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サヨナラのウラガワ 11

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「士郎は夢を見ていないと言っていたが、覚えていないだけで悪夢を見続けているのではないだろうか」
「悪夢……」
「殺し、殺される、生々しい経験の悪夢をな」
「……そうだとすれば、辻褄が合う気がするわね」
 凛は深刻な顔で考え込む。おそらく、私と同じことを考えているのだろう。
「傷痕を、癒す方法はあるだろうか?」
 回りくどい言い方はせず率直に訊けば、凛は腕を組んで考え込んだ。やがて、こく、と凛の顎が引かれる。
「ある……のか? それは、どうい――」
「慌てないで、できるかどうかの確信はないわ。だけど、それで衛宮くんの苦しみが少しでも取り除けるのなら、やらない手はない」
 きっぱりと言い切る凛は、静かな眼差しで私を見つめてくる。
「日常生活に支障を来すほどまともに眠れていないなんて、そんなんじゃ、いつ身体を壊すかわからないわ。やっとここに戻って来たのに、そんなの嫌でしょ? アーチャーも」
「ああ」
「だから、少しでも望みがあるのなら、私は試してみたいと思う」
「そうだな……」
 凛は、いつも衛宮士郎の味方でいてくれる。思えば、彼女にはずっと甘えていた。私も士郎も、彼女の心遣いの中で勝手な行いをしていたと思う。
「凛、その……、本当に君には、」
「口先だけの礼なんて結構よ。アーチャー、今度こそ衛宮くんをしっかり捕まえておきなさいよ! それで、嫌って言うほど、幸福を与えるの!」
 礼を言おうとすれば、キッパリと跳ね除けられ、さらに課題まで出されてしまい、ついつい苦笑いがこぼれてしまう。
「ああ、わかった。君に言われずとも、もうあんな思いをする気はない」
「ふふ、安心したわ。アーチャーがやーっと自覚してくれた。ほんっとに、あんたたち、二人して朴念仁なんだからー」
「朴念……、二人して? どういう意味だ」
 士郎ならばいざ知らず、二人とは、私も含めて、ということなのか?
「えー? わかるでしょー? アーチャーは士郎の気持ちに気づかないし、士郎もアーチャーの気持ちに気づかない。ほんっと、はたから見ているこっちの気にもなってみなさいよー」
 凛の言葉の意味がさっぱりわからない。何に腹を立てているのか、凛は……。
「なに、全くわかりませーん。みたいな顔してるのよ!」
「いや、全く――」
「あのねぇ! あんたが衛宮くんに対して特別な感情を抱いていることくらい、私にはお見通しなの! それに気づいていないのは、あんたと衛宮くんだけよ。でなきゃ、衛宮くんの“鍵”が開くわけないじゃない!」
 一気に捲し立てられ反論ができない。が、今、凛は、何か気になることを言った。
「鍵?」
「なに、すっとぼけてるのよ。衛宮くんから聞いたんでしょ? 記憶を戻すための鍵をつけましょって話。だから、朝は――」
「鍵とはなんだ? いったいなんの話だ?」
「あ、あれ? 聞いてないの?」
「何も聞いていないが……。鍵とは? ……い、いや、記憶を戻すために鍵をつける? ということは……、まさかっ?」
「え? ちょ、ちょっと、アーチャー? もしかして、なんにも、知らない?」
「凛、士郎の記憶は、戻っているのかっ?」
「ぅえ、ええっとぉ……」
 うろたえ方でわかる。図星のようだ。
「戻っているのだな?」
 確信を持って訊けば、凛はあらぬ方へ顔を逸らす。
「うぅぅ……」
「凛」
 低く促せば、
「…………そうよぉ」
 凛は観念した様子で白状した。
「戻ってるのよ、衛宮くんの記憶は! 見たでしょ、あの顔。なんとも思っていない奴に、あんな真っ赤になるはずがないじゃない」
「真っ赤? いつ、そんな――」
「はあ? 目の前にいたのに見ていないのっ? あんたに押し倒されて、首まで真っ赤だったじゃないの!」
「……そう、だったか?」
 そんなことを確認する余裕などなかった。ただ、私は士郎に弁解をしなければと、そればかりで……。
 驚かせるつもりも、怯えさせるつもりもなかったのだと、だから、逃げないでくれと言うつもりだったのだが……、まだ言えていない。
「はー……、ほんっと……、あんたたち、疲れるわ……」
 額に手を当て、大きなため息をこぼして、凛はいい加減にしてよね、と項垂れる。
「す……すまない……」
 つい謝ってしまう。彼女に無用の心痛を与えてしまっている気がして、本当に申し訳ない。
「衛宮くんは衛宮くんで、鍵にもならない“鍵”を設定しちゃうし、ほんとにもう、参っちゃうわ……」
 べたり、と凛は座卓に突っ伏す。
「凛、その“鍵”というのは、いったい……?」
「ああ、記憶を消すときにねー、衛宮くんと決めたの。私も他人の記憶を消すなんて横暴を働くのは嫌だったし、“鍵”をつけて、そのきっかけで記憶が戻るうようにしましょう、ってね。
 衛宮くんが決めた“鍵”なんだから、“鍵”が開いてしまっても自己責任ってことになるでしょ?」
「それで、納得したのか、士郎は」
「ええ。はじめは要らないって言っていたけれど、私の負担になるからって言えば、簡単に折れたわよ?」
「そ……うか……」
 士郎の記憶が戻るようにしてくれた彼女に感謝の気持ちはあるが、何やら士郎が不憫に思える。うまく言いくるめられたとしか思えない気がしないでもない。
「まあ、衛宮くんの設定した“鍵”はゆるゆるだったんだけどねー」
「ゆるゆる?」
「だって、衛宮くんを“アーチャーが抱きしめて士郎と呼ぶ”よ? 笑いそうになっちゃったわよー」
「な……んだ、それ……」
 思わず素に戻ってしまう。いったいどういう思考でそんなことを思いつくのか……。我ながら、いや、もう別の存在ではあるが、エミヤシロウはたいがい常軌を逸していると思わなくもない。
「それが、絶対に起こらないことだって思い込んでいるんだから、ほんとに衛宮くんって、鈍いわね」
「…………」
 私はなんと答えればいいだろうのか……。
 本当に鈍い奴だなと、凛と笑い合えばいいのだろうか……。
 まんまと士郎の設定した“鍵”と同じ行動をして、私はどんな顔で士郎に会えばいいのだろう?
 信じられない奴だ、と思われているのではないか?
 それとも、なんてことをしてくれたのかと、記憶が戻ってしまったじゃないかと、責められるのだろうか?
「アーチャー、あなた、もしかして、やらかしたーとか思ってるの?」
「い、いや、まあ、その……」
「そういうところよ、アーチャー」
「な、何がだ」
 目を据わらせた凛が、呆れた声で諭してくる。
「鈍いとか朴念仁とか言われる原因」
「っ……」
 反論ができなかった。



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 アーチャーが、帰ってこない。
 買い物に行くって言って出て行ったきり、昼になろうとするのに戻ってこなかった。
 俺が記憶を取り戻したこと、気づかれてしまっただろうか?
 遠坂が言うには、俺、真っ赤だったらしいけど、アーチャーは何も言っていなかった……。
 アーチャーにとっては忘れてほしい記憶なのに戻ってしまって、ほんとに申し訳ない。
「はぁ……」
「どうしました、シロウ?」
「え? あ、い、いや……」
「すみません、アーチャーを傷つけてしまって」
「う、うん、えっと、それは、アーチャーに謝ってあげたらいいんじゃないか? 俺に謝ったって、」