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サヨナラのウラガワ 11

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「シロウはアーチャーのマスターなのですから、私がシロウに謝るのは当然です。自身のサーヴァントを傷つけられれば、マスターは怒るのだと凛は言います。凛はいつも、私が傷つけば怒ってくれます。たいしたことのないかすり傷でも、心から怒ってくれるのです。こう言ってはなんですが、私はそれがとてもうれしいです」
 穏やかな笑みを見せてくれるセイバーは、本当に遠坂といいコンビみたいだ。同じマスターとサーヴァントっていう関係なのに、俺たちとは全然違う。少し羨ましい、なんて思ってしまう。
「シロウ、アーチャーはすぐに帰ってきますよ。そんなに心配しなくても、彼は小さな子供ではないのですから」
「はは、アーチャーが小さな子供って、想像できないな……」
 無理に笑ってはぐらかした。セイバーが気遣ってくれているのはわかっているのに、素直にその気持ちを受け取れない。
「シロウ、大河のところに行きませんか?」
「え?」
 突然の誘いに戸惑う。
「久しぶりなので、会いたいです」
「えっと……、い、いる、かな……? 日曜だし、たぶん、家にいると思うけど……」
「では、行きましょう!」
「え? わ、セイバー? ちょ、ちょっと、」
 セイバーに腕を引かれたまま居間にさしかかり、
「凛、大河のところに行ってきます」
「はーい。いってらっしゃーい」
「と、遠坂、悪い! 留守番――」
「アーチャーが帰ってくるかもしれないのよねー。心配しないで、ちゃーんと留守番しておいてあげるわー」
 テレビを見ながら、適当に答える遠坂に若干の不安を覚えたけれど、セイバーはぐいぐい俺を引っ張って歩いていってしまうから戻れない。抵抗することもできず、玄関を出て藤村の屋敷へと向かう。
「セイバー、藤ねえは、いないかもしれないけど、」
「大丈夫です。います」
「へ?」
「勘です」
 ずいぶん自信満々な勘だな、とつっこめないほどの確信をセイバーに感じて、たぶんこれは、王様のスキルってやつなんだろうと諦めの境地だ。
「シロウ、大丈夫ですか?」
「え? 何が?」
「記憶が戻ったのでしたら、また体調が悪くなるのでは?」
「あ……」
 家にいたからか、日本にいるからか、そのことをすっかり忘れていた。
 大丈夫、だろうか?
 藤村の家の人たちは他人とは違う。だけど、“俺”がこの家に来るのは五年ぶりだ。知らない顔が増えていてもおかしくはない。
 思わず、ぐ、と歯を食いしばる。
「無理なようでしたら、すぐにお暇しましょう。確かに日本に来るのは久しぶりで、大河の顔を見ておきたいですが、貴方の体調を悪くしてまでとは思っていません」
「だ、大丈夫だよ、セイバー。そんなに気遣ってくれなくて。だって、これから俺はこのまま生きていくべきなんだからさ」
 やっぱり、あの術を遠坂に頼むのはダメだと思う。何度も遠坂に無理をさせるわけにはいかない。
 俺の記憶を消した次の日、遠坂は調子が良くなさそうだった。部屋からはほとんど出てこなくて、横になっているとセイバーが言っていた。
 遠坂が部屋から出てきたのは夕方で、その日の夕食はスープしか口にしていなかった。
 セイバーはもちろん、アーチャーも心配そうに遠坂を見ていた。きっと、アーチャーは後悔していたはずだ。俺の記憶を消すなんて提案をしたことを。
 だから、二度と遠坂には頼めない。もし、どうしようもなくて記憶を消さなければならなくなったら、絶対に遠坂以外の人に頼む。
 いや、そんな、誰かに頼ることばっかりを考えていてどうするんだ。克服すればいい話じゃないか。俺が自力であの症状を抑え込むんだ。そうしなければ、いつまで経ってもアーチャーに、好きに生きてもらうことなんてできない。
 そんなささやかな決意を固めながら、藤村邸の門前に立つ。大門の扉は締め切られているから、いつものように脇の小門を潜った。



「よかったわね、士郎」
「え? 何が?」
 セイバーを連れてきたことがそんなにうれしかったのか、藤ねえは、ずっとニコニコしていた。日曜だからいるだろうと思っていた藤ねえは、居るには居たが和室でゴロゴロしながらテレビを見ていた。
 もうちょっと、さ……。
 藤ねえもいい年なんだから、そろそろ結婚とか考えないんだろうかなんて、心配することすら大きなお世話だって怒られそうだ。
 だから、喉まで出かかったいろんな言葉を飲み込んで、セイバーと一緒に茶菓子と緑茶をいただいた。もちろんお茶を淹れたのは俺だけれども……。
「何って、アーチャーさんが帰ってきて! もー、ほんっとに、すっとぼけちゃってー!」
 藤村の爺さんと何やら話し込んでいるセイバーを室内に残して、藤ねえは俺を誘って縁側に出てきた。そうしたら、そんなわけのわからない話をしてくる。
「えっと……、なに? なんのことだよ、藤ねえ?」
 困惑しながら訊き返す俺に、藤ねえは、にまり、と不穏な笑みを浮かべる。
「わかってるくせにー」
 この、このー、って肘で俺をつっついてくるけど、全く見当がつかない。
「だ、だから、なんのって、」
「はー、士郎ってば、やるときはやるのねー。卒業式のときに言ってたこと、ほんとに実現するなんてねー! あのときは全然思わなかったわよ!」
 卒業式?
 それって、俺じゃなく、アーチャーが俺でいたときのこと、だよな?
「ほらー、アーチャーさんが、急にいなくなったじゃない?」
 そうか。俺がアーチャーと入れ替わって座に還ったから、急にアーチャーがいなくなったことになっていたのか。
 俺の代わりにアーチャーが高校を卒業してくれたんだよな……。
 今思えば、アーチャーには酷なことをさせてしまったと思う。英霊のアーチャーに高校生だなんて、ずいぶん無理をさせただろう。なにせ、俺を殺したいほど憎んでいたんだ。そいつになりすまして何食わぬ顔で過ごすことが、どれほど難しいことか……。
「士郎がね、絶対に連れ戻すって言ったときねぇ、ああ、士郎は大人になったなーって思ったのよー。無理だって簡単に諦めないで、真っ直ぐに前を見据えているってわかって、おねえちゃん、うれしかったんだからー」
「…………」
 思わず絶句してしまう。絶対に連れ戻す、だって……?
「ほら、士郎はずーっと、お留守番だったじゃない。切嗣さんが仕事で何か月も帰らないことって普通だったから、士郎はまた待つだけなのかと思っていたの。それが、連れ戻すって。ねえ!」
 藤ねえはうれしそうに、俺であって俺でなかったときの、アーチャーのことを話している。
「遠坂さんとロンドンに行っちゃって、おねえちゃんは寂しかったけど、時々帰ってくる士郎の目は、いつもアーチャーさんを追っていたのよねー」
「え? ちょ……っと、そ、そんな……」
 そんなの、聞いてない。
 そんな、一生懸命だったなんて、聞いてない。
 あ、でも、遠坂も同じようなことを言っていた気がする。俺の身体と魔術回路をストイックに鍛えあげたんだって……。
「…………」
 いやいや、勘違いをしてはダメだ。アーチャーは俺を連れ戻して、アーチャー自身の身体になることが目的のはずだったんだから……。
 でも……。