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サヨナラのウラガワ 11

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 凛は私の返答に納得したのか、晴れやかな笑みをくれ、セイバーはキリリとした顔で、頑張ってください、と気合を入れてくれた。



Back Side 31

「士郎」
 障子越しにかけられた声に覚醒する。士郎は机に突っ伏してうたた寝をしてしまっていた。
「士郎?」
 返事がないことを怪訝に思ったのか、再びアーチャーの声が聞こえる。
「あ、は、はい、は……、あ、えと……」
 思わず返事をしてしまったが、何を言えばいいかわからず口籠る。
「入ってもいいか?」
 許可を取ってくるアーチャーを本当は拒みたかったが、いいよ、と士郎は答えた。
 静かに障子が開き、片手に盆を持ったアーチャーが入ってくる。
「明かりも点けずに……、寝ていたのか?」
 呆れた口調とともに照明が点き、士郎は眩しさに思わず目をしかめた。
「腹が減っただろう? セイバーがおかずを平らげてしまってな、おにぎりくらいしか……、士郎?」
 障子の前に立つアーチャーを、じっと見つめていたからか、アーチャーは首を傾げている。
 ――――好きだなぁ……。
 改めて士郎は思う。
 苦しいからやめたいと何度も思ったというのに、この気持ちは消えるどころか、常に増していく。先の展望などなく、諦めるという選択しかないというのに、いっこうに諦められないでいる。
 けれど、もうアーチャーとの契約を続けるわけにはいかない。凛の言った通り、英霊を自分の勝手に付き合わせていい道理などないのだ。
 ――――だけど……。
 その前に、士郎はきちんと話さなければならない、と思い至った。侮辱するつもりはなかったが、結果的にそういう気分にさせてしまったことを謝らなければならない、と。
「アーチャー……」
 いまだ、士郎の部屋に一歩踏み入った所で突っ立っているアーチャーを、姿勢を正して見上げた。
「士郎?」
 正座して真っ直ぐに見つめる士郎に、アーチャーは少したじろいだように見える。
「ごめん」
「なん……だ、いきなり」
「俺、アーチャーを侮辱するつもりなんてなかった。ただ、その……、引き留めた瞬間(とき)は、ほんとに何も考えられなくて、アンタを咄嗟に繋ぎとめたんだ。でも、それから、アンタと過ごしていくうちに、だんだん、……その、好きに、なってしまった。ごめん、気持ち悪いよな。アーチャーは嫌悪感でいっぱいだってわかってたけど、その、隠したりとかできなくて、アンタにバレて、アンタが気を遣って恋人ごっこに付き合ってくれて……、ほんと、俺、いくら謝っても足りない……」
「なぜ、謝る必要がある。お前は――」
「謝らなきゃ、ならないだろ! アンタを無理に引き留めて、アンタの意思なんて無視して、俺が勝手なことばっかりして! なのに……、なんで、そうなんだよ……」
「士郎?」
「なんで! 付き合ってられるかって、突き放さないんだ! 俺の戯言なんか、聞く必要ないだろ! どうして、俺を受け入れようなんて、考えたんだ!」
 肩で呼吸を繰り返し、士郎はなぜこんな不満めいたことをアーチャーにぶつけているのかと、混乱してきてしまった。
「……っ、ごめん! 違う、そうじゃ、なくて……っ、」
 何度も頭を振り、今アーチャーにぶつけた言葉を否定する。そして、
「もう、やめにするよ、アーチャー」
 震えてしまう声が情けなくて俯く。
「やめにする、とは……、契約を解消する、ということか?」
 静かな問いかけが、胸に突き刺さる。頷いたと同時に雫が膝に落ちた。
「……わかった。お前の好きなようにしろ。ただ、その前に訊きたいことがある」
 声が出ないので、士郎は答える意思があることを頷きで示した。
「私を引き留めた理由は、今ならば、わかるのか?」
 アーチャーの質問の意図はわからなかったが、士郎は息を整え、声を絞り出した。
「さっき言った通り、アンタを、好きになったから……だと思う。初めからじゃなくて、ああ、いや、たぶん、好きだったんだろうな、自分では気づかなかったけど……」
「……もう一つ。あのとき、なぜ、代わってやる、などと言った?」
 改めて訊かれて、士郎は消え入りたい衝動に駆られる。今思い出してもおこがましいと思う。あのときの士郎は、自分がどれほど浅い考えしか持ち得ないかを知らなかった。
「……少しでも、休めたらなって、思ってた」
「…………それは、……どういう意味だ」
「ここにいる間の記憶なんて、座に還れば一瞬にも満たないような記録になってしまうことはわかっていたけど……、それでもいいから、アンタが普通の人間のように過ごせたらって……、もう輪廻の枠には戻れないのなら、一時的だとしても、人として過ごせたらって…………。そんなの、いい迷惑だよな……、こんな施しみたいなお節介、ほんと、大きなお世話だって……。
 ……っ、それで、俺が媒介になって、アンタが小さな幸せを得るとか、そんな優越感を、得られるなんて、って……、俺は……身勝手な夢を、見たんだ……」
 裏側に隠したすべてを吐き出してしまえば、もう嗚咽しか残らない。何度もしゃくり上げた士郎は、時折咽せて、小さな子供のように涙が止まらなかった。
 何も言わないアーチャーが怒っているのか、それとも呆れているのかはわからないが、すべてはもう終わったことだと、士郎は諦めがついている。今さら取り繕うこともないので、涙は止まるまで放っておくことにした。
 今すぐに契約を解消するのか、それとも一発くらい殴られるのか、凛に別れを言う時間を作れと言われるのか、様々考えようとしてみたものの、士郎が特に何かをしなければならないわけでもない。ただ、アーチャーの言うことに従うだけだ。
 少し士郎の嗚咽がおさまってきた頃、言葉もなく突っ立っているアーチャーに動きがあった。こちらに歩み寄ってくる気配がする。
 とりあえず殴られるのだろう、と士郎は心の準備を整え、身構えた。
 すと、と膝が触れるくらいまで近くに片膝をついたアーチャーは、盆を畳の上に置く。その様を下を向いた視界と気配で感じていれば、そっと頬に触れてくる、温かい手……。
 思ってもいない状況に、士郎は肩を震わせてしまう。
「……たわけ」
 静かな声に疑問を感じながら視線を上げれば、目の前にアーチャーの顔があった。ぶわっ、と一気に熱が上がる。
「あ、あのっ、」
「士郎、お前はいつも、泣いていたか?」
 いつも、というのがどの程度のことをいうのかがわからず、小刻みに首を横に振って否定する。
「本当か?」
 泣いたことがないとは言えないが、それほど頻繁なことではない。したがって、念を押して確認するアーチャーに、ためらうことなく頷いた。
「そうか」
 覗き込むように近づいていた顔を少し離し、アーチャーは浮かせていた腰を下ろした。
 ――――ち、近い……んだけど……。
 机を背にした士郎の真正面にアーチャーは陣取っている。逃げ道を塞がれている気がしてしまい、士郎は落ち着かない。
「あの、」
「記憶が戻ったのだな」