいが、士郎になんと言って弁明すればいいのか……。
 どう考えても、どんなにシミュレーションしても、もっともらしい理由を付けて誤魔化すことができない。
「この際だ。すべて認めて、ガンガン攻めてみるか?」
 すでに取り返しのつかないことをしでかしているのだ。しかも、凛とセイバーに目撃されている。彼女たちの追及から逃げ果せるわけがない。
「いや、だが……、勝手なことをするわけにもいかない」
 士郎の意思を無視していては、五年前と同じだ。
「……であれば、率直に謝り、許しを得て、それから、士郎に伺いを立てて…………、……っ、追い出されるのが、オチか」
 額に当てた手をずらし、口元を押さえる。
 ため息が妙に熱い気がした。
 この手で感じた熱量を、もう二度と失いたくない。士郎ともう一度、恋人としてやり直したい。
「だが……」
 そんな都合の良い話はないのだ。
 ずる、と引きずるように足を前へと動かす。買い出しに行くと言った手前、何か買って帰らなければならない。
 すでに数日分の買い出しが済んでいるために、何か違和感のないものを適当に見繕わなければ……。
「ああ、そうか。セイバーがいるから、食材が足りないということにすれば……」
 そんなことをつらつら考え、向き合わなければならないことから目を逸らしている。
 仕方がないだろう、今まで隅に追いやって考えないようにしていたことを、いきなり目の前に突き出されたのだから。右往左往くらいさせてほしい。
 む……、私は誰に言い訳をしているのだ……。
「はぁ……」
 情けないが、ため息しか出ない。
「どうすればいいのだろうか、これから……」
 士郎と今まで通りに過ごせるだろうか。
 もし、出て行けと言われてしまえば、私はどこにいけばいい?
 いや、出て行けくらいならばいい。このまま契約を解除されてしまうかもしれない。
「それが、いいのかもしれないな……士郎にとっては……」
 ずいぶんと弱気になっている自分自身を嗤い、商店街へ足を向けた。



 買い出しから戻れば、凛だけが居間に陣取っている。心の準備をしていたとはいえ、やはり、さっさと帰ってくればよかったと後悔する。何しろ私は、買い物に出たのをいいことに、昼を過ぎるまで戻らなかったのだ。
 買い出しにはたいした時間もかからず、すぐに帰宅することができたというのに、なかなか足が衛宮邸に向かわなかった。おそらく昼食は士郎が作ったのだろう。
「待ってたわよ、アーチャー」
 昼食の時間をとっくに過ぎていたため、青筋を立ててガンドを構えているのだと思っていたが、凛はいたって普通だ。
 見ていたテレビを消し、士郎が淹れたらしい緑茶を啜って、私を手招きしている。
 これから説教がはじまるのか、それとも座への強制送還か、どちらにしても私にとっていい話ではないだろう。
 食材を冷蔵庫にしまってから座卓につけば、凛は頬杖をついたままで、にっこりと笑う。私の心的要因からか、その笑みは、どう贔屓目に見ても不穏なものにしか見えない。
 落ち着かない。逃げてしまいたい。蛇に睨まれたカエルは、きっとこんな気分なのだろう……。
 凛の機嫌が良いのかどうかなど見当もつかないが、まあ、逃げずに話を聞くのがマナーであることだし、逃げたところでいいことなどないとわかっている。非は、私にあるのだから……。
「アーチャーの言っていた、士郎のうなされる原因って、なんなの?」
 何を言われるのかと心構えをしていたのだが、拍子抜けしそうになる。
 なんだ、その話か。いやいや、まだ油断はできない。このあとに本題に入る、ということなのかもしれない。
「アーチャー?」
「あ、ああ。おそらく……、あの赤い痕が原因だろう」
「…………」
 凛はしばらく目を丸くしていたが、だんだんと険悪な空気を醸し出してきた。
「な、なんだ、私はただ、」
「そんなことは、私だって、はじめから、知っていたんですけどっ?」
 噛み砕くように言う凛の語気は強いものだ。まずった、と思ったが、もう後の祭りだ。
「衛宮くんの身体に表れる赤い痕が、うなされる原因よねっていう予想なんて、はじめからわかっていたことじゃない!」
「あ、ぅ、す、すまない、それは、そうなのだが……」
 私がほとんどの言葉をはしょってしまったからだろう、凛は今にもガンドを撃ちそうだ。
「その……、言葉が足りなかった。私が改めて気づいたこととは、あれが傷痕だということだ」
「え? 傷痕?」
「ああ」
「ど、どういうことなの?」
「その前に、二人はどこへ?」
 先ほどから屋敷の中にあるはずの士郎の気配を探っているのだが、全く見つけられずにいる。士郎がいないことに少々不安を覚えたのもあるが、こんな話を士郎抜きにしていれば、以前と同じように気分を害されるかもしれない。
「衛宮くんとセイバーは藤村先生のところよ」
「……そうか」
 それならば大丈夫だろう。屋敷内に居ないのならば、うっかり聞き咎められることもないだろうし、今朝の私がやらかしてしまったことに対しても気が紛れるだろうし、あわよくば私の失態も忘れてくれ……ることはないか……。
 私の悶々としたものはさておき、あの傷痕に関して話し合うのであれば、士郎がいない方がいい。記憶のない士郎にあの傷痕が何かを思い出させるきっかけになるかもしれないのだから。
「それで? 早く話してよ」
 凛はいつになく急かしてくる。
 当たり前か。
 彼女はいつも、士郎の調子が少しでも良くなるのなら、と心を砕いてくれていたのだ。たとえ僅かな手がかりであっても、少しでも早く知りたいと思うのは当然だろう。
「赤い痕をよくよく観察すれば、傷痕と呼ぶのに相応しいと思えた。あれが傷として士郎の深層心理に残っているのではないかと私は思うのだが、凛はどう思う」
「ほんとに傷……なの? 皮膚が赤いだけで、私にはよくわからなかったけれど?」
「ああ、傷だ」
 これだけは間違いない。私の経験上、あれは間違いなく傷痕だと断言できる。
「そう……。アーチャーの言う通り、傷だとして……、それで、うなされる……ってことね。確かに、そう考えるのは、自然ね」
 こくり、と頷けば、凛も小さな頷きを返してくる。