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サヨナラのウラガワ 11

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 たかだかそんな理由で五年以上も、この広い世界の、どこに現れるかもしれない一人を探し続けるのか?
 現れない可能性の方が高いっていうのに、探し続けた?
 この身体のまま、死ぬまで普通の人間として生きることだってできたはずだ。
 その方が楽だし、守護者なんてものを続けたアーチャーにとっては、ほんとに僅かだけど、息抜きができるチャンスだっていうのに……?
 そんなバカな、と思う反面、少しずつ千々になっていた、か細い糸が繋がっていくような気がする。
「……そんなに、俺…………、必死だった?」
「そうねー、周りが見えていないくらいには、ね」
 優しく笑う藤ねえの顔が滲んでいく。
 どうして俺、泣いているんだろう……?
「そっか、俺……、必死だったんだ……」
 頭を撫でてくる藤ねえに、子供扱いするなって言いたいのに、言えなくなった。ひっきりなしにしゃくり上げて、ほんとに子供みたいに泣いてしまっていた。
 はっきりした理由はわからないけれど、アーチャーは自分に課せられた運命(さだめ)を俺に渡してしまったって責任感で俺を探してくれていたのかもしれない。
 俺を元に戻すためにアーチャーは必死になったんだろうか?
 自分が休息を取ることよりも、俺のことを優先してくれたんだろうか?
 うれしいけれど、そうなのだとしたら、申し訳ないことをした。俺の勝手な思いつきで、アーチャーは面倒ごとを引き受けざるをえなくなったんだから……。
「ねえ、士郎。大好きな人とは、もう二度と離れちゃダメよ?」
「え……?」
 藤ねえは、何を言っているんだ?
「好きなんでしょ? アーチャーさんのこと」
 なんで、そんな話になっているんだ?
 俺、一言もそういうことは言っていない。遠坂とセイバーにはバレていたけど、藤ねえには、何も……。
「おねえちゃんには、わかるのよー。士郎がどんな目でアーチャーさんを見ていたのかくらい」
 片目を瞑って、にっこり笑う藤ねえは、揺るぎない確信を持っているみたいだ。
「そ、……そんなに、俺、わかりやすい?」
 ヒクつく喉をどうにか宥めながら訊けば、藤ねえは大きく頷く。そっか、俺はわかりやすいんだ。
 なのにさ、アーチャーには通じないんだよな……。
 ああ、違うか。通じているけど、それをどうこうしようってアーチャーは思わないんだった、迷惑な気持ちだから……。
「誰にも言っていないから、安心しなさい。士郎がオープンにしたいと思うまで黙っているから。おねえちゃんは、いつだって士郎の味方なのよ?」
「い、いや、味方とか、そういうのは、求めてないし、そもそも、俺は――」
 慌てて否定しようとすれば、
「みなまで言わなくても、大丈夫! おねえちゃんは驚いているだけで、反対とかしないからね! 一番大事なのは、士郎が幸せであることなんだから!」
「しあわ……せ……?」
「そうよー。士郎はずーっと、一人で我慢していたでしょ? だから、今度はきちんと幸せになるの。ね?」
「…………」
 なんだか、面と向かってそんなことを言われると恥ずかしくなってしまう。セイバーが藤村のじいさんとお茶菓子に夢中でよかった。聞こえていたら、と心配したけど、こっちのことは全然眼中にないみたいだ。
「あ、ありがと、藤ねえ」
 お礼だけは言っておきたい。たった一人であっても応援されることは素直にうれしい。だけど、それを願うわけにはいかないんだ。俺の幸せがアーチャーの幸せとは限らないから。
 いや、そもそも、アーチャーは俺の傍にいても喜ばないんだから、藤ねえの希望は叶えられない。
 藤ねえに認められていても、応援されていても、どのみち先のない話なんだ。藤ねえがいろいろ期待する前に、きちんと無駄なことだって言っておかないとな。
 アーチャーには好きな女(ヒト)がいるんだし、俺との繋がりなんて、マスターとサーヴァント以外の何でもない。
 藤ねえの誤解とか勘違いを正して、何か画策される前に帰ろう。そろそろアーチャーも帰ってきたかもしれないし、夕飯も作らないといけないし……。
「藤ねえ、そろそろ、」
「士郎」
 急に真面目な顔、しないでほしい。
 叶えようとしたらダメなんだ、俺の幸せなんて。だって、アーチャーにとっては迷惑でしかない気持ちなんだから……、消し去ってしまいたいと思うような気持ちなんだから……。
「士郎、気持ちに嘘を塗り重ねちゃダメよ」
「…………」
「士郎がどんなふうに誰を好きになろうと、誰にも咎められることじゃないのよ。セイバーちゃんも遠坂さんも桜ちゃんも、それに、アーチャーさんも、士郎が好きだと思うことを否定はできないの」
「……アーチャー、も?」
「そう。アーチャーさんも士郎の気持ちを笑ったり責めたりはできない。まあ、アーチャーさんはそんなことしないわよ、士郎よりも大人なんだから。そのくらいのこと、わかってるはずよー」
「……そんなの、わかんないだろ」
「それは、きちんと訊かないからじゃない?」
 ぐ、と詰まった。確かに、アーチャーに俺のことをどう思っているかなんて訊いたことがない。
 だって、好きとか嫌いとかそういう感情が湧く以前に、殺気を山ほどぶつけてくる不穏な奴っていう情報で占められていたんだ。そんなアーチャーに何を訊けるっていうんだよ……。
 だけど、それでも憧れた。理想を叶えた姿に、ただただ俺は、焦がれるだけだった。それから、気づけばいつも目で追っていて、そのうちに好きだなと思うようになっていた。この想いが不毛なものだと思いはじめたのも同じ頃だったと思う。
「こんなのさ……、迷惑だろ、絶対」
「そーかなぁ?」
「他人事だと思って……」
「ふふ。士郎がなーんにも知らないだけなんじゃない?」
 藤ねえは、何か知っているふうなことを言う。
 この五年くらいの間にアーチャーは藤ねえと何か話したんだろうか?
 いや、でも、俺の姿なんだから、アーチャーとして藤ねえと話をすることなんかできなかっただろうし……。
「士郎はまた、外国に行くんでしょ?」
「え?」
「いつもそうじゃない。家に帰ってきたらバイトして、お金が貯まったら外国に行って……。次は、いつ会えるかわからないでしょ? だから、士郎が幸せな姿を少しでもいいからおねえちゃんは、見たいの」
 少し寂しそうな笑みを浮かべられて、どうすればいいかわからない。
「そ、れは……」
 幸せな姿って言われても、藤ねえの思い描くようなことは何もないし、そんな事態になんて絶対にならない。
「ごめん、藤ねえの期待には――」
「応えろ、なーんて言わないわよー。士郎は昔から、おねえちゃんのことなんて、忘れてるものねー」
「わ、忘れてなんて……」
「いいの、忘れていても。ただ、士郎が心のままに生きているのなら、おねえちゃん、文句なんてないんだから!」
「藤ねえ……」
「だからね。どんなに見込みが薄くても、始まる前から、踏み出す前から、諦めたりしないで」
 頷くこともできずに、視線を落とした。
 諦める以外の選択肢なんかないんだって、藤ねえにどう説明すればいいんだろう。俺のことをこんなにも心配して応援してくれる藤ねえには悪いけど、本当に見込みすらないんだ。だから、
「考えてみるよ……」