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長き戦いの果てに…(改訂版)【2】

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窓の外には雨雲が重く垂れ込めて薄暗い空が一段と暗さを増している。雨は少し小降りになったらしいがまだ時おり遠雷が聞こる。カーテンの隙間からわずかに見える灰色の空には時おり稲光が閃いた。
フェリシアーノは病人を疲れさせてしまったかと心配になり、帰ろうと思ったが、思いがけずルートヴィッヒがまた話し始めた。何か考え込むように、目を閉じたままで。
「……なあ、フェリシアーノ……知ってるか?」
「何を?」
何気なくそう聞いた。次にどんな言葉が来るかなんて想像もつかなかったから。
「俺たちは……死んだら、どうなるのか──」
フェリシアーノは凍り付いた。
「……なっ、何でそんな──」
息を呑んでルートヴィッヒの顔を見つめる。
 降り続いていた雨がいつの間にか止んで、あたりは静まりかえっていた。誰も知らない間に全ての世界が、音もなく柔らかな闇の底に沈み込んでしまったように。
圧倒的な沈黙の中、カーテンの隙間から閃いた稲妻に照らし出されたルートヴィッヒの姿はフェリシアーノの心臓を凍りつかせた。
さっきまでは少し苦しそうではあるものの、しっかり起きて話していた。だが今は死んだように目を閉じ、ぐったりと背もたれに沈み込んでいる。
色もなく目の前に浮かび上がった光景は、彼の不吉な言葉と相まって「悪夢」というタイトルの一枚の絵画のようだった。フェリシアーノは恐怖に駆られ、途切れ途切れの叫びを上げた。
「い、嫌だっ!──な、何で……何でそんなこと言うのさ!」
静かに開いた水色の目は平板で何の表情も浮かんでいない。フェリシアーノの方を見ると、何ごともなかったかのようにかすれた声でまた話し始める。
「……俺たちは……国が、ある限り……死にはしないさ……たぶんな」
青白くやつれた顔をしているのに口元には安らかな微笑みさえ浮かべて。
「じゃあ、何でそんなこと──」
フェリシアーノは怯えていた。何を言おうとしているのか分からない。想像するのも怖い。
「……もし…この肉体が滅びたら──」
ルートヴィッヒはふっと遠い目をした。
ごくりと喉が鳴る。フェリシアーノは息を呑んで次の言葉を待ち受けた。
「俺は……歴史という名の…記憶を受け継いだだけの……別の人間に……生まれ変わるんじゃないのか……」
その瞬間、耳をつんざく轟音と共に目も開けていられない程の凄まじい稲光が部屋の中を真っ白に変えた。さっきまで止んでいた雨が再び激しく降り始めた。今度は凄まじい風を伴って嵐になり轟々と唸りを上げて窓を叩きつける。
「そ、それは──」
口を開きかけたが何を言っていいのか分からずフェリシアーノは口をつぐんだ。ルートヴィッヒがどうしてそんな事を口にするのか理解できない。でもその意味を問いただすのはもっと恐ろしいことに思えた。
心はどこかあらぬ場所を彷徨っているのか、ルートヴィッヒの目は虚ろだった。彼が今にもどこかへ消えてしまいそうな恐怖と不安で、フェリシアーノは押しつぶされそうになった。その時、彼がまた何か話し始めた。
こちらの存在はすでに眼中にないらしい。虚ろな目で、あらぬ方を見ながら掠れた声で呟いている。
「……俺は…あの時……どうして──」
その時また近くに雷が落ちた。つんざくような雷鳴と稲光。フェリシアーノは何も見えず何も聞こえない真っ白な世界に包まれた。その空白の世界から、もう二度と出られないのではないかと思えたのはなぜだろう。……
しばらくしてから恐る恐る目を開けると室内は再び薄暗くなっていた。土砂降りの雨が激しく窓を叩いている。
ルートヴィッヒはいつの間にか意識を失ってぐったりしていた。微かに息はしているものの酷く苦しげだ。
「──ル、ルートっ!大丈夫?しっかりして!」
フェリシアーノは背筋が凍りつくような思いで、あわてて部屋の外にいたヨハンを呼んだ。
「ヨハン助けて!ルートが!──早く先生を呼んで!」
「どうしたんですか!」
あわてて部屋に飛び込んだヨハンは、病人の様子を見るなり顔色を変えた。
「隊長!大丈夫ですか、しっかりしてください!」
呼びかけたが反応がない。青ざめて目を閉じたまま、ぜいぜいと苦しそうに早くて浅い呼吸を繰り返している。
「すぐに先生を呼んできます!ヴァルガス君はここにいて、隊長の様子を見ていてください!」
ヨハンがそう言いながら慌てて部屋を後にすると、部屋にはまた二人が残された。
「ルートお願い、しっかりして!戻ってきて…俺を置いてっちゃやだよぉ……!」
フェリシアーノは泣きながら、苦し気に喘ぐルートヴィッヒの手をしっかりと握りしめた。今できることはそれしかなかった。
「ルート…さっき何て言ったの?……ねえ、俺の……気のせいだよね?」
フェリシアーノは声を潜めて呟いた。
「……言ってないよね?……俺はあの時、どうして死ななかったのか、なんて──」
ルートヴィッヒの手をしっかりと握りしめて、フェリシアーノは祈る様に目を閉じた。

永遠に続くかのような数分間が過ぎた後、ヨハンがようやく軍医と看護師を連れて戻って来た。
「脈拍──、呼吸は…!」
「──酸素吸入を早く!」
病室がにわかに慌しさに包まれる。
「君、じゃまだよ、離れて!」
そう言われてベッドの側から引き離されると、フェリシアーノはショックでぼうっとなってしまった。音も光も歪んで世界が灰色に霞んで溶けていくような感じ……目の前で展開している出来事が遙か遠い世界の出来事のようにしか見えない。まるで悪い夢を見ているようだ。
夢なら醒めて欲しいと思ったが、それはどうすることもできない現実だった。
──ルート、どうしてなの?一体何があったの?教えてよ、俺に出来ることはないの?
閉じられた世界の中でひとり必死で問いかける。だが何も答えるものは何もない。
──ルートが何をしたって言うの!神さまはどうして助けてくれないの?
もう大切な人を無くすのは嫌だ!
あんなこと、もう二度と!
もし彼が死んだら……きっともう……

「しっかりして、ヴァルガス君!」
呆然としているフェリシアーノに気がつき、ヨハンが慌てて呼びかけた。
「大丈夫?」
フェリシアーノの肩を掴んで軽く揺さぶる。
「……あ、ああ…ヨハン?」
目の焦点がようやく合ってきた。
「大丈夫、隊長は今まで何度もこんな危機を乗り越えてきたんだ。今度もきっと無事に戻って来てくれるはずだから──」
ヨハンの目が赤く潤んでいた。口元も苦悩に歪み、震え、フェリシアーノを力づけるというより、むしろ自分に言い聞かせようとしているようだった。震える黒い瞳の奥に映っているのは引き裂かれるような痛み。
フェリシアーノは突然気が付いた。
立場は違ってもルートヴィッヒを思う気持ちは同じ。同じ人を同じように愛する気持ちは二人共変わらない。彼もルートヴィッヒを心から大切に思っているのだ。愛する人……いや、血の繋がった家族を思うように。
「……うん、そうだね。きっとルートは大丈夫だよ、ヨハン」
自然と出た言葉だった。自分も彼を励ましてあげたい、そうしてあげなくちゃ、そう思ったのだ。自分自身も恐怖と不安とで蒼ざめ、唇は震えていたが、何とか微笑もうと精いっぱい努力した。
「──俺も、信じてるから…ルートのこと」