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長き戦いの果てに…(改訂版)【2】

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 あまりの事に声も出ず、暗闇の中でなす術もなくうつむいて座り込んでいると、また誰かの近づく気配がした。
「隊長?隊長じゃありませんか、なぜこんなところに……」
 またさっきのような目に遭わされるのかと怖気をふるったが、思い切って顔を上げると、見知ったどころか軍で長く苦楽を共にした懐かしい顔がそこにいた。
「ハンス、ハンスじゃないか!──どこに行ってたんだ?心配したんだぞ、急に居なくなるから!」
──俺は何を言っているのだろう?ハンスは死んだ筈じゃないのか?
「……ああ、隊長、ご心配をお掛けして済みませんでした」
「何だ?今日は馬鹿に殊勝じゃないか、お前の口からそんな言葉が出るなんて気持ち悪いな」
「そう言わないでください、俺だっていつまでもガキじゃないすよ」
 ハンスが苦笑する。気が付くとそこは見慣れた基地の中だった。いつの間に帰ってきたのか。俺は負傷して入院してたはず……
 夢でも見ていたのだろうかと意識の片隅でぼんやり考える。
その一方で今の状況をすんなり受け入れて、ハンスと当たり前の様に言葉を交わす自分がいた。
「お前、入隊してきた時はほんとに手に負えない悪ガキだったな。よくこんな立派な兵士になったもんだ」
「隊長、その話はもう勘弁してくださいよ」
「なに言ってるんだハンス!お前にはずいぶん苦労させられたもんだ、そう簡単に忘れやしないぞ」
長身のルートヴィッヒが立ち上がってもなお見上げるほど背が高い部下は照れくさそうに笑った。
短く刈り揃えた黒髪に黒い瞳、彫りが深くてやや厳つい、いかにも軍人らしい顔つきをした青年だが、今は子供のような笑みを浮かべ、にこにこしながらこちらを見ている。つられてルートヴィッヒも笑みがこぼれた。
 ハンスはルートヴィッヒが自ら鍛え上げた自慢の部下の一人だ。
恵まれた体格を生かして鋼の肉体を作り上げた彼は、格闘技の第一人者でもある。武器の扱いにも優れ、とっさの判断力も申し分なく、安心して背中を任せられる数少ない第一級の兵士だったが、ルートヴィッヒは彼が入隊したばかりの頃を思い出していた。
──あの時俺は思ったもんだよ、ハンス。手に負えない奴は皆、俺に押し付けるのか上司のやつ!ってな。
 ハンスは自らの意思で入隊したわけではない。
手に負えなくなった父親が無理やり軍隊に放り込んだのだ。当時の彼は酷く荒み切った状態にあった。
 父親は名うての企業家であり金銭的にはかなり恵まれた生活だったが、父親はほとんどハンスを顧みることがなく、愛情には恵まれない家庭だった。
 彼を愛し慈しんでくれるはずだった母親は、病弱だったこともあってかハンスを生んだ後ついに回復することなくこの世を去った。
父親はその後、亡き妻に似た美しい金髪の女性を娶った。この男にはもったいないような思いやり深い人で、夫の二人の連れ子も実の子の様に愛しんで大切に育ててくれた。
ハンスに何の落ち度があるわけでもなかったが、出産で妻が亡くなった事にこだわっていたのか父親は彼に目もくれず兄だけを大切に育ててきた。兄が母親によく似た金髪で青い瞳だったのも影響があったかもしれない。
兄は母親に似てやや病弱だが学校の成績も優秀で人当たりも良く世間の評判も良かった。幼い頃から何かにつけて弟を気に掛け大切にしてくれた優しい人だったが、ハンスにしてみれば立派過ぎる兄が疎ましく思えることもあった。
父親にとっては体格が良いだけで取り立てて才能もない次男など優秀な長男の前にはいないも同然、最初から関心の埒外だった。
 父親の期待を一身に背負っていた兄が突然の病で亡くなると、かろうじて保たれていたこの家のバランスはもろくも崩れ去った。父は残った家族を大切にするどころか酒浸りになって家に帰らなくなり、たまに帰宅しても酔って妻や息子に暴力を振るうようになった。
 じきに義母は自身の兄によって実家に連れ戻され、ハンスは唯一の庇護の手を失った。その後は家にも寄り付かなくなり悪い仲間と付き合い始めるようになる。
家の金を持ち出しては飲む打つ買うの自暴自棄な生活を繰り返した挙げ句、麻薬に手を出して警察の厄介になる羽目になった。
 ここに到ってハンスには無関心だった父親も世間の手前放置するわけにもいかず、何らかの手を打たざるを得なくなった。そこで思いついたのは軍隊に入れることだった。手に負えない放蕩息子でも軍隊なら何とかしてくれるだろうと。その先はどうなろうと知ったことかとばかりに父親はハンスを軍に放り込んだ。
 当時の軍は拡張政策の真只中にあり、多少の問題がある者でも《駒》はひとつでも多いに越したことはないという方針だったので簡単に入隊することができた。もっとも札付きのワルだった彼を軍にねじ込む為に父親も多少の出費はしたかもしれないが。
 入隊したばかりのハンス少年は背が高いのだけが取り柄だった。やせっぽちでヒョロヒョロな上に酒と麻薬でぼろぼろ。ちょっと走らせただけで倒れてしまう。おまけに異常に切れやすく、頻繁に揉め事を起こして営倉入りしていたが反省する気配もなく、鬼のルートヴィッヒ隊長ですら頭を抱える問題児だった。
 そんなある日、事件は起こった。ハンスが質の悪すぎる『おふざけ』をやらかしたのだ。
 居合わせた者にとって、この一件は死ぬまで忘れられない出来事になった。
 それは初めての射撃訓練の日。訓練生たちは実弾を使った射撃の初体験に興奮気味だった。銃の整備を済ませ、実弾の装填をしている最中、ハンスがいきなり弾倉を引き抜いた銃を自分のこめかみに当ててワル仲間たちを挑発し始めた。
「ロシアンルーレットだ、賭けないか?引き金を引いて俺が死んだらお前らの勝ち、弾が出なけりゃ俺の勝ちだ。さあ、いくら賭ける?」
 これにはさすがのワル仲間も腰が引けた。
「できるわけねえだろ、本当に死んじまう」
 ハンスは鼻で笑った。
「ふん、馬鹿言うな。弾倉は抜いてあるんだ。弾が出るわけないだろ?」
「それだったら、お前が勝つに決まってんだろ、バカバカしい」
「もちろんだ、そう思うんなら代わってもいいぜ。お前がこの銃を自分の頭に当てて引き金を引くってのはどうだ?」
「な、何だって?!ふざけんなよ!」
「弾は出ないって言ったのはお前だろ、そんな度胸もないのかよ」
「調子に乗りやがって!お前だってどうせ出来やしないくせに」
 ハンスは銃を自分のこめかみに当てて引き金に指を掛けた。
「それじゃ、やって見せようか。ここからが本番だ」
「……お、おい、本気か?!」
「や、やめろ……ふざけんなっ!」
 さすがの悪ガキ共も顔色を変え、後じさりし始めた。
「お、俺は関係ねーぞ……」
 ハンスは不敵な笑みを浮かべたまま、引き金にかけた指に力を込める。
「やめろ、ハンス!」
 近くにいたヨハンがハンスの手を掴んだ。
「冗談でも、やっていいことと悪いことがあるぞ!」
「離せよ、この野郎!」
「離すもんか!」
 二人は揉みあいになった。
「いい子ぶりやがって、隊長の腰巾着が!」
「……何だと?!」
「夕べも隊長に散々かわいがってもらったんじゃないのかぁ?この×××で、×××な×××野郎!」